見出し画像

僕の中に残る黒髪ショートの女性

僕の中には憧れや好みとは言い難い
女性のイメージがある

その女性は
少女から大人になりかけ年齢で
髪はショートでクセがあり
光を浴びても黒光りする黒髪

現れる時はワンピースの時もあれば
タイトジーンズに大きめのシャツを着ていることもある
そのどれも柄はあっても黒い色ばかり

いつも背中をむけていて
たまにこちらに視線を向けるが
その眼に僕は映っていない

彼女が僕の頭の中に現れるのは
海岸であったり
民家のバルコニーであったり
日の入る書斎であったり

どこか静かで
物悲しいような
そんな場所ばかりだ

抜けるような青空と
アンニュイな表情の彼女

何かを諦めたような
何かに呆れているような

少女のあどけなさと閉塞感
そして現実を直視する大人びた表情

僕は彼女のことが好きだ
でもこの好きは
愛しているとか
好みとか
そういうんじゃない

僕の頭の中にしかいないのかもしれない
その女性を
僕の頭に何度も思い浮かぶ彼女を
僕は好きなんだと思う

こんな話
誰にも話していない
話せるわけもない

ふと浮かぶイメージにいる女性の話を
どんなタイミングで
誰に話せばいい?

ああ
今日の彼女は暗がりの書斎にいる
椅子に座って一冊の本を手にしている
どこか気だるそうに
本のページをその大きな瞳で見ている

細いしなやかな指がページをめくる
少しだけ伸びすぎた前髪を時々気にしながら

ふとこちらを見る
僕と目が合っている
でも見つめるわけでも
何か感情を伝えてくるわけでもない

彼女は微笑みかけたりしない
すぐに本に目を落とす

彼女は片足を胸に引き寄せ
顎を載せて本を読む

僕は声をかけることも出来ず
ただその美しい光景を見つめることしか出来ない

こんな瞬間が最近は頻繁にある
電車の中
デスクでタイピングしている時
食事中でも

彼女が見える明確な景色が
僕の前にリアルに再生される

ごくごくたまに
彼女は夢に現れる

その時の彼女はどこか楽し気で
犬や猫と戯れて
笑顔ではしゃいでいる

その笑顔は年並みのようで
どこか幼く
落ち着いて遠くを見ると
またあの瞳の色に戻っている

彼女を見ると
僕はたまらなく切ない気持ちになる

何もしてあげられない
僕らは互いが干渉することの出来ない
異次元の中で隣り合っているような感覚なのかもしれない

こんな話をしたら
きっと僕は気がふれていると思われるだろう

でも僕の中の彼女はいつも
そういつでもそこにいて
そこに居続けているんだ

別に悩んでいるわけではない
でもどうしても
彼女のいる景色が浮かんで
彼女のあの眼を忘れることが出来ない

いっそ気が狂って
彼女が話かけてくるようになるなら
それでも良いと思う

異次元の壁を越えて
彼女が僕を見つけることはあるんだろうか

僕からは彼女を見ることが出来ても
彼女は僕を認知していない

彼女は僕の都合通りのおもちゃではない
だからこそ
彼女は自分の振る舞いたいように振る舞っているんだと思う

でも僕の中に彼女はいつ現れたんだろう
気が付いた時には
すでに彼女は僕の中にいたんだ

照りつける夏の青の中で
荒れ狂う波の青
砂浜で凛とした顔でこちらを見ている
黒い麦わら帽子を片手でおさえて
気持ち良いほど乾いた風を受けながら
こちらをただ見ていた

僕の人生のどの場面にも登場したことがない
そんな女性と僕は自分の頭の中だけで出会ってしまった

お互いが正確に認識出来なくても
これを出会いと言って良いのだろうか

あなたにはこんな人がいますか?
自分の頭の中だけにいる
そんな存在が

僕はきっと
この先もずっと
何も変わらない異次元の彼女との時間を
人生の一部とすることを
心の中で祈っている

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?