絵本探求講座第4期(ミッキー絵本ゼミ)4回(12月10日)振り返り「絵本の絵を読み解く」

12月のゼミから、年越えの振り返りになってしまいました。
絵本の絵の中の切り絵絵本に注目してみました。
「きりえ」で、すぐに思い浮かべるのは『モチモチの木』『花さき山』『ソメコとオニ』などを描いた滝平二郎です。
教科書に連載されたりしており、馴染みのある絵本です。
子どものころは、お話の内容が少し怖く感じていましたが、大人になり、切り絵の絵がとても魅力的に感じるようになりました。お話も心に響くメッセージがあることに気づき、お話会で読む機会も増えました。
なぜ、滝平二郎の「きりえ」に惹かれるのか、考察していきたいと思います。



選んだ絵本『花さき山』


作: 斎藤 隆介 絵: 滝平 二郎 出版社: 岩崎書店  1969年

『花さきやま』あらすじ

 山菜採りに出かけたあやは、見たことのない花が咲き乱れる山へ迷い込み、やまんばと出会う。この世のものとは思えぬ美しい光景に見惚れるあやへ、語り掛けるやまんば。そこに咲いている赤い花、それはお前が咲かせた花だ、あや。優しいことをすると美しい花が咲くとやまんばが語る。あやは山から帰り、皆にやまんばから聞いた話をするが誰も信じない。あやは、またひとりで山に行ってみたがやまんばにはあわなかったし、花もみなかった。

選書の理由
『花さき山』『ソメコとオニ』は読み語りをよくします。多くの人は、黒が多い表紙で暗く感じ、自分で選んで読もうとは思わないのではないでしょうか。しかし、私はなぜか、この「きりえ」に惹かれるのです。もの悲しい感じがするものの、心に響く絵、優しさを感じるのです。
「きりえ」で描かれている絵本について調べることがなかったので、今回『花さき山』で4回目のゼミを振り返りながら、絵を読み解いていけたらと思います。


作者:滝平二郎について

 1921年 茨城県に生まれた。
 独学で絵を勉強した。
 太平洋戦争で沖縄戦に従軍・復員後に木版画家として独立した。
 1960年代後半からきりえを手掛けた。
 齋藤隆介さんと組んだ絵本『ベロ出しチョンマ』で注目される。
 1970年『花さき山』で、講談社出版文化賞(ブックデザイン賞)受賞
 1974年 一連の切り絵作品でモービル児童文化賞を受賞
 朝日新聞日曜版で「きりえ」1968年からを8年4ヵ月連載。
 新聞社から「切り紙」でやってくれと依頼される。
 当時朝日新聞で担当していた田島梅子記者が「きりえ」と名前をつけた。「切り紙」だと細工物のようだし「切り絵」だと字面的に堅い印象になる。あえて「きりえ」とひらがな表記にしたのは、滝平ではの独自の世界を描いてほしいという狙いから名付けた。
 1987年『ソメコとオニ』絵本にっぽん賞受賞。
 2009年、88歳で亡くなる。

切り絵の歴史


切り絵の発祥はインド。シルクロードを経由しヨーロッパから中国に伝わった。
中国:主に赤い紙を使用した「せんし」という民間工芸として切り絵が浸透した。お祝い事で飾られる。図案により、幸福や豊かさ、子孫繫栄などの意味が込められている。その歴史は1500年以上。作り手は主に農家婦女であった。
日本:日本においての切り絵は、いにしえより神の儀式に使われ、今でも飛騨高山、青森県、出雲地方などに伝統的な様式が残っている。


滝平二郎のきりえ

滝平二郎のきりえは、墨で染めた和紙の上に下絵を重ね、下絵の線に沿ってカッターナイフで切り抜いて作られている。
滝平の使用していた和紙は、茨城県で生産されている「西ノ内和紙」です。
「西ノ内和紙」は、強靭素材にして、しなやかで優雅。特色は、丈夫で虫もつかず、保存に適し水につけても破れにくい。古くから布の代わりに着物としても使われてきた。この和紙を使っているので、より一層、立体感や優しさが表現されているのではないかと思います。
朝日新聞に切り紙を持ち込んだ時、「きりえ」という言葉を使うようになった。
農村の風景を描いたり、地元の和紙を使ったりと、生きてきた場所や自分の人生を大切にされた方だと感じました。

