絵本探求講座第3期(ミッキー絵本ゼミ)   2回目 振り返り(5月28日)

コールデコット賞とは
アメリカ図書館協会が1938年から毎年授与している、前年にアメリカで出版された子ども向け絵本のうち「もっともすぐれた作品」を生み出した画家に与えられる賞である。

わたしの選んだ絵本「ゆきのひ」
   
エズラ・ジャック・キーツ ぶん・え
   きじま はじめ やく
   偕成社 1969年出版
   1963年 コールデコット賞受賞
内容:夜じゅう降った雪が、一面を覆った冬の朝。マントを着て外に飛び出したピーターは、真っ白な雪の上に足跡をつけたり、木の上に積もった雪を棒でつついて落としたり、雪の山を滑り降りたりして存分に遊びます。夜、おひさまが雪をすべて溶かしてしまう夢を見ましたが、実際には翌日になっても雪は残っていました。ピーターは、今度は友だちと一緒に、深く積もった雪の中へ出かけていくのでした。雪を目の前にした子どもの驚きと喜びを、切り絵や水彩、コラージュといった手法で美しく描いた名作です。特筆すべきはやはりその色調でしょう。冷たさ、静けさを感じさせる青みがかった雪、ピーターの全身を包む真っ赤なマント、空の青やカラフルな外壁の色…鮮やかな色彩が、ピーターの心躍る一日を生き生きと表現しています。
(ピーターは3~4歳)
時代背景
1964年に「人種差別撤廃法」成立


なぜ、この絵本を選んだのか?
 以前より、読み語りをしていた絵本であり、
 主人公ピーターの純粋な気持ち、雪遊びを楽しんでいる様子が
とても魅力的に表現していると感じていた。
 ゆきのひが好きになる絵本、ポケットに入れていたゆきだんごがとけていたというなんとも可愛らしい話です。
 黒人の子どもが主人公であることにも惹かれました。

作者 キーツについて
・1916年生まれ ポーランド系ユダヤ人
・移民の子としてニューヨークのブルックリンの貧民街に生まれ育った。
・家族はとても貧乏でした。
・病弱で早くから絵に親しみ4歳ごろから描いた。
・公共図書館で芸術について学んだ。
・中学卒業時に絵を描いてメダルを受けとった。
・高校の時、放浪者を描いた油絵で、スコラスティク社主催の全国コンテストで優勝した。
・キッチンテーブルに絵を描いた。母親はその絵をみてキーツの絵を承認していた。
・父親は絵描きになることを反対していた。が、メトロポリタン博物館につれて行ってもらったことがある。物々交換で絵具や絵筆を持って帰ってきていた。亡くなった父親の札入れの中にキーツの賞をとった新聞の切り抜きが入っていた。
・父親の死で、美術学校に通う夢は絶たれた。
・兵役に徴兵(1943年~1945年)
・反ユダヤ主義の偏見に反発し、名前を変更する。(旧名:ジェイコブ・エズラ・カッツ)
・イラストを描くようになり、1950年、1954年に展覧会開催。
・他の著者が描いた約70冊の本のイラストを描いている。
・ピーターを主人公にした絵本は「ゆきのひ」以外では、以下4冊ある。
「ピーターのくちぶえ」1964年:子どもが新しい能力を獲得していく姿を描いた。
「ピーターのいす」1967年:ピーターに妹が生まれる、兄としての成長を描いた。
「ピーターのてがみ」1968年:異性を意識し始める姿。
「ピーターのめがね」1969年:1970年コールデコット賞オナー賞受賞
・1983年に死去
・1986年からエズラ・ジャック・キーツ賞を発足
 人間や家族をテーマにし、民族や社会の多様性を重視する絵本作家とイラストレーターに授与される賞である。キャリアの浅いイラストレーターや作家育成となる新人賞である。

