霧の渦

<霧の渦>
しのびやかに霧が生まれた
こっそり成長していく手のように
樹木に絡んでうずめ
街を浸し
霧は海になった
そんな夜の仕事が終わった頃に
朝日を使って化粧を始める
薄紅の恥じらい
白妙の裳裾
光はまだ冷たい
街は霧の湖に水没した

ざわめきが流れ出した
光が熱を持ち始めた
流水が岩に裂かれるように
黒く黙した木立が霧を捌き始めた
街角が霧を押しやり始めた
霧の沈殿をハトが破る
霧の迷路を電車が突き抜ける
霧は解けて流れ出し
流れが隘路に群れ出したとき
逆巻く龍が一匹、
忽然と天に消えた

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