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「電車」 松平


人生の中で、なぜか心に残っている日というのがある。

なぜか、何かと思い出してしまう数日。

その中の一つが2年ほど前の冬のある日だった。




TikTokに流れてきた赤子くらい大きいクレープの動画。
普段ならそのままスワイプしてしまうようなものだったが、受験もせずバイトもしてない12月の高3の私は、フットワークが軽い。縛られるものが何もない。
その日のうちに友人に「行こう」と送った。


当日、最寄駅に集合してみんなで向かう。
冬の中でも結構冷える日だったのに、なぜか薄着で来てしまいずっと震えながら歩いたのを覚えている。

クレープ屋の場所は私の地元基準で考えさせてもらうと大宮のさらに向こう。
大宮で乗り換えてニューシャトルというものに乗らなければいけない。

初めて乗るそれは、乗り物を移動手段としか捉えられない私をわくわくさせた。
1番前の車両の運転席に近い椅子に友達と並んで腰掛ける。

赤子くらいのクレープを想像し胸を躍らせながら、着くまでずっとポケモンの新作の御三家の中で誰を選ぶか議論した。


「定休日」
クレープ屋に着くと店の閉じたシャッターにそう書かれた貼り紙があった。
なぜ誰も事前に確認をしなかったのか。

仕方がないから、大宮まで戻ろう。戻ってから何するか考えよう。ということになり、またニューシャトルに乗りこんだ。

2回目のニューシャトルはただの移動手段でしかなかった。
御三家の議論も、ニャオハという答えが出てしまったので盛り上がらない。

大宮に着いてから、なにをしようかと友人らと話し合う。
近いから、鉄道博物館でも行こう。ということになった。

大宮には、鉄道博物館という建物がある。
名前の通り鉄道の歴史博物館で、たくさんの貴重な車両が置いてある。

あまり興味は湧かなかったが、することもなかったので鉄道の歴史を学んでやろうと入館した。




間違いなく、私の人生の中で1番電車に絡んだ日だろうな、と今でもたまに思い出す。

ちなみに、見て分かる通り入館してからの記憶はあまりない。どんな電車を見たのか、何をしたのか。
家を出てからクレープ屋に着くまでの動向はこんなに細かく思い出せるのに。

このままではだめだ。


これはもう一度鉄道博物館に行かねばならない、と、その時の友人に連絡した。

高校を卒業してから疎遠になっていた友達に、久々に連絡する理由をくれた鉄道博物館には感謝しかない。

何も思い出してあげられないけど。


松平

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