キーツと「ゆきのひ」
・22年前の「ライフ」誌で見た、3,4歳の男の子の写真がモデルとなった。
・コラージュ技法を効果的に使い表現している。
・キーツは「私は『TheSnowyDay』を人生の魂、つまり雪の中で自分の体が音を立てるのを聞くのがどのような感じか言葉と絵で表現した感覚体験にしたかったのです。クランチ、クランチ、そして喜び。生きているということ」述べている。(エズラ・ジャック・キーツ、1916-1983 児童文学評論 ゲイルリサーチ)
・ラリック(元国際読書学会会長)の批判
 児童文学作品で多様な人種をあつかうことは緊急を要する課題であるのに、出版業界ではかたちだけの平等主義がで、いまだ真摯なとりくみがなされていない。
 キーツに対して、「黒人ということばを使っていない」こと主人公の母親を「赤いバンダナこそ頭に巻いていないが、派手な黄色のチェック柄の服を着た大柄な人」として描いたこと。の2点を批判している。黒人ということばが出てこないことについてキーツは「3~6歳の子ども向けの本では、登場人物が黒人か白人かは、肌の色で判断するものだ。ラリック氏は、適宜人種のタグをつけろとでもいいたいのだろうか?腕輪に人種を書けばいいのか?」と反論している。(アメリカ児童文学の歴史 レナード・S・マーカス 前沢明枝 監訳 原書房 2015)

「ゆきのひ」私の感じたもの
・表表紙と裏表紙がつながった景色になっていて、ピンクがかった雪の中、ピーターが雪にあしあとをつけて楽しんでいる姿、オレンジ、黄色、茶色などの色が建物を表現しているのかもしれないが、私は人種をその色で表し、同じ世界や景色の中に表現したのではないかと感じた。
・中表紙のゆきの結晶が消しゴムはんこで表現され、様々な形、色の結晶が心を和ませる。
・ゆきやまを滑っているピーター、冒険心、チャレンジする気持ち、楽しんでいる様子が伝わる。雪の色、マントの赤、空の青が対比している。(p2-3)
・窓の外を見ているピーターのパジャマや壁紙の柄、日常を表している。(p4-5)
・ピーターよりも高いゆきの山、これから始まる冒険、わくわくする気持ちを表現している。(p6-7)
・ピーターが登場しておらず、ゆきと空の景色、ぼうのすじを付けている絵。それだけで、楽しんでいる様子が伝わる。(p10-11)
・木の上のゆきをぼうで落そうとする。いろいろな所に興味津々。(p12-13)
・おおきな子どもたちの雪合戦にあこがれる。おおきな子どもたちの人種は様々。ピーターとおおきな子は雪山の境界で分かれている。(p16-17)
・自分でできるゆきあそび。ゆきやまをのぼり、滑り降りる。達成感を味わう。(p18-21)
・ゆきだんごを作りポケットに入れる。次の日そのゆきだんごであそぼうと思う。純粋な思い、可愛らしい、子どもならではの発想。(p22)
・おかあさんに今日の出来事を話て聞いてもらう。自分の気持ちを表現し、満足感を味わう。(p23)
・おふろのシーン。どれだけ楽しかったかが伝わる。(p24-25)
・ゆきだんごが消えて悲しむ。白黒まだらのコラージュで全体を表現している。(p26-27)
・ゆめをみて、目をさましたピーター。オレンジとピンクの明るい色で希望を表現しているよう。(p28-29)
・最後のシーン。隣のともだちとゆきのなかに遊びに行く。深いゆきの中に入っていく二人。新な冒険があることを表現しているかのような雪の大きさと小さい二人が描かれている。ともだちは茶色のマントを着ていて、性別も人種もわからないが、もしかして白人のともだちかもしれない。キーツはどう思い描いたのだろう。
以上
 今回、コールデコット賞を受賞した「ゆきのひ」として、色々な文献を読み、キーツという人、社会状況を含めて、新たに「ゆきのひ」を読んでみた、私なりの感想と簡単な分析になります。

絵本の賞には、どんなメリットがあるのか。
・絵本を作る作家のレベルが上がる。創作意欲につながる。
・子どもたちに手渡す絵本の指標になる。
・その時代の社会情勢をふまえた作品が誕生することにもなり、人々が絵本から社会を考えることにもなる。

今回の振り返りは、「ゆきのひ」とキーツを中心になったが、
他の方が選書された絵本やミッキー先生が解説して下さったしてくださった絵本も
今後深めていけたらと思います。
「かもさんおとおり」も好きな絵本でした。かもを飼って描いたと聞き、ますます興味が湧きました。
また、バージニア・リー・バートンは大好きな作家、子どもが「いたずらきかんしゃちゅうちゅう」「はたらきものじょせつしゃけいてぃー」を読んでいました。「ちいさいおうち」をはじめ、リーバートンの絵本を改めて見ていきたいです。
ひとつの賞から学ぶことは、無限にあると感じました。
絵本だけではなく、絵の技法、作者の思いや生い立ち、社会情勢、絵本からのメッセージや感じるもの、絵本を学ぶことにわくわくし、知らなかったことを知るという機会があることに感謝です。

 



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?