見出し画像

[Saliency Report]vol1. 小菅村視察ツアー

10/2(日)~10/3(月)に催された地域資本主義サロン 小菅村ツアーに参加した。地域・まち創りに興味を持ちはじめていた僕はこのツアーで自分がどこまでこの領域に対してエネルギーを割きたいと思えるのかを確かめたいと思っていた。その答えをツアーレポートという形でまとめたい。

地域資本主義サロン、小菅村との出会い

このツアーは面白法人カヤック(以下、カヤック)が主催するオンラインサロン「地域資本主義サロン」によって企画されていた。

地域資本主義サロンとの出会いは、ちょうど地域・まちづくりに興味を持ち始めたタイミングで、この領域のサービスについてインターネットで調べていた時だった。

鎌倉に本社を構えるカヤックが掲げていた「地域資本主義」という概念を知り、代表の柳澤さんの著書『鎌倉資本主義』を手に取った。カヤック社の取り組みや考え方に感銘を受け、この考え方の解像度を上げたいと思い地域資本主義サロンに申し込んだ。

地域資本主義サロンでは、月に1回のペースで代表の柳澤さんが地域やまちづくりの取り組んでいる有識者の方をゲストとして向かえ対談をするオンライン講座を受けることができる。参加者どうしのディスカッションの場も用意されており、意見交換もできる場となっている。

そして、僕が初めてオンライン講座に参加した回のゲストが、小菅村のまちづくりに取り組んでおられる株式会社さとゆめの嶋田さんだった。

その時のプレゼンの中で小菅村の取り組みが紹介されており、そのエピソードの面白さやスライド中に出てくる村の景色やコンセプトホテルの写真に魅了され、ぜひ一度は訪れてみたいと、行きたいところリストに登録した。

すると、オンラインサロン内で小菅村ツアーなるものが企画されていることを知り、思わず手を上げた。

地域資本主義サロンと小菅村との出会いである。

ツアーに期待していたこと

参加するからにはできるだけ多くの学びや発見を得たいと思い、嶋田さんの小菅村での取り組みが紹介されている『700人の村がひとつのホテルに「地方創生」ビジネスの革命』という著書で予習をした。

この本では、嶋田さんの目線から小菅村の取り組みが紹介されており、村づくりに携わった人物や嶋田さんの胸中が事細かに記され、まるで小説を読んでいるかのようだった。

本を読み終えると、「できるだけ村の人々と会話をして、村人の視点からこの物語を知る」ことをツアー目標のひとつとして掲げた。

また、この著書の中で民俗学者、宮本常一が父から受け継いだある言葉が紹介されている。

(2)村でも町でも新しくたずねていったところはかならず高いところへ上ってみよ、そして方向を知り、目立つものを見よ。峠の上で村を見おろすようなことがあったら、お宮の森やお寺や目につくものをまず見、家のあり方や田畑のありかた見、周囲の山々を見ておけ、そして山の上で目をひいた物があったら、そこへはかならずいって見ることだ。高いところでよく見ておいたら道にまよくようなことはほとんどない。

『700人の村がひとつのホテルに「地方創生」ビジネスの革命』
第七章 十年後を見据えての地方創生

僕はトレイルランが趣味でよく鎌倉や逗子の山を走っては、高台からまちを見下ろし、色々な発見をしていたことが思い出され、小菅村でも村が一望できる高台まで走っていこうと決めた。

それ以外にも、このツアーに参加した目的などを考えると以下のことを期待していた。

  • サロンのメンバーからまちづくりについて学ぶこと

  • 村人から小菅村物語に秘められた裏話や感情の変化を聞くこと

  • 自分がどのように地域・まち創りに携われるのかヒントを得ること

またそれらを通して、自分がどれくらい強く地域・まち創りに興味を持っているのか確かめたいとリトマス試験紙のような役割をツアーには期待していた。


小菅村での3つの発見

ツアーを通して感じたことや学んだことを自分なりに編集し、3つの発見という形で示唆のようなものをまとめてみた。地域やまちづくり初心者の考察なので、間違いや別の意見があればコメントでご指摘頂きたい。

1) 地理的に恵まれていた村であった

1つめの発見は、
「その地域の地理的特性は地方創生のキーファクターになりうる」ということだ。

「なぜ、山に囲まれたたった人口700人の村での地方創生が注目されているのか?」

この疑問に対して、地理的な要因があるのではないかという仮説が小菅村を知る中で強くなった。

小菅村は、多摩川の源流に位置している。源流だけあって、水がとても綺麗で橋から川を見下ろすと、つい吸い込まれそうになるぐらい透明で川底で泳ぐ魚がくっきりと見えた。

そんな清流で育つヤマメ・イワナといった川魚やワサビが特産品となっており、ホテルでも新鮮で美味しい魚が美しく調理され登場した。村人ガイドによると、小菅村は民間ではじめてヤマメの人工ふ化、養殖に成功した村らしい。

