見出し画像

素人の考古学ー千葉県市原市の上総国の遺跡めぐり


1.上総国およびその中心となる市原市について
上総国の由来は6~7世紀のヤマト王権に遡り、房総半島の大部分を治める令制国であり、親王が国司を務める親王任国であった。 その中心は、現在の市原市中心部で、国分寺・国分尼寺の遺跡より、嘗て国府が存在したと推定されている。 同市は、人口27万人の中堅市で且つ愛知県豊田市に次いで製造品出荷額の多い工業都市で財政的にも豊かで、千葉県で一番面積の広い市でもあります。 約1000基以上の古墳跡があり、国分寺・国分尼寺跡を含め、多くの古代史遺跡・遺物に恵まれている。
なぜこの地域が古代より房総半島の中心と成り得たのかはまだよく解ってはいなが、東京湾に面し豊富な魚介類と肥沃な後背地、水運に適した養老川などの地理的要素が鍵となっていると思われる。また、黒潮を使った畿内からの航海も盛んだったようで、出土される土器も畿内をはじめ各地の様式が見られ、人とモノの交流も盛んであったと思われる。
2.市原市埋蔵文化財調査センター
同市の遺跡発掘調査及び埋蔵物の復元・収蔵を目的とした施設。

分類された出土品
復元作業
復元途中の土器


王賜銘鉄剣

市原市出土品で有名と言えば稲荷台一号墳から発掘された「王賜銘鉄剣」です。同センターにレプリカ(本物は国立歴史博物館蔵)が飾られております。他の副葬品の年代判定から五世紀のものとされ、当時の大王=天皇から被葬者の働きを賞して賜れたものと、埋め込まれた銀象嵌から読み取れます。このことから五世紀、関東の豪族と畿内の天皇との関係が垣間見ることができる。また埴輪の展示も多く、ユニークな姿形をした埴輪もあり楽しめる。

お洒落な埴輪


なぜかリアルな表情の埴輪

これらの埋蔵物はまだ国宝指定は受けていないが、将来指定をうけるであろうとセンター職員の方は期待しておられた。
3.上総国分尼寺跡展示館(国指定史跡)
敷地面積12万平米もの大規模伽藍があったとされる、国内最大規模の国分尼寺。 市原市はその財力にものを言わせ、当時の建物を忠実に再現しようというアグレッシブな政策を展開しているが、回廊-中門の復元で資金が尽きたのか、金堂や講堂に手がつけられていないのが残念。

上総国分尼寺

4.上総国分寺跡(国指定史跡)
約14万平米の規模は、全国的に見てもかなり大きく整った国分寺であったと言われている。 現在は医王山清浄院国分寺がその法灯を伝えている。この辺りは昔から地域の中心で市原市役所が近くにあり、周りに古墳を含む古跡が数多く点在していることから、国府が近くに在ったと推定されるも、まだ場所の特定はされていない。


かなり大きい七重の塔の心礎

この規模から高さ63mを超す塔であったと推定されている。
[古東海道]との関連
畿内と関東を結ぶ東海道のコンセプトは律令時代からあり、当時関東へは現在の相模原から鎌倉を経て三浦半島に向かい、浦賀水道を船で房総半島に渡り、上総国府を経て下総・常陸国等へ向かったとされている。 63mを超す七重の塔はまさにランドマークで、旅人への目印になり、また天皇の威光だけではなく、上総国の偉容を遺憾なく発揮したものと思われる。 しかし、時代が下り771年武蔵国がそれまで属していた東山道から東海道へ管轄が変わり、相模原から陸路で直接関東平野に入ることが可能となると、交通要路としての下総国府の位置づけも低下していったと思われる。 交通手段や経路の変化が地域の発展や衰退に大きく関わることがこの時代からあったというのも興味深いところだ。
5.本郷古墳群(戸隠神社)
上総国分寺から約100m西に戸隠神社があり、その境内に三つの古墳があるが、古墳に関する表示板はなく、市原市にある1000基を超える古墳の一つという位置づけ。

戸隠神社

6.       神門5号墳(県指定史跡)
3世紀の前方後円墳で、東日本で最古の古墳。 3世紀といえば邪馬台国、卑弥呼が生きていた時代で、奈良県の纏向古墳群と同時代の古墳ということになる。 上から見た形状は前方後円墳にしては「前方」部分がやけに小さく思える。 このような形をした発生期の古墳は“イチジク型古墳”と呼ばれている。5号墳の他にも3号墳・4号墳があり、比較的短い間隔で造られたと想定されている。 (3・4号墳は発掘調査後埋め立てられ、現在は住宅地となっている)




5→4→3号墳の順に造られ、新しい墳になるに従い「前方」部分が大きくなり鍵穴型となることが解る。 発生期段階の前方後円墳がなぜこの地にあり、纏向古墳群等とどのような関連があるのか大変興味深い。

5号墳 墳丘部

           (参考:古代史同好会資料)
                      以上
                     小兵衛記

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?