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表参道のレストランスタッフが長野にある人口2,744人の村に移住して古民家レストランのマネージャーとして10ヶ月間過ごして気づいたこと

長野県北安曇郡小谷村。

長野県の北西端部に位置しており、
新潟県との県境にある村。

夏は冷涼、冬は日本屈指の豪雪地帯。

平地が2割しかないこの村では、ほとんどの家が山間にあり、自然との共存が求められます。

ここに住む人たちは
たくましく、人情深い。
助け合いながら、心暖かな生活をしています。

伊折集落の農業名人、
坂井 昭十さん(さかい しょうじゅうさん)。
ショベルカーの扱いもお手の物。
家が近所で、おすそ分けを届けてくれる
千國 美晴さん(ちくに みはるさん)。
毎朝お花をご好意で活けてくれています。
農村生