そして、このキレイな水を保つために"東京都が森林や下水道を整備・管理している"、という点が注目すべきポイントだ。小菅村が位置するのは山梨県なのに、である。

東京都水道局のホームページを見ると、東京の水源の17%を多摩川水系が担っているという(参考)。東京都にとっても、都民にキレイな水を届けるために重要な地域であるということを意味する。また、村民のツアーガイドから聞いた話では、特定環境保全地域として下水道の整備も早く、1988年には小さな村に下水道が整備された。

さとゆめの嶋田さんが、人口が700人で村に学校や医療機関、警察署などの公共機能が1つずつ存在するのが村として機能するミニマムサイズなのではないかと仰っていたが、それらにプラスして財源豊富な東京都によるインフラ管理のバックアップがこの村が再生の芽を後押ししているのではないだろうか。

もちろん、村民の努力によるところが大きいとは思うが、整備された森林や下水道によって魚や農作物の資源が守られ、特産品が維持できているのではないだろうか。

また、都心から電車や車で3時間足らずで行けるアクセスの良さも人が集まるポテンシャルとしては十分だ。

2) 村民のキャラ性が引き寄せる才能たち

2つ目の発見は
「人が人を呼ぶ、そうして勢いを増す動きが小菅村にある。その根本は村民の想いとユニークなキャラである」ということだ。

『700人の村がひとつのホテルに「地方創生」ビジネスの革命』を読むと、小菅村にさとゆめの嶋田さんが関わりはじめてから、ホテルのマネージャやシェフを村の外から呼んできたり、村の公共建築のデザインを手掛ける建築家が移り住んできたりしたそうで、この求心力はどこからくるのだろうと不思議に思っていた。

ツアーの中で、村長やツアーガイドを担って頂いた村民の方々、またホテル運営に携わる移住者と接することができた。村長とは夕食の席をご一緒させていただいたのだが、おおらかでお茶目な人柄にすっかり引き込まれてしまった。

そして出会った人々の共通点は、村を愛する気持ちと村外の人を受け入れるオープンなスタンスを備えていることだった。

「もう一度会いたくなる人たちだなぁ」と夕食後に星空を見ながらぼんやり思ったのを覚えている。

3) 文化と編集者

3つ目は、「文化があるだけではだめ、それをどのように編集し伝承するのかが大事である」ということ。

食、歴史、景観、暮らし。

その土地に根付いた文化はどこにでも存在するが、それらに適切な角度から光をあて、伝えていけている地域は少ないのでは無いだろうか。

小菅村は、情報サイト「こ、こすげぇー」をはじめ、村民ガイドなど編集者が多い村だなと思った。

数時間の村民ツアーでは、歴史はもちろん、住民の生活スタイルに至るまで、ガイドによって編集された情報が日経新聞並の情報量で聞くことができたし、レストランで出されるメニューは、小菅村の名産品や旬の食べ物を浮き彫りにした。

地域の魅力を伝える編集者が地方創生のキーマンなのではないだろうか。


感想

ここからは、「ツアー」、「小菅村」、宿の「NIPPONIA 大家」それぞれの感想を記していく。素直に思ったことを思いついた言葉のまま書き記した。

サロンツアー

ツアーメンバー

サロンって、いいな
僕は地域資本主義サロンがはじめて参加したオンラインサロンで、もちろんサロンメンバーとのツアーというのも初めてだった。1泊2日を過ごしてみて思うのは、興味関心が近く共通の話題があるというだけで、会話は弾むし関係はすぐに構築できるのだということ。普段やっていることや住んでいる場所、立場が違うので話が尽きることはないし終始楽しくサロンメンバーと過ごすことができた。近すぎず、遠すぎない、興味関心でゆるくつながるサロンというコミュニティの居心地の良さを実感することができた。近すぎず、遠すぎないという絶妙なバランスを保つのは簡単ではないが、オンラインサロンという仕組みはひとつの解なのではないだろうか。

焚き火って、いいな
カヤックの柳澤さんが「焚き火を囲むからこそ発言しやすいこともあるんだよね」っと仰っていたが、焚き火を囲んだ夜の団欒は印象に残っている。最近、心が踊った瞬間を互いに発表しあうということをやったのだが、情景を具体的に描写しようとするほど、発言者は当時の感情が蘇るし、聞き手は具体的にイメージすることができ、感情を共有することができる気がした。炎の落ち着きが恥じらいを消してくれることも含め、良い時間だった。それにしても良い焚き火台と焚き火スペースだった。

小菅村

三ツ子山からの小菅村(早朝トレランでたどり着いた景色)

