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第99話 美乃すずめ『ゴッドタン』収録の裏側


美乃すずめは勝ち取った

 2024年、4月4日、20時半に上野の居酒屋に行った。店に入ると、社長と美乃すずめさんが座っていた。すずめさんは笑顔でこちらに手を振っている。なんだか嬉しい。
「あんな。凄いことあってん」
 私が席に座るなり、社長が言った。なんやなんや。
「その前にな、去年つばさ舞が『ゴッドタン』に出たやんか。あれは彼女がオーディションを受けて、勝ち取ったものやねん」
 つばさ舞ちゃんは2023年の6月に、地上波テレビ番組『ゴッドタン イチャまんグランプリ』に出演した。そして同年9月、さいたまスーパーアリーナで行われた『ゴッドタン マジ歌ライブ2023』に出演した。
「あの時のつばさ舞の活躍が素晴らしかったから、先月、番組側から『エイトマンの女優で誰か出演できますか?』ってオファーが来てん。それで美乃すずめがオーディションを受けたんよ」
 ほんでほんで!? 結果はどうやったん。
「正直な、美乃すずめが選ばれる確率は低いねん。俺のイメージやけど、ゴッドタンって、10代20代の若い女の子を出すねん。美乃すずめみたいな色っぽい女はまず選ばれない。でもそれでも良いねん。全力で挑戦することに意味があるから———」
 あれ。これはオーデションあかんかったんかな。すずめさんは私の隣で「受かれへんと思ってて、オーディションに送り込んだんかい!」と、社長にツッコんでいた。

「でも、それがな・・・・・・。受かってん!」
「ええええええ! 」
 驚いて口がぱくぱくした。本当に嬉しくて、手を叩いて「すごい!」と言う意外、何も言葉が出てこなかった。すずめさんは「やったったわ」とドヤ顔で笑っている。
「どんなオーディションだったんですか?」
「あらかじめネタの台本をもらって、それを披露するねん。ネタの最後にダイアン津田さんの『ゴイゴイスー』を言う場面があって、私はそこを歌ってん」
 ゴイゴイスーを歌った? もしやアドリブで? そう思ったが、ゴイゴイスーは元は歌ネタだったらしい。それからすずめさんはゴイゴイスーの誕生経緯を熱く語ってくれた。彼女はお笑いが大好きなのだ。

つばさ舞の功績がバトンに

 2週間後、ゴッドタンの収録日。場所はTBSの天王洲スタジオ。私はつばさ舞ちゃんと一緒に、収録現場を見に行った。TBS内に入りキョロキョロと辺りを見回す。すずめさんはまだ来ていない。私たちは遠足に来たようにはしゃいでいた。
「舞ちゃんがゴッドタンに出た時、緊張した?」
「むちゃくちゃ緊張した。あの時な、記念にと思って、本番前にTBSの色んなを場所を、写真撮りに行ってん。ほんならスタッフさんが走って来て、どえらい怒られた。怖かったあ」
 舞ちゃんは「今日もあのスタッフさんいたら、気まずいなあ」と笑っていた。
 私たちの到着から1時間後、すずめさんが楽屋入りした。あまり緊張していないように見えた。彼女は明日、AV撮影があるらしい。気の抜けない2日間だ。だが「V撮の前日やから、今日は最高のコンディションやで」と笑っていた。そう言うことで自分を高めているようでもあったが、前向きな彼女はカッコ良かった。

楽屋入り口には「美乃すずめ様」

 すずめさんがメイクをしている間、社長と舞ちゃんと私は、撮影現場を見に行った。こっそりと、関係者を装って。
 現場は薄暗く、カラフルなステージにマイクが1本立っていた。あそこですずめさんはネタを披露するのだ。
「写真撮ろう。2人でマイクの前に立って」
 えええ。良いんかいな。写真撮ったら怒られるんちゃうん。と思いつつも、速やかに舞ちゃんとマイクの前でポーズをとった。その瞬間、現場がパッと明るくなった。まずい、怒られる!
「この方が撮りやすいですよね」
 現場スタッフが気を利かせて、電気をつけてくれたのだ。ホッと胸を撫で下ろし、何枚か写真を撮らせてもらった。ご容赦ありがとうございます!
 私たちは楽屋に戻った。現場を見てきたドキドキもあって、やや浮かれていたのだろう。ヘアセットをされているすずめさんが私たちを見て、「当事者の私より楽しんでくれてるの、なんか嬉しいわ。今日は来てくれて、ありがとう」と言った。むしろ、ここに来させてくれて、本当にありがとうございます。

