自滅した自民党。一人勝ちの国民民主党、共産と距離を置いた立憲民主党。安倍派パージ解散だ ‼

第50回総選挙は、10月27日に投開票が行われた。自民党は公示前勢力が65議席席減の191議席となり、公明党と合わせた与党で総定数465の過半数(233議席)を下回った。公明党も石井啓一代表が落選するなど、8議席減らし24議席となった。
一方、労働団体の連合が支援する立憲民主党や国民民主党は躍進した。
石破茂政権は、8月14日の岸田文雄前首相の退陣表明を受け、9月27日の自民総裁選を経て10月1日に発足した。
石破茂は、自民党総裁選の一次投票では2位であったが、決選投票では国会議員票を固め選出された。世論調査などで石破茂は首相に期待される人物として長く上位にあったが、それは野党支持者も含めたものであり、自民党の党員や支持者を対象とした調査ではなかった。
ところが、自民党の議員らは石破茂を「選挙の顔」にふさわしいとして、総裁選の決選投票では高市早苗候補を振り切った。
 
◆「うっかり一票、悪夢の30日 ‼」 ガッカリ石破 ‼
自民党は9月27日の総裁選で、新総裁に石破茂氏を選出したが、自民党支持者を落胆させた。 投票日の10月27日は、自民党総裁選のちょうど一カ月後。ご祝儀相場とはならなかった。
まさしく「うっかり一票、悪夢の30日」となり、石破茂に投票したことを、後悔している前議員や候補者も少なくなかろう。 
石破茂に限らず小泉進次郎、河野太郎の「いわゆる小石河連合」は、マスコミの受けもよく、いつも「次期首相にしたい人」の上位にランクされていた。その報道が自民党支持層にも悪影響をもたらし、自民党総裁選挙においても、党員票や議員票に影響は与えたものと思われる。
 石破首相は支持率が高まりやすい政権発足直後の衆院解散に踏み切った。解散は首相就任から8日後の10月9日と戦後最短。
しかし石破茂は自民党総裁選で、衆参両院の予算委員会の必要性に言及していたにもかかわらず、首相選出後は野党の求めに応じなかった。それのみならず否定的な立場をとり、予算委員会の開催を見送った。
 石破茂は、これまで自民党で党内野党の旗色を鮮明にし、麻生内閣や安倍内閣、清和会(安倍派)に対しても、後ろから鉄砲を打ち左翼マスコミに攻撃材料を提供していた。
 石破茂総裁や小泉進次郎選対委員長は、清和会への憎悪感情から、解散直前になって不記載議員を非公認や、重複比例なしに追い込み、野党側に攻撃されることを望んでいたようだ。その様相は、旧安倍派パージ解散と言えるものであった。
 実際、一部野党と多くのマスコミは、これら不記載の議員への魔女狩りの様相を見せキャンペーンを張った。そして、自民党の体質問題まで攻撃の手を伸ばした。
石破首相は政治資金収支報告書への不記載があった前議員らのうち12人を非公認としたが、無所属で出馬した多くが落選した。
さらには選挙終盤に、非公認候補の党支部に活動費として2000万円を支給したことが発覚した。公認候補の支部と同額だった。野党は「裏公認だ」と批判を強めた。自民は党勢拡大などに使途が限られると説明したが、投票日直前のタイミングもあって、野党に絶好の攻撃材料を与えた。
衆院選の投票率は53.9%。2021年の前回衆院選55.9%を2%も下回り、戦後3番目に低いものとなった。50%台の投票率は5回連続である。
それは、自民党派閥パーティー収入不記載事件による「政治とカネ問題」で政権与党への不信感が高まったこと。そして石破首相への失望、さらには一部野党に見られる与党攻撃に終始し、全くと言ってよいほど政策も訴えなかった党派性などが、政治離れを起こしたものと思われる。
 
