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映画デッドデッドデーモンズデデデデデストラクションと浅野いにおの脱皮


・浮かぶ宇宙船の不安と破壊衝動



門出は不在の父と陰謀論にのめり込み愛してくれない母の家庭で不安と孤独だ。
「おやすみプンプン」の田中愛子も不在の父と宗教にのめり込む母の家庭だ。

「おやすみプンプン」田中愛子


田中愛子は「いつか人類は滅亡する」とプンプンに言う。どうにもならない家庭からくる破滅願望だろう。
「世界の滅亡」は浅野いにお作品に繰り返し出てくるセリフだ。

「虹ヶ原ホログラフ」鈴木くん
「ひかりのまち」のタイキ君


デデデは東京に宇宙船が常に浮遊している。
8.31以降の不穏な軍備増強と、いつ世の中が終わってもおかしくない不安の象徴だ。また門出達の将来の漠然とした不安やどうにでもなってしまえと言う破壊衝動でもある。
これは現実の3.11とコロナ以降でどこか政府の対策がおかしいし、いつまた災厄ががやってくるかわからないという現実の寓話にも見える。

この世界はおかしいのではないか?という描写では「グリッドマン」の巨大な怪獣が街にいるが何もしてこないし、なぜか街のみんなには見えないという設定が最近だと似ている。
その怪獣は新庄あかねというキャラが自ら生み出した破壊衝動と不安だった。

「グリッドマン」の動かない怪獣

・浅野いにお作品の男と女

 罪と呪いを背負ってしまう男キャラ


小比類巻はキホちゃんが死んだのは侵略者のせいだと、世の中を憎む。

「うみべの女の子」の磯辺恵介は兄を救えなかった罪の意識と兄をいじめ殺した世の中を憎んでいる。

「うみべのおんなのこ」磯辺恵介



プンプンは罪と自意識に縛られて、他人の事を考えられなくなり田中愛子を救えない。

浅野いにお作品の多くの男性キャラは罪の意識と呪いで動けなくなり、世界を憎み始める。

 強くたくましい女キャラ


対して女性キャラは自意識が少なく、自立した強い女性が多い。

おんたんは幼少期の弱い自分を捨てて門出を救うためにツインテールと冷笑の仮面を被って前に進む。(時々オンタンが笑っているのか泣いてるのかよくわからないギャグ顔がでてくるが、時空を超えた反動で、心と顔の表情が一致しないんだろうか。)

おんたんのよくわからない顔


「おやすみプンプン」の南条幸は自意識の葛藤がありながらも強く前に進むキャラだ。自分を変えるためなら努力を惜しまない。整形だってする。

「おやすみプンプン」南条幸


ソラニンの芽衣子はバンドマンである種田の夢を追うことの背中を押したから、色々なことが積み重なって事故死したのではないかと罪の意識に苛まれる。
しかし立ち直るのは早く、弔い合戦かのようにギターを持ち闘い始める。

「ソラニン」芽衣子



・デデデ以前の浅野いにお作品とデデデの成長


「おやすみプンプン」はプンプンの内省的なモノローグが地獄の泥沼だが、デデデにはキャラクターの内面のモノローグはほとんどない。デデデのキャラクター達は世界に不安を抱いているし憂鬱ではあるが、どこか諦めていて、日常を楽しんでいる。
特におんたんは皮肉屋で冷笑的だが、プンプンのように内省的で鬱屈はしていない。
特に浅野いにお作品のキャラは自分の感情を他人に吐き出さない。
ソラニンの種田、うみべの女の子の磯部、プンプン。
どれも女の子側が心配したり、助けようとするが、最悪の結末へ向かってしまう。

「おやすみプンプン」ではメンター的な叔父さんがプンプンを導くが、デデデもオンタンの兄がメンターだろう。自分や世界に諦めを感じながらも世の中を憎む事なく生きてる先輩達だ。しかし、プンプンの叔父さんは弱いので、恋人の翠さんから逃げてしまい、寂しくなった翠さんはプンプンとセックスしてしまう。この件でプンプンはまた自己嫌悪の地獄に。


「おやすみプンプン」雄一おじさん


 SFの力技


今回のデデデのSFの力はとても大きい。
プンプンはどこまでも現実の話で、プンプンの状況を突破する力やとっかかりが見えてこず、田中愛子を救えない罪の意識で動けなくなってしまう。
デデデの門出も罪を犯してまい自殺する。この罪は秘密道具の力技で世界線を移動して強引に無かったことにする。オンタンは世界線移動後の世界を崩壊させた超本人で罪人だがここもSFの力技で記憶を無くすことで罪悪感はチャラになっている。
デデデはそんなプンプンの自意識と罪を抱えた主人公キャラを小比類巻というラスボスに置き換えた。小比類巻はキホちゃんを救えなかった罪の意識と不安で世界の崩壊を阻止しようとする大場くんと対立する。小比類巻はプンプンのようなキャラの鏡であり、おんたん&門出のダークサイドだろう。
今まで自意識に苛まれていた男性キャラだが、大葉くんは人類と侵略者を救うためヒーローのように犠牲になる。