つばさ舞ちゃんと「なんでやねん」やってみた

 すずめさんがリハーサルに呼ばれた。制作スタッフとネタの練習をするらしい。これも舞ちゃんとこっそり観に行った。壁の1面に大きな鏡が貼ってあるリハーサル室で、ネタ合わせをする。彼女はネタを完璧に覚えてきていて、動きも見事だった。
「ここは相手の芸人さんと、セックスしている風に見せたいので、足を腰に巻きつけて良いですか?」と、すずめさんはアドリブの動きをいくつも提案していた。きっと何度もネタを練習してきたのだろう。彼女の真剣さには胸を打たれるものがった。
 ネタの最後、すずめさんは「もおええわ!」と関西弁で締めくくった。そして楽屋に戻る途中「やったー。もおええわって言える」と嬉しそうだった。お笑い好きの彼女にとって、憧れの一言なのだろう。楽しそうな姿にキュンとした。

気分が上がっている美乃すずめさん

 リハーサルの後は、本番前の場当たり。実際の撮影現場に行って、再度、制作スタッフとネタ合わせをした。床から聳え立つ大きなカメラが4台。スタッフは20名ほど。そしてその中に佐久間宣行さんがいた。佐久間さんは数々の人気番組を作り出しているプロデューサーだ。
 ネタ合わせ開始。途中、佐久間さんが「『私、パイパンなの』はもっと恥ずかしがるように言って。その方が面白い」や、「相手の頭を見る時、カメラに顔が映るようにしっかり覗き込んで」などと、淡々とアドバイスをした。意地悪な感じも威圧的な感じもなく、気持ちの良いアドバイスだった。

「爆笑しながら◯◯したい」

 ネタ合わせが終わり、再び楽屋に戻った。後は本番を待つだけ。
「ネタ中、佐久間さんが笑ってくれたから、嬉しかった」
 すずめさんは言った。
「佐久間さんの指摘、ちょっと怖くなかったですか」
 舞ちゃんが聞く。
「あれが嬉しかった。真剣に考えてくれてるのが伝わって、よっしゃ、やるぞ、ってなった」
 そうすずめさんが言った一方で、舞ちゃんは「私は、頑張ってるからもっと優しくしてーって思っちゃった」と笑っていた。そこがまた舞ちゃんらしくて良い。

つばさ舞にインタビューされる美乃すずめ

 すずめさんは本番ギリギリまで、ネタを練習していた。私ももう浮かれてはいない。彼女の緊張感が伝わってきて、落ち着かず、練習する彼女の背中をただ見つめていた。
「美乃すずめさん、お願いします」
 スタッフが呼びに来た。
「すずめさん、ひと言もらって良いですか」
 舞ちゃんがすずめさんにカメラを向ける。
「全力で楽しむしかないっしょ。今日はありがとうね。舞ちゃんが道を作ってくれたからやで」
 そう言って楽屋を出て行った。
 私たちはすずめさんの本番を、楽屋のテレビから見守った。ネタが終わった後、劇団ひとりさんが「彼女でなら、爆笑しながら◯◯できる」とコメントをした。最最最の高評価じゃないだろうか。この言葉を引き出したすずめさんは、間違いなくこの日の勝者だった。

シシガシラ脇田さんとのコント

 19時過ぎに収録が終わり、社長とすずめさんと3人で食事に行った。
「エイトマンって本当に良いチームやと思うねん。私たちってさ、いつかは死んじゃうやん。だからできるだけ色んな経験を、みんなと共有しておきたい。小さい成功や、ちょっとした失敗も全て。だってそれに、社長はきっと私たちより早く死ぬしね」
 すずめさんは言った。
 私たち人間の記憶は全て残らない。留めておきたくても、こぼれ落ちてしまうものばかりだ。それは今の人間の能力では、どうしようもない。だが、そのどうしようもないことに立ち向かうには、映像や文章で残すことが、有効な手段だと思っている。
 私はこの人たちとの思い出を可能な限り、書き残しておきたい。こうして同じ時間、同じ場所に居られることは、有難い奇跡だと思うから。

お疲れさまでした!


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