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聞こえるじゃん! 第3話

 バルサの仲の良い女優さん(山本美鈴さん)と、今出てるドラマの俳優さん2名(堀内孝士郎さん、竹内銀河さん)だった。ボクは普通ではあり得ない空間にいるのだ。ちょっと、おしゃべりして、食事もして、バルサからリクエストが入った。

「マックス、例のマジックお願いできる?」
「オーケー、いいですよ。」

 他の3人も興味津々だった。まずは、サイコロの目を当てるヤツで、ボクは複数のサイコロを持ってきてたので、彼らに1個づつ渡して、ボクが見ていない間に、机の上に置いて、手で隠してもらった。

「じゃ、順にいきましょうか?」
「皆さんは、頭の中だけで、そのサイコロの目を思って下さい。ボクがそれを当てて見せます。」

(4、4、4・・・)
(2、2・・・)

「最初は、じゃ、堀内さん、置かれたサイコロは4ですね。」
「え~、なんで?」
「ほんとだ、4だ。」
「じゃ、山本さんは、2ですね。」
「すっご~い。」
「バルサは、3。」
「で、最後の竹内さんは、1。」
「全部当たった。なんで~?」
「ちょ、ちょ、もう一回。いいでしょ。」
「はい、何度でもいいですよ。」

 結構、ハマったらしく、彼らは楽しそうに、ボクの余興を楽しんでくれた。

「じゃ、次は、新しいバージョンのマジックです。」
「えっ、どんなん?」
「皆さんの・・・そうですね、昨日の夕ご飯に何を食べたのか?それを当てましょう。」
「そんなん、絶対に無理でしょ。」
「できんの?」
「佳純は言ってないよね。」
「そんなことするわけないじゃん。」
「じゃ、みなさん、頭の中で、昨日の晩に食べたものを思い浮かべて下さい。」

(昨日の晩は、焼き肉だったよな。)
(竹内ちゃんと一緒だったから、焼き肉。)
(私は、マカロニグラタンとサラダ。)
(お蕎麦しか、食べてないわ。)

「はい、じゃ、ボクが紙にそのメニューを書きますね。」
「じゃ、この紙を皆さんの前に伏せて置きます。」
「一人づつ、何を食べたのか、言ってから、紙を見て下さい。」
「なんか、こわ~い。」
「じゃ、私から、昨日はマカロニグラタンとサラダ。」
「うわ~、当たってる!!!」
「すっげ~!!」

 結構、盛り上がってくれた。芸能人っていっても、こういうノリはみんなとかわらないもんだな。あっという間に、かなり時間が経ってしまった。

「今日はありがとう。すっげ~、楽しかったよ。」
「マックス、また、よろしくね。」
「こちらこそ、楽しかったです。ありがとうございました。」

 よかった、こういう食事会もいいもんだ。なんて、普通ではあり得ない食事会なんだ。ボクはなんて幸運なんだろう。たかが、ネットゲームで知り合ったといっても、まさかの女優さんだったし、その友達はすべて、テレビでしか会えないような俳優さんたちだった。これは、絶対に口外してはいけないんだと思った。彼らはボクと同じ人間なんだけど、その人それぞれが商品なんだろうから、その商品価値を下げるような言動はしちゃいけないんだ、多分。付き合うのはいいけど、結構、気を遣うことなんだと、今更ながら、思った。でも、時々、とてつもなく、ボクの知り合いに言いたくなる。これを抑えるって、とってもしんどい。本当に困ったものだ。

 帰ってから、いつものようにネットでバルサと話をした。

「みんな、楽しんでもらえたのかな?」
「当然よ、今日はありがとう。みんな本当に喜んでたわ。」
「それならよかった。」
「でも、マックスのマジック凄過ぎ。」
「ははは、そんなことはないよ。」
「タネ明かしはしないのよね?」
「それはできません。」
「だよね。」
「はい。」
「でも、みんな有名人だから、ボクは一切公言しないほうがいいんだよね?」
「ごめんね、気を遣わせちゃって。」
「気にしなくって大丈夫だよ。」

 会社では、課長がまた接待に付き合え!って、言ってきた。また、余興をやってくれの間違いだろ。まあ、売上のこともあるし、仕方がないから、お客様を喜ばしてあげることに徹している。そう言えば、最近はボクを貶めようとするヤカラはいなくなってきたような気がする。嫌がらせは、まったくなくなった。これも、マジックのおかげかな。

「今度は、うちに招待したいんだけど。」

えっ?バルサの家に?