◆自公与党過半数割れ、立憲民主党、国民民主党が躍進
衆議院の定数は465議席。小選挙区が289議席、比例代表が176議席である。
総選挙の結果は、自民党が191議席(解散時256)、立憲民主党が148議席(同98)、日本維新の会が38議席(同43)、国民民主党が28議席(同7)、公明党が24議席(同32)、れいわ新選組が9議席(同3)、共産党が8議席(同10)、参政党が3議席(同1)、日本保守党が3議席(初進出)、社民党1議席(同1)、無所属12議席(同14)。
28議席の国民民主党は、公明党の24議席を上回り、れいわ新選組は9議席で、共産の8議席を上回った。
石破首相は与党の過半数確保を勝敗ラインと位置づけたが、与党過半数に届かなかった。自民・公明の過半数割れは、政権交代が起きた2009年以来15年ぶり。
打撃を受けたのは自民党だけではない。公明党も政権批判の影響を受けた。
小選挙区に転じた石井:啓一代表や大阪府の指定席の4議席を失うなど、公示前の32議席から減らし24議席。
立憲民主党は「政治とカネの問題」を争点として政権批判票の取り込みを狙い躍進した。公示前の98議席から50議席増の148議席を確保したが、150議席には達しなかった。
立憲民主党の野田佳彦代表は、議席獲得の目標として「自公の過半数割れ」を主張した。
立憲民主党は、かつて党内からを追い詰められた泉健太代表(当時)に「150議席が取れなければ辞任する」と明言させた。今回は148議席で150議席に届いていない。だが野田代表を問い詰める声は起きていない。あのとき泉健太に代表辞任を迫ったのは何だったのか。
維新は大阪の全19選挙区を独占する強さをみせたが、公示前の43議席を下回り38議席となった。比例票が300万票近く減り。大阪以外の小選挙区候補の多くは厳しかった。
 共産党は沖縄1区の前職が小選挙区で議席を守ったが、比例は2議席減の7議席にとどまった。
 国民民主党は公示前の7議席から4倍の28議席を獲得し、大きく伸ばした。「手取りを増やす」などをスローガンに、現役層や若者、さらには無党派層への訴えを強めたことが奏功した。政治資金問題で自民に不信感を持った保守層などの受け皿となることも狙った。
 れいわ新選組は公示前の3議席から9議席に増加。社民党は1議席を維持し、参政党と政治団体「日本保守党」はともに3議席を獲得した。
 
◆比例代表の獲得票は、立憲民主党は微増。国民民主党は2.4倍増
総選挙の結果は、立憲民主党と国民民主党が自民党に競り勝った。しかし中身は有権者の自民党忌避と石破失望、つまり石破自民のオウンゴールであった。
比例票だけを見ると、自民は3年前より533万票減、3年前の72議席から59議席に激減。一方、立憲民主党は3年前より7万票増、議席数では39議席から44議席と微増にとどまった。
  
     衆院選比例代表の得票数/政党別・増減
                 (前回→今回)
   【増】
    国民   259万票→ 617万票(358万票増)
    れいわ  221万票→ 380万票(159万票増)
    立憲民主 1149万票→1156万票( 7万票増)
   【減】
    自民   1991万票→1458万票(533万票減)
    維新    805万票→ 510万票(295万票減)
    公明   711万票→ 596万票(115万票減)
    共産   416万票→ 336万票( 80万票減)
    社民   101万票→ 93万票( 8万票減)
    【前回なし】
               参政        →187万票
     保守       →114万票
 やはり攻撃的な左翼を抱える立憲民主党は、自民票の受け皿になれなかった。
 国民民主党のみが議席数が4倍増、比例得票も358万票増(2.4倍)の一人勝ちで大幅に伸ばし、政局のキャスティングボートを握った。
自民党票の受け皿は、議席4倍増の国民民主党に流れ、参政党と保守党も躍進した。小選挙区と比例の投票先が異なる異政党投票が、常態化したと見られる。
 労働団体の連合は、開票翌日の10月28日に、「第50回衆議院議員選挙結果」について、「立憲民主党と国民民主党が幅広い有権者の選択肢となった」とする清水秀行事務局長談話を発表した。
 その中で「立憲民主党が政権をめざす姿勢を貫いたことが、有権者の有力な選択肢となった」「手取りを増やす」を前面に掲げた国民民主党も、有権者の支持を集めて議席を大きく伸ばした」と評価した。
 
