見出し画像

フリーライフ 第3話

「改めまして、近藤と言います。よろしく。」
「私は高木です。よろしくお願いします。」

近藤さんは、定年退職してアルバイトを週3日しているとのことだった。サックスは一度吹いてみたいと思っていたので、一大決心して通うことにしたとのことだった。

「で、高木さんは?」
「私も同じですよ。一度、吹いてみたかったんです。」
「失礼ですが、お仕事は?」
「無職です。」
「世間で言うところの、ニートということ?」
「いえ、ちゃんと一人で暮らしています。無職というのは、自分の職業をどのように言っていいのかわからないので。ちゃんと儲けていますよ。」
「じゃ、ニートじゃないんだ。もしかして、投資?」
「はい、そうです。」
「すごいね、若いのに。」

結局、初めは会社員をしていたこと、次にネットショップ、で、今は投資に行きついた話をした。近藤さんも退職金の一部を投資しているそうだった。でも、なかなか増えないと言っていた。

「結婚はしてるのかな?」
「いえ、ひとりです。」
「その気はあるの?」
「まあ。」
「その分じゃ、あんまり出会いがないのかな?」
「まあ、そうかもしれません。」
「よかったら、紹介させてくれないか?」
「えっ?」
「ぜひ、君に合わせたい子がいるんだ。」
「でも、私は安定した収益を上げることできないですし、もしかしたら、ある日突然、無一文になるかもしれないんですよ。」
「いや、そんなことにならないようにちゃんと手を打っているだろ?」

確かにそうだ。結局、会うだけ会ってみてくれと言われ、無理にお断りもできなかった。

 人との出会いには、何があるかわからない。私は、まさかお見合いをすることになるとは思わかなった。近藤さんはどんな人を連れてくるんだろう。私は半分困っていたが、半分かなり期待もしていた。

 約束の日、私はとりあえず、会社員時代のスーツを着て、その店のある場所へ向かった。私が遅かったのか、近藤さんはもう来ていた。私は決して遅くないのに、近藤さんが早いんだ。会って二度目の近藤さんに、こんなことしてもらっていいんだろうか。

「随分、早く来てくれたんだね。」
「近藤さんこそ。」
「まあ、いいじゃないか。紹介したい人も来てるよ。さあ、行こう。」
「はい。」

私はものすごくドキドキした。いったい、どんな人なんだろう?近藤さんと向かったそのテーブルには、1人の女性が座っていた。彼女は私たちの姿を見つけると、立ち上がって会釈をした。背が高い、髪の長い、面長の、色白な、優しそうな眼差しの女性だった。

「こちらは、私と同じサックス教室の高木智志さんだ。」
「この人は小宮瑠璃さん。」
「はじめまして。」
「はじめまして、よろしくお願いします。」

可愛い声だ。えっ、惚れちゃった?

「お互い、どうですか?第一印象は?」
「とても素敵な人で、私なんかとても。」
「それは私のセリフですわ。」

近藤さんはニッコリした。

「じゃ、ごゆっくり。私は退散します。」
「えっ?」
私たちはお互い困った顔をした。でも、それが同じリアクションだったので、お互い噴き出してしまった。それも可笑しかった。

 ほんの少しお話しただけで、完全に彼女の虜になってしまった。彼女も私を気に入ってくれていることはすぐにわかった。瑠璃さんは大手商社の事務職をしている。彼女も楽器が好きで、ピアノとバイオリンをやっているとのこと。瑠璃さんは25歳。

 なんか、夢のような時間を過ごさせてもらった。私がこんな気持ちになったのは初めてかもしれない。近藤さんには感謝しかない。私は、まだ1回しか会っていないのに、こんなにも夢中だ。ちょっと前に別れたばかりだというのに、もう声が聴きたい。私はこんなんで大丈夫なんだろうか。