滝平のきりえが人々を明確に惹きつける要素
① きりえのきりえたる部分、紙をカットすることによって影像を生みだすその方法が、対象を単純明快に浮き上がらせていることである。西洋流のリアリズムとは全く異なる略画、つまり彼が少年時代に惹かれた漫画の明快なあり方で、そのもののそのものらしさをしっかりと捉えて示してゆく、それが滝平のきりえの最大の特徴であり、魅力だと言えるだろう。
② カットされた紙は、あるときは輪郭線に、あるときは実体に、あるいは影に、背景にと自在に使い分けられる。印刷された完成品では、切られた紙の部分なのか、描いているのか、簡単には見定められない微妙な表現も多数ある。茨城県の伝統的な西ノ内和紙を彩色したうえで切っている。
③ 構図の大胆さ。
絵本について~
素朴で力強い線には、登場人物の心情が吐露されているようで、見る者を物語の奥深くへといざないます。たった一本のカッターを使って、人間の持つ力強さ、優しさ、そして時には怖さを表現した「きりえ」には、誰が見ても滝平二郎の作品だとわかる独特な世界観があります。

「滝平二郎の世界展図録」キュレイターズ 2015

『花さき山』のきりえについて

黒の背景に白の人物のきりえ
または、白の背景に黒のふちどりのきりえで人物や景色を描いている。
白と黒で陰影が明確になり、立体感を感じ、事物の膨らみや遠近が表現されている。
1-2P:黒の背景に髪の長いやまんば、髪の長さで怖さを表現、手が老婆を感じさせる。ここでは、顔は隠されている。
3-4P:黒の背景にあやが、白と赤で描かれ、赤があやの驚きを表している。
5-6P:やまんばが顔を出し、花の話を始める。顔に怖さはなく、むしろ穏やかである。花も色とりどりの色である。花は何の花かわからない。実際にはない空想の花なので、抽象的な花にしてあるのではないだろうか。
9-10p:あやの住んでいるまち、山や畑、神社の風景をきりえで描いている。滝平の得意な農村風景。畑は大胆に大きく、人や木々は細かく切り抜かれ、メリハリがある。
11-12P:あやと妹のそよ。実際にはあやが大きいのだが祭り着を着た妹のそよが大きく描かれている。
13-14P:あやがページからはみ出す大きさで描かれ、赤い花が丁度、胸のあたりにあり、心の中に咲く花という意味も表しているのではないかと考えた。
15-16P:あやとさきかけの青い花。あやとその花が浮かび上がる。
19-20P:青い花となみだのつゆ。印象的なページである。
21-22P:花が一面に。色と大きさが様々で、花さき山をみごとに描いている。
23-24P:『八郎』の話。波と八郎を力強く表現している。
(『八郎』は版画ときりえの両方で描かれた絵本である。)
25-26P:『三コ』の話。火の中に入っていく男を赤と黒、白の三色でみごとに表現。
29-30P:山に再び行ってみるあや。薄黄色で、夢の中にいるような不思議さを表現している。

所感

今回『花さき山』のきりえ、滝平二郎について私なりに「きりえ」である絵を読み解いてみた。きりえで、読み手や聞き手を引き付け、力強さや優しさ、切なさ、不思議さを表現していることがわかった。こんなにも1ページずつ、絵をみて、作者がどんな思いで表現したのであろうか、と思いながら見ることは今までになかった。独学で版画やきりえを絵本にしてきた滝平さん。長い間、読み継がれている『花さき山』や『モチモチの木』をみごとにきりえで作成しており、この素敵なきりえの絵本を多くの方に読んでいこうと思います。『花さき山』以外の滝平二郎のきりえ絵本をもっとゆっくりじっくり、読んでいきたいと思います。
そして、この『花さき山』のお話は自己犠牲と思われることもあるでしょうが、優しい気持ちを持っていると心に素敵な花が咲く、自分の存在も大切だよ、というメッセージがこめられていると感じました。自分さえよければ、という人も多い現代の社会、大切なメッセージだと感じます。

参考・引用文献

「滝平二郎の世界展図録」キュレイターズ 2015
「滝平二郎きりえ名作集:朝日新聞日曜版から冬-春篇」朝日新聞出版2013
「滝平二郎きりえ名作集:朝日新聞日曜版から夏-秋篇」朝日新聞出版2013
「小学校高学年における空間認識の特徴について ー描画・切り絵における遠近の表現を中心としてー」黒田恭史 数学教育学会誌 2001
「絵本による幼児期の消費者教育の可能性を求めて ー消費者教育的な視点からみた『花さき山』分析の試みー」 今村光章 消費者教育 2006

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