 性愛と友愛

「おやすみプンプン」での恋愛は性欲が絡み自分の欲望をヒロイン達にぶつけてしまうので、自己嫌悪の泥沼になっていた。それを回避するかのようにおんたんも大葉に恋し、門出も教師に恋するがセックスはしない。性欲というよりはプラトニックな恋の感じで終わらせている。何かを「好き」という感覚、友愛としての感覚で門出とオンタンはキスをする。この二人の漫才のような掛け合いはデデデ以前にはなかったものだ。

・セカイ系としてのデデデ

世界系というジャンルがある。
主人公達の行動が世界の命運を握っていて、自己と世界が直結している作品を指すらしい。
代表的なのはエヴァ。
まどマギもそうらしい。
まどマギは世界線を何度も超えてまどかをほむらが救おうとする物語だ。
デデデと似てるのは世界線移動後のキャラの性格が変わってることだ。
オンタンと門出は世界線を変える前の幼少期の性格が二人とも違っている。
ほむらは登場時の冷徹なキャラとは違いオドオドしていたし、まどかは最初は何もできないキャラだが、頼れる魔法少女としての先輩だった。
デデデの8.31は3.11のことであろうが、まどマギも最後の敵である魔女によって、街は崩壊していて、最終話あたりで現実の震災とリンクしてしまった因縁がある。
そしてまどかとほむらの友愛は物語のキーだし、「叛逆の物語」は1度作られた秩序のシステムを破壊して、まどかを取り戻す話だった。
「叛逆の物語」はバスで街から出られないというくだりがある。それはそっくり「グリッドマン」にもあったが。
元ネタは「うる星やつらビューティフルドリーマー」だ。これは文化祭前日を繰り返しそこから抜け出せない話だ。
「涼宮ハルヒの憂鬱」のエンドレイスエイトは終わらない夏休みを繰り返すが、
デデデの「終わらない夏休み」「繰り返す日常」というモチーフからして、「世界系」というジャンルの最前線なんだろう。
「涼宮ハルヒ」もハルヒの中の閉鎖空間で暴れてる巨人がいて、それを繰り返されると世界の崩壊を招くので、この退屈で繰り返す日常に飽きているハルヒを楽しませて、なんとか生きていこうとする話だった。

「涼宮ハルヒ」の巨人



「おやすみプンプン」ではペガサス楽団という宗教団体が登場し、世界の終わりが近いと予言する。

「おやすみプンプン」ペガサス

プンプンの自意識の葛藤と終わらない日常。
ペガサス楽団の予言である世界の終末が同時に描かれる。
物語の中でプンプンとペガサス楽壇が絡むことはないのだが、これはプンプンの自己の内面と世界が直接繋がってしまっていることなんだろう。
ハルヒや新条アカネの内面が世界の崩壊に繋がっているように。
デデデで宇宙船の墜落を見たオンタンが「これって僕のせい?」と言う。(まあおんたんのせいなのだが記憶がない。)
子供は世界と自己が教会が曖昧で直結している。
子供は自分の願ったことが叶うと信じているし、悪いことが起きると関係ないのに自分のせいだと反省してしまうのと同じようなものかもしれない。

・見たいものしか見ない

地方出身の竹本ふたばがデモに参加して自分は一人ではなかったと喜ぶが、おんたんに「そう思いたいからここにきたんだろ」と反論される。
小比類巻はインターネットで自分の不安を解消してくれそうなネットの情報をかき集め陰謀論にのめりこんでいく。これも「そう思いたいから」で見たいものしか見ないネット現代人のようだ。
門出の母親もa線汚染を過剰に怖がり、自分の不安に当てはまるようなネットの言説を探して、反対の意見はシャットアウトする。
何より残酷なのはキホちゃんが死んだ後に同じ学校内の男子高校生がネットニュースでキホちゃんの死を友達と話した直後にスマホゲームの話をする場面だ。