 翌日、いつものように、朝、ランニングをしたあと、シャワーを浴びてコーヒーを飲んでいるときに玄関のベルが鳴った。こんな朝に誰だろうと思ったら、瑠璃さんだった。

「今日は会社では?」
「お休みを頂きました。突然、来てしまって、ご迷惑ではなかったですか?」
「いいえ、そんなことないですよ。どうぞ、入って下さい。」

昨日のうちにアドレス等の交換をしていたので、ネットのマップで調べたんだろう。会いたくて仕方がなかったオレは、うれしさで舞い上がってしまっていた。

「素敵なお部屋、とってもきれいにしてますのね。」
「自分じゃ、ここまでできませんよ。ハウスクリーニングです。」
「そうなんですか。」
「コーヒーでもいかがですか?」
「ありがとうございます、頂きますわ。」
「まだ、二日目なのに、私は瑠璃さんに恋してしまいました。」

いきなり、なんてこと言うんだ、オレは。

「私もですわ。」

えっ、そうなのか。もしかしかしたらとは思っていたが、彼女は口にしてくれたことで、とても安心した。オレたちは、お互いの気持ちがわかると、もう気持ちを抑えきれなかった。

「瑠璃さんは近藤さんとどういう知り合いなんですか?」
「父の友人なんです。」
「そうなんですか。」
「なんで私に瑠璃さんを紹介しようと思ったんだろうね?」
「私の父がお願いしていたみたいなんです。」
「だけど、どんなヤツかわからないのに、よく会う気になったね。」
「それはあなたも一緒でしょ?」
「本当にそうだ、来てくれてありがとう。」
「私だって、来るの不安だったんです。でも、今はよかったと思ってます。」
「もし君さえよかったら、オレと結婚してくれる?」

何を言っているんだ、私は。

「私からもお願いします。」
「えっ、ほんとうにいいの?」
「はい。」

まさかの電撃婚約となった。まだ、二日目だというのに。瑠璃さんは私と一緒に住みたいと言った。私のこの部屋で一緒に住むには、多少狭いかもしれないが、住めないことはない。瑠璃さんは実家に住んでいたから、いきなり、彼氏の家に住むと言って、親が心配しないだろうか。

「じゃ、私が挨拶に行くよ。」
「先に母に会って。」

その日の午後、私たちは瑠璃さんの家に行くことにした。瑠璃さんの家はかなりの豪邸で、立派な門構えだった。よっぽど裕福な家なんだろうな。玄関で瑠璃さんのお母さんに会った。

「あなたが高木さん?」
「はい、高木智志です。よろしくお願いします。」
「娘から昨日、話をお聞きしましたわ。どうぞ、お上がりになって。」
「ありがとうございます。」

おかあさんの後をついていき、リビングのソファーに座るよう、言われた。

「おかあさん、突然でびっくりすると思うけど、私たち婚約したの。」
「えっ、昨日会ったばかりでしょ?」
「驚かれる気持ちはわかりますが、私は瑠璃さんと一緒になりたいと思っています。」
「私たちは運命の人に会ってしまったの。だから、わかってほしいの。」
「そんな、おとうさんがなんて言うか。」
「おとうさんには改めてご挨拶にきます。」
「私、今日から高木さんと一緒に暮らすって決めたの。」
「えっ、そんな。」
「おかあさん、なにもかも、驚かれることばがりで申し訳ございません。」
「一昨日まで、結婚なんて、って言ってたあなたが、いったいどうしたっていうの?」
「だから、彼は私の運命の人なの。」
「本当にいいの?もっと、時間をかけて、お互い話をしてからでも遅くないのよ。」
「私たちにはそんなことは必要ないの。」
「いくら近藤さんのご紹介といえ、あまりに・・・」