源流の村、こすげ
集合場所からバスで小菅村に向かうと、スキーやキャンプに来たのではと思うほど見渡す限り山。アウトドア好きの僕は山に行くことは多くても、山間にある地域やそこに住む人々の暮らしに触れたことはほとんどなかった。少なくとも住みたいとは全く思っていなかった。だが、源流を軸にしたコンパクトなまち、村の創生に一生懸命な人たち、山菜や川魚という食を目の当たりにし、休日の拠点としてタイニーハウス(小菅村の株式会社つくる座が提案する、「小さな家」を意味するコンセプト)を仲間と買うのはありかもしれないな、と小菅村を後にする時には思っていた。タイニーハウスは、ヘンリー・D・ソローが暮らした丸太小屋やコルビジェが晩年に父母に送ったとされる「レマン湖畔の小さな家」を彷彿とさせ、僕の心をくすぶった。

トレイル開拓、したい
早朝に訪れた三ツ子山のハイキングコースは、綺麗に整備されていてすごく走りやすいトレイルだった。山に囲まれている小菅村なら遊び尽くせるほどのトレイルはあるはずだ。大菩薩峠の方には山々が連なり、良いトレーニングになりそうな気がする。今度行くときは、トレイル三昧もいいな。

わさび栽培、したい
わさびってなんかええ脇役やん。っとわさび田を見て思った。ステーキ、そば、寿司など素材の味をブーストさせるために欠かせないピース。山間の清流沿いに作られたひっそりとした区画で、動物たちから守りながら3年の年月が必要らしい。手間暇かけて育てる山葵が脇役に徹する姿は、いぶし銀のプレイヤーとして評価されていた僕には染みる。物産展で購入した山葵を使って、山葵が活きる料理をいくつか試してみた。まだまだ、研究が必要だ。

わさび田


NIPPONIA 小菅 源流の村 -大家-

大家の日本家屋(玄関間)

価格と体験価値について
僕は職業柄か、価格と価値を比較する癖がある。今回の宿についても、自分なりにいくつか評価軸を用意して考察してみたが、体験価値が少し下回っているという結論に至った。ただ、少し前に立地や景観が似ているあるリゾートホテルに泊まったことがあり、そこをベンチマークとして比較していることにはご容赦頂きたい。古民家を改修したホテルの内装の美しさや、インテリア、食事、接客には大満足だったのだが、宿泊体験という観点では価格に対してもう少し何かしらの価値がほしいなと思った。部屋でゆっくりする時間も少なかったので、過ごし方が違えばもっと違った感想を持ったかもしれないし、サロンメンバーやお会いできた村の人々との交流を価値に含めるなら大幅に体験価値の勝利であることは付け加えておきたい。

体験価値向上のための提案
僕が体験ディレクターならどうするかを考えてみた。僭越ながら、いくつか提案させていただきたい。

1)ドリンクをインクルーシブにしてしまう

小菅村のブルワリーのクラフトビール、山梨県産のワインや日本酒など美味しいドリンクが沢山あったのだが、それらを宿泊費に内包して提供するのはどうかというものだ。個人的なイメージだが、インクルーシブってだけで何故か得した気分になる。客層を鑑みると、お酒に溺れる人も少なそうなので、付加価値としてワークするのではないだろうか。


2)部屋での体験をアートや音楽、香りでリッチにする

崖の家の展望は見てても飽きないなと思ったが、僕の滞在した部屋からの景色はちょっと物足りなかった。庭に馴染むアート作品を設置するなど、見ていて飽きない工夫があると更に良いのではないだろうか。部屋の椅子で、お酒を片手に美しい景色を眺める時間はプライスレス。また、部屋の空間という意味では、自然の香りで満たすなどしても良いのではないかと思う。別の部屋にはレコードプレイヤーもあったが、スピーカーなどがあるだけでも自分好みの曲をかけながら部屋でゆったりできる贅沢を提供できそうだ。

と、僭越ながら思ったことを書かせてもらったが、また泊まりたいと思った素敵な宿だったので妻を連れて違った楽しみ方をしに訪れようと思う。


謝辞

かなりの長文になってしまったが、ここまで駄文にお付き合い頂きありがとうございました。ツアーを企画頂いたカヤックの資本主義サロンの皆様をはじめ、受け入れてくださったさとゆめの社長嶋田さん、村長や村民の方々、ツアーリーダーとして調整業務をしていただいたメンバーの方々に感謝を申し上げ、レポートの結びとします。


さいごに

ツアーを終え、このドメインで価値を提供できる人材になりたいと思ったので、自分でできることを考えながら行動に移していければと思う。やはり、すでに何か取り組みをしている人とそうでない人の間には大きな隔たりを感じたのも大きい。チャレンジをしている人にしか分からない景色を僕も見てみたい。

蛇足ですが、このレポートを書きながら、水曜日のカンパネラの「エジソン」をリピートしまくっていたので、この言葉で結びます。

歌う暇があったら発明してぇ


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?