令和6年 予備論文 再現 憲法
第1 ⑴
1 祭事挙行費を町内会の予算から支出することは、政教分離に反するとして憲法20条3項及び89条に違反するのではないか。
2 まず、A町内会が「国及びその機関」にあたるか。
確かに、A町内会は地方自治法260条の2第1項に定める「認可地縁団体」にあたるところ、同条第6項は「第1項の認可は、当該認可を受けた地縁による団体を、公共団体その他の行政組織の一部とすることを意味するものと解釈してはならない」と定めている。また、津地鎮祭事件や玉串料事件は愛媛県のような純粋な公共団体による公金支出であって、本件とは異なる。
しかし、あくまで、同条項は認可地縁団体にあたることから直ちに公共団体その他の行政組織の一部とすることを意味するものと解釈することを禁止しているに過ぎず、場合によってはそれらと解することまでは禁止していないといえる。そして、A町内会の加入率は100%である。さらに、A町内会規約はその目的に「会員相互の親睦及び福祉の増進を図り、地域課題の解決等に取り組むことにより、地域的な共同生活に資すること」を掲げ、この目的を達成するための事業として、①清掃、美化等の環境整備に関すること、②防災、防火に関すること、③住民相互の連絡、広報に関すること、④集会所の管理運営に関すること、⑤その他A町内会の目的を達成するために必要なこと、を挙げている。これらの事業は公共団体が行う事業に類似している。
したがって、A町内会は「国及びその機関」にあたる。
3 では、祭事挙行費を町内会の予算から支出することは政教分離に反するか。
憲法は完全な政教分離を志向していると解される。しかし、国家と宗教が全く関わり合いを持たないことは現実的には困難であるし、厳格な政教分離を貫くと宗教学校への援助が困難になり子供の学習権を侵害することにもなる。
そこで、国家と宗教の関わり合いが相当な限度を超える場合には政教分離に反すると解され、当該関わり合いが当該宗教を援助・助長する効果を有し、他の宗教に対する圧迫・干渉になる場合は、当該関わり合いが相当な限度を超えると解する。
確かに、集会所入り口には「A町内会集会所」「C神社」が並列して表示されている。また、年2回行われるC神社の祭事では、近隣から派遣された宮司が祝詞をあげるなど、神道方式により神事が行われるため、一応の宗教性も認められる。しかし、集会所は大きな一部屋からなる建物であり、平素から人々の交流や憩いの場となっているため、場所自体の宗教性は希薄である。また、C神社には神職が常駐しておらず、日々のお祀りは集会所の管理と併せて、A町内会の役員が持ち回りで行なっているため、C神社自体の宗教性も薄い。また、祭事の準備・執行・後始末などを担当しているのは、A町内会の会員である住民であり、加えてC神社の祭事では集落に伝えられてきた文化である伝統舞踊も披露されるため、祭事は世俗的な側面が強い要素である。さらに、住民の中にはC神社の氏子としての意識が強い者もいれば弱い者もいるが、住民のほとんどはC神社の祭事をA集落の重要な年中行事として認識しているので、人々の認識においても宗教性は薄い。
これらの事情からすれば、祭事挙行費を町内会の予算から支出することはC神社を援助・助長する効果を有し、他の宗教に対する圧迫・干渉になるとはいえない。
4 祭事挙行費を町内会の予算から支出することは憲法20条3項及び89条に違反するとはいえない。
第2 ⑵
1 町内会費8000円を一律に徴収することは、A集落の住民の信教の自由を侵害するとして憲法20条1項に違反するのではないか。
2 憲法21条1項によって、信教の自由が保障されている。そして、信教の自由の保障の一環として、自己の宗教上の教義に反する行為を強制されない自由としての消極的信教の自由も含まれると解される。
したがって、A町内会の住民にも上記自由が保障される。
3 A町内会の住民は、町内会費8000円を一律に徴収され、そのうち1000円が祭事挙行費に支出されることで、自己の教義とは異なる宗教を援助することを強制させられることになり、その意味で上記自由の侵害が認められる。
4 信教の自由は個人の人格やライフスタイルと密接に関わっているため、権利としての重要性は高い。しかし、A町内会が任意加入団体であるため、A町内会に相当程度の裁量も認められる。したがって、上記侵害が正当化されるかは、中間審査基準によって判断される。
5⑴ 町内会費の一律徴収の目的は町内会の事務処理の便宜を図ることにある。かかる利益は信教の自由に比べて要保護性が高いといえず、重要な目的であるとはいえない。
⑵ 他の住民の宗教の自由との関係が問題となる。しかし、自衛隊合祀訴訟事件によると、静謐な宗教環境を求める権利は認められないと判断されている。そのため、他の住民の宗教上の権利との衝突は批判に当たらない。
途中答案
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