・政治への無関心、冷笑

居酒屋でSHIPとSHIPの活動を揶揄するおじさんとの政治論争を「うるさい」と叫ぶおんたんのシーン。

居酒屋で叫ぶおんたん


SHIPは明らかにSEALDsだし、イカ派タコ派という造語はネットの政治論争のクソリベ左翼とネトウヨの対立だ。
この対立にうるさいと叫ぶオンタンは、現代の人達の思ってることでもあるだろう。過激なネトウヨの差別や攻撃もおかしいし、偉い政治家たちを批判するクソリベもよくない。そもそも政治に興味はないし、期待もできない、そういう話をする人達はなんかヤバいやつという認識。(SHIPはクソリベという書き方をしたが、これはあくまでオンタンという大衆から見た認識であって、侵略者という弱者を守ろうという行動はどう考えても立派だ)
世界で様々な問題が起きているのに世界、自分の国の政治さえ無関心というのはグローバルな時代に逆行している。
実際はこの政治へのどうでもいいやで日本人は自分達自身の生活が苦しめられてるわけだが。
ここらへんがネットで、デデデが冷笑的であると批判されてる部分だ。
しかし、みんなが見たいものだけ見て、政治には無関心だから、世界が終わりそうになっている話にも見える。
世の中への冷笑や無関心は浅野いにお作品ではよくでてくる。

「ソラニン」種田


「虹ヶ原ホログラフ」


「虹ヶ原ホログラフ」学校の様々な問題を見ないフリ




しかしデデデは明らかに現在進行形の政治を批判してる部分もある。
宇宙船の墜落事故で、各地が崩壊したり人が死んでいるのに地域の復興もせずに軍備増強に傾いていく展開。これは3.11や能登地震の復興も進まずにアメリカの兵器を買ったり、オリンピックをやろうとする。
また侵略者への憎悪を煽り、守るためという大義名分でまた軍備を増強する展開。これも中国への憎悪を煽って国民を不安にさせて軍備増強する話にも見える。
新国立競技場で自分達だけが逃げる方舟を政府と民間企業が作っている展開。
これさ政治家は汚職をやっても処罰されず、いつも逃げるし、コロナが終わってないのにオリンピックをやろうとする話そのままに見える。
原作には「ほんとにオリンピックやるの?」なんてセリフもある。
門出は冒頭でお金の事情があるから大学には行けないとこぼすが、兵器を買うお金で被災地の復興や貧困を救う事もできるはずだ。
キホちゃんが死んだのも何もしてない宇宙人を「侵略者」と決めつけ自衛隊が攻撃して宇宙船が墜落した人災だ。
ここらへんは実際こ世の中や政治対してものすごく諦めに満ちている。

・闘い始める浅野いにお作品のキャラ達

そもそも世界を滅ぼして、門出という友達が生きる道を選択することは政治的ではないのか?家族や愛する人のことを考えて、税金の使い道や国の将来を考えたりするのはむしろ当たり前で、政治的な事はそういう小さなところから始まるのではないか?
そもそも門出が行きすぎた正義を実行したのは、転校ばかり繰り返して不在の父と陰謀論にのめり込む母の愛を感じられなかったからではないか。「門出」は始まりという意味だが、他人を愛すことから始めて、それが始められないのなら世界も愛せないし「デーモン」になってしまうのではないか。
政治やルールがあるのは自分とは違う他人と共生することであって、自意識に苦しめられていたプンプンのようなキャラ達から成長したようにも見れる。

そう考えるとデデデ全体は諦めムードだが、大葉のようなキャラは世の中に立ち向かおうとしてる。

「ひかりのまち」

「ひかりのまちの」伊藤 芳一はコピーソフト販売や、人身売買、大麻の転売などで稼ぐ犯罪者だ。
かつて伊藤は田舎の「朝日村」に住んでいたが、大企業が進出してきて、豊かな土地は「ヒカリグループ」に買収されてしまう。伊藤が金を稼ぐ理由は「朝日村」を買い戻すためだ。
方法は非合法で犯罪だが、世の中の大きな流れに弾かれてしまった人物のささやかな抵抗だ。

「ひかりのまち」伊藤 芳一

浅野いにお最新作「MUJINA IN TO THE DEEP」


浅野いにお最新作品は「MUJINA IN TO THE DEEP」だ。
なんと近未来SFバトルアクションもの。

MUJINA IN TO THE DEEP

どうやらコロナ禍のようで、人権カードの国民管理(マイナンバーカードか?)や、トー横キッズなど現代の問題が目白押し。

人権を放棄した者が「ムジナ」と呼ばれる世界の話で「ムジナ」は世の中から見捨てられていて「非人権者」として差別されている。ムジナは人権の証明である人権カードがないので、店で買い物もできず、迫害されているため殺人などの仕事を請け負う。


まあ、この漫画より恐ろしいのは現実の自民党の改憲草案が人権の尊重である97条を削除しようとしてることですがね...トホホ




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