「いいの?」
「前に言ってたでしょ。パソコンを教えてくれるって。」

ああ、そうだっけ。でも、本当に行ってもいいのかな?

「でも、大丈夫?」
「週刊誌とか?」
「そう。」
「ちゃんと、考えてあるから大丈夫よ。」
「わかった。」

ボクがバルサの家にいくのか。めっちゃ嬉しいなあ。でも、本当にいいのかな。

 数日後、ボクはバルサの言われたような恰好をして(と言っても、サングラスとキャップにマスクだけど)、待ち合わせ場所でバルサと合流して、バルサのマンションへマネージャーの小林さんと3人で入って、なんとか、部屋の中までたどり着けた。

「大丈夫だったでしょ。」
「ほんとですね。」

小林さんは、バルサより年上な感じの女の人で、仕事のできそうな感じだった。やっぱり、こんな人がマネージメントてないとだめなんだろうな。

「じゃ、早速、パソコン持ってくるね。」
「うん。」

その間、小林さんはデスクに座って、パソコンでなにやら仕事をしているみたいだった。

「はい、これ。」
「オッケー。」
「あ、これ、OSの設定が必要で・・・」
「そうなの?ありがとう。」
「ゲームするのは、このパソコンじゃなくて専用機があるのよ。」
「やっぱ、そうだよね。」
「一緒にやろう。」

 なんか、バルサはうれしそうだな。ボクらはバルサの専用機でゲームを楽しんだ。だけど、ボクの隣にバルサがいる。ことあるたびに、ボクの肩に触れるし、手を握られる。バルサの感情の動きがあるたびに、ボクはドキドキした。彼女は何ともないんだろうけど、ボクはもうドキドキが止まらない。女優の山口佳純が、ボクの隣にいて、ボクに触れまくっている。ありえない状況だ。

「佳純、そろそろよ。」
「あ、はい。」

何だろう。

「ごめんね、マックス。そろそろ、仕事に行かなくちゃならないの。」

あ、そっか。

「わかった。大変だね。頑張って。」
「ありがとう。」

(やっぱり、マックスが好き。)

えっ、本当なのかな。ボクは舞い上がってしまいそうになる。どうしたらいいんだ。

 ボクはまた変装して、マンションからは小林さんの運転で最寄りの駅まで送ってもらった。

「ありがとうございました。」
「じゃ、マックス、またね。」
「うん、また。」

ボクは変装のまま、帰路に着いた。家に戻って、変装を解くと、なんかほっとした。考えてみれば、パパラッチに追われても仕方がないのかもしれないけど、ボクは一般人だし、大丈夫だろ。

 だが、それからしばらくして、ボクは会社帰りに突然声をかけられた。

「すみません。」

誰だ?この人。

「どちら様ですか?」
「こういうものなんですが、ちょっとお話を伺えないですか?」

名刺をもらった。週刊誌の人だ。どこかで、見られてたかな。

「なんのお話ですか?」
「お分かりでしょう?」
「いいえ、わかりません。」
「山口佳純ですよ。」

やっぱり、バレてる。

「そんな人、知りませんよ。」
「またまたぁ、彼女のマンションから出てきたでしょ。見てましたから。」
「だから、知りませんって。」
「ちょっとでいいですから、お願いしますよ。」

しつこいな。どうしよう。

「もしかして、お付き合いされているんですか?」
「知らないのに、付き合っているなんて、ありえないでしょ。」
「本当のこと、教えて下さいよ。」
「あなたもしつこいな。知らないですって。」

(おかしいな、この人じゃなかったのかな。)