◆共産党と距離を置いたことが、立憲民主党の追い風に
立憲民主党と共産党は、142選挙区で競合したが、そのうち立憲民主党は64選挙区で自公与党に競り勝った。小選挙区での立憲民主党の議席増は、共産党と共闘しないこと、共産党と距離を置くことが、自民党批判層の警戒心が弱くすることに繋がった。立憲共産党と揶揄されなかった。
また連合は、「共産党を支援する候補者は推薦を取り消す」方針を徹底しており、共産党候補がいる選挙区ほど立憲民主党の候補者を推薦しやすいのである。
7月の東京都知事選挙では、蓮舫候補が(山口二郎ら)市民の会の仲介で、立憲民主党と共産党が共闘したが、マスコミの出口調査によると、共産支持層は蓮舫候補に9割が投票したのに対し、立憲民主党支持層の蓮舫への投票は6割であった。つまり共産党との共闘によって、立憲支持層から票が逃げたのである。
立憲民主党の小選挙区での躍進は、共産党の全国的な候補者擁立のおかげであった。
 連合は反共産である。立憲民主党は、共産と距離を置くことで自民批判層の警戒心が弱くなったが上に、小選挙区では自民党にお灸を据えたいという有権者のニーズを取り込んだのである。
連合は9月20日の中央執行委員会で「第50回衆議院選挙の対応方針 ならびに第27回参議院選挙の当面の取り組み《追補版》」を確認し、新しく「共産党との関係」について言及、次のように指摘した。
(1)歴史を振り返ると、連合や構成組織は、その前進組織も含め、労働組合を政治的に利用して革命を実現しようとする共産党の不当な介入・感傷に悩まされてきた。
(2)かつては階級闘争的・暴力的な運動を経験したが、それは組合員や職場を傷つけるだけであり、連合は、そのような労働運動に組合員を巻き込ませてはならないとの強い信念を持っている。
(3)「連合の進路」の中に、「自由にして民主的な労働運動の伝統を継承し」と掲げ、さらには「労働組合の主体性の堅持につとめ、外部からのあらゆる支配介入を排除し」と表明したのは、それゆえである。
(4)連合と共産党とはめざす社会が異なるだけでなく、「自由にして民主的な労働運動」の実践という点で重大な方針上の相違がある。
(5)また共産党の綱領では、社会主義・共産主義社会のへの前進をはかる社会主義的変革の前段階としての民主主義的な変革に関して、「労働者・勤労市民……など、すべての人々を結集した統一戦線によって実現される」とし、……
(6)(共産党は)「……現在の反動支配を打破してゆくのに役立つかぎり、さしあたって一致できる目標の範囲で統一戦線を形成し、統一戦線の政府をつくるために力を尽くす」としている。
(7)共産党にとって「野党共闘」 「野党と市民の共闘」は、社会主義・共産主義社会への前進を図るための「統一戦線」にほかならない。
 