そりゃ、親としてはあまりに突然のことなので、すぐには何も言えないだろうな。

「私、これから高木さんのところに行きます。おとうさんにも連絡しておきます。」
「もうちょっと冷静になって、ちゃんと瑠璃からおとうさんへお話して。」

 そんなところに、瑠璃さんのおとうさんが帰ってきた。

「ただいま。んっ、お客さんか。」
「お邪魔しています、高木と言います。」
「おお、君が近藤から聞いている高木くんか。」
「はい、よろしくお願いします。」
「ゆっくりしていくといい、私はまた、会社に戻るもんでね。」
「おとうさん、聞いて、私、高木さんと結婚するの。」
「なにっ?」
「突然ですみません、瑠璃さんと結婚させてほしいと思っています。」
「ちょっと、待ってくれ。今から会社に戻らなければならないんだ。後日、ゆっくり聞かせてくれるかな?」
「はい、突然で、申し訳ありません。」

 確かにあまりに突然過ぎる。私は瑠璃さんに、今度おとうさんと話をするまで、家にいるようにお願いした。彼女はものすごく悲しそうな顔していたが、私の言うことを聞いてくれた。

「おかあさん、今日は突然ですみませんでした。この次、おとうさんにお会いさせて頂いたときに正式にお願いします。」
「それまで、無茶はしないと約束します。」

瑠璃さんは名残惜しそうに私の手を握ったままだったが、もう少しの辛抱だからとわかってもらった。

 うちに帰って、近藤さんに連絡した。

「近藤さん、昨日は瑠璃さんに会わせて頂いてありがとうございました。」
「おお、高木さん、どうだった?」
「私たちは結婚することにしました。」
「えっ、昨日の今日だぞ。早すぎないか?」
「あまりにフィーリングが合い過ぎてしまって、今日、おかあさんにお願いしてきました。」
「なんと!」
「後日、おとうさんに挨拶に伺う予定です。近藤さんにはなんてお礼していいやら。」
「そうなのか、よかったな。」
「ぜひ、近藤さんからもお願いします。」
「わかった。任しておいてくれ。」

 私は、自分でもびっくりしている。こんなに情熱的になれるなんて。彼女のぬくもりが離れない。今すぐ、抱きしめたい。今晩は寝れそうもない。多分、瑠璃さんもそうだと思う。明日は会社へ行けるのかな。

 瑠璃さんのおとうさんに挨拶に行く日になった。一度、お会いしているので、そんなに緊張はなかった。

「改めまして、高木智志です。」
「うむ。」

どうしたんだろう、今日はあまりいい顔をしていない。

「瑠璃さんとお付き合いさせて頂いています。それで、今日は結婚のお願いに来ました。」
「おとうさん、私からもお願いします。」
「・・・」

おとうさんはしばらく黙ってこう言った。

「だめだ、許可できない。」
「おとうさん、どうしてなの?」
「いくら近藤の紹介でも、君はだめだ。」
「どうしてですか?」
「もう、今日は帰ってくれ。」

私は、何も理由を聞かせてもらえないまま、追い出された。いったい、何なんだろうか。瑠璃さんもわからないので、何度も父親に問いただしてしたが、何も教えてもらえてなかったようだ。もしかして、私の生い立ちなのか?でも、そんな問題のある生い立ちじゃないはずだ。だが、今となっては私自身も知る由がない。とっくに両親は亡くなっているからだ。だから、瑠璃さんにも変に介護させることもないし、一体、何が問題なのだ。あとで、瑠璃さんに連絡したが、彼女もその理由を教えてもらえなかった。ただ、だめの一辺倒だったらしい。

 サックスのレッスンの日、そのレッスンが終わってから、近藤さんと話をすることになった。私はこれまでの経緯を話し、なぜ頑なに瑠璃さんのおとうさんが拒んでいるのかを聞いた。

「そうか、そんなことになったのか。」
「私も瑠璃さんも、未だ、理由がわからないんです。私に問題があれば直しますよ。」
「この件は私に任せてもらえないか?」
「お願いします。」

 私は瑠璃さんに近藤さんにお願いしたと連絡しておいた。そのまま、部屋でコーヒーを飲みながら、いろいろ考えた。私の生い立ちの話は両親から聞き取ることは不可能だ。なら、自分で調べてみようと思った。

(つづく)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?