なんだ、あてずっぽか。じゃ、知らぬ存ぜぬで通るな。ボクは、そのまま無視して、その男のもとを去っていった。彼はそれ以上追いかけてこなかった。ボクはそのまま、家に帰ろうと思ったけど、まっすぐ帰ると、家を限定される恐れがあるから、今日は居酒屋で晩御飯だな。

 しばらく、食事していると、また、あの男がやってきた。やっぱり、ボクを見張っていたんだな。

「こんばんわ。」
「あなたもしつこいですね。」
「一緒にいいでしょ?」

まいったな。

(この人のはずなんだけどな。)

まだ、わかってないんだな。じゃ、このままシラを切り通そう。

「パパラッチというやつですか?」
「いえ、おいしいネタを仕入れたいだけですよ。」
「じゃ、無駄ですね。」
「そんなこと言わずに、教えて下さいよ。」
「知らないことをどうして教えられるんですか?」
「だって、山口佳純さんの部屋から出てきましたよね?」
「そんな人知りませんよ。」
「女優の山口佳純さんですよ?」
「だから、そんな人と知り合いじゃないですって。」

(やっぱり、違うのかな?)

「もういいですか?多分、あなたの間違いだと思いますよ。」
「そうですか?おかしいなあ。確かにあなただったのになぁ。」
「ボクの楽しい食事の時間を、どこまで邪魔するんですか?」
「わかりましたよ、もしかしたら、また会うかもしれませんけどね。」
「もう、来なくていいですよ。」

なんとか、去ってくれた。だけど、やばいな。女優さんって、こんな連中にいつも付きまとわれているんだな。可哀そうな気がする。

 食事が終わって、まっすぐ家に帰ると、一応、見張られていないか確認したが、どこにもアイツは見えなかった。ボクは、ネットゲームを立ち上げたが、まだバルサは入ってきてなかった。今日は撮影が長引いているのかもしれないな。バルサは本当にボクのことが好きなのかな?つい、聞こえてしまった彼女の心の声が、とっても気になって仕方がなかった。また、会った時に聞いてみたいとも思った。だって、こんなボクなんか、今まで誰も付き合おうとしなかったのに、どうしてなんだろう。やっぱり、遊ばれているのかもしれないな。きっと、そうだよ。ボクは遊ばれているだけなんだ。ただのゲーム友達に徹していた方がいいんだ。そうだと思った。

 それからしばらくは、仕事が忙しくなって、なかなかネットゲームにログインすることができなかった。それに出張も重なって、本当に2週間ほどご無沙汰してしまった。だけど、週末の土日には、待ちに待ったゲーム三昧をするのだ。仕事から離れて、ネットゲーにのめり込むのはストレス解消かも知れないな。金曜の夜は疲れて眠かった。だから、しっかり寝ることにした。

 翌日昼過ぎに目が覚め、シャワーを浴びて、飯食ってから、ネットをつないだ。いきなり、バルサの襲撃を受けた。

「どうしてたの?」
「仕事が忙しくて、出張もあったし・・・」
「ごめん、マックスの事情も考えないで。」
「いいですよ。ボクも早くやりたかったし。でも、なかなかインできなくてごめんなさい。」
「ううん、私の方こそ、ごめんなさい。」

(嫌いにならないでほしい。)

そんなこと絶対にないよ。

 ボクらはふたりで狩りして、一段落すると、話し始めた。

「今日は、というか、今日もだけど、ありがとう。」
「マックスと一緒にやっているのが楽しいから、私の方こそ、ありがとう。」
「そういえば、初めてバルサんちへ行った帰りに、パパラッチみたいなヤツに付きまとわれた。」
「えっ、そうなの?」
「うん、かなりしつこかったよ。」
「ごめんね。」
「バルサのせいじゃないよ。」
「だって・・・」
「あっちも確証がなかったみたいだし。」
「どういうこと?」
「ボクがバルサの部屋から出てきたらしいから、話している間にボロをだすだろうみたいな感じに思ってたような感じだったから。」
「そっか。」
「だから、最後まではぐらかしておいたよ。」
「ありがとう。」

(こんなこと気にしないで、いつでもマックスに会えたらいいのにな。)

バルサは本当にボクのこと、好きなんだろうか?

(つづく)

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