有権者が総選挙に求めるトップは「景気・雇用・物価高対策」
 共同通信は、石破内閣の発足直後の10月1~2日に「総選挙に求めるもの」を調査(2つ回答)したところ、トップが「景気・雇用・物価高対策」(55.9%)。「政治とカネ」は五番目(16.9%)であった。
つづいて「年金や社会保障」(29.4%)、「子育て・少子化」(22.7%)、「外交・安全保障」(20.9%)の順で、「政治とカネ」は五番目。
しかし総選挙の終盤線では、ほとんどのマスコミや政党が「政治とカネ」のワンイシューの選挙となり、自民党もお詫びと弁解がに終始した。
 先に記したように、石破茂総裁や小泉進次郎選対委員長は、清和会(安倍派)への憎悪から、解散直前になって不記載議員を非公認、比例なしに追い詰めた。そして野党側から自民党攻撃を期待していたかのようだ。
 それも小出しで、マスコミは継続的に報道した。総選挙の公示日、立憲民主党の野田佳彦代表の第一声は、非公認となった萩生田光一前議員の選挙区・東京24区。しかも野田代表の20分間の演説は「政治とカネ」だけ。それしかなかった。またメディアも「政治とカネ」が唯一の争点であるかのような報道が多かった。
 その様相は、「旧安倍派パージ解散」と言えるようだった。 実際、一部野党と多くのマスコミは、これらの議員の魔女狩りの様相を見せキャンペーンを張った。
 ところが有権者の最大の関心は経済政策であり、「手取りを増やす」をメインの政策に掲げた国民民主党は、小選挙区でも比例代表でも議席を伸ばした。比例代表では、比例名簿登載者が足らず、他党に3議席プレゼントすることとなった。
 そして国民民主党は、自公過半数割れの国会でキャスティングボートを握り、いま与野党に揺さぶりをかけている。
 その第一のターゲットは、年収の「103万円の壁」の問題である。国民民主党は、これを178万円に引き上げることを求めている。
「103万円の壁」とは、給与収入が年103万円を超えると、主婦のパート代や学生のバイト代に所得税が課税され、しかも扶養から外される。
最低賃金も上昇しており、油断すれば年103万円を超える。そうなると主婦や学生が税金を課せられ、配偶者や親が納付する税金にも影響が及ぶ。
さらに扶養控除や家族手当も、世帯主に適用されなくなり、実質手取りが減る。そのため、働く意欲がありながら年末に就労調整する。一方、飲食店やカラオケ店などは年末の人員確保に苦労している。人手を確保したいのに、学生や主婦などの手取り額が減る。
この「103万円」の根拠は、基礎控除(48万円)と給与所得控除(55万円)の合計。
 この所得税の基礎控除と所得控除は30年前(1995年度)の水準のままだが、現在の最低賃金は30年前の1・7倍になっている。それに対応するため、「非課税額を1.7倍の178万円に引き上げよ」というのが、国民民主党の主張である。
 早速、政府側から「7.6兆円の減収になる」と財源問題を打ち出してきた。しかし今年度は景気回復もあり、税収の自然増や決算余剰金では当初予算案より10兆円多い見込みである。
昨年の税収も当初予算より多く、今年6月に勤労者と家族一人当たり4万円の減税と、年金生活者などに同程度の給付を行っていた。
 つまり「手取りが増える」ことで、個人消費が活発になり、内需拡大と企業などの設備投資の増加で経済が成長し、勤労者の所得が増える。そして経済の活性化は、税収増にもつながる好循環となり、財源問題の解決にもなる。
 また年末には防衛増税の財源問題が焦点となってくる。
こども子育て政策の財源でも、社会保険料に上乗せ徴収することが自公政権で決定され、一部は実施されている。この対応も問われている。
さらに国民民主党は、積極財政への転換、(電気料金に上乗せされる)再エネ賦課金の廃止、トリガー条項の凍結解除などガソリン税の上乗せ分の撤廃、原発再稼働の促進も訴えている。 
これを果たして自公が受け入れるかどうか目を離せない。
 連合は、国政選挙の直前に開催された機関会議(中央委員会など)に合わせ、立憲民主党や国民民主党(それ以前は民主党、民進党とも)と、連合とで、政策協定を締結し、その調印セレモニーをマスコミ向けに行っていた。今次総選挙の直前、10月3日に中央委員会を開いたが、両党との政策協定のセレモニーはなかった。国政選挙前に、調印式を行わなかったのは、2017年の「希望の党」騒動の時以来である。
 とはいっても連合は、この総選挙で、立憲民主党の多くや国民民主党の候補者を推薦し、国会に送る運動を展開し、成果を上げてきた。
今回、自民党と公明党が、過半数を下回ったことで、野党との政策協議の行方が大きな焦点である。連合も、国政へのかかわりを「働く者・生活者・納税者・消費者」の視点から、さらに強めていくことになろう。
 その基軸となるのは、小選挙区でも比例代表でも大きく躍進し、キャスティングボートを握り、「対決より対話」を掲げた国民民主党の動向ではないだろうか。(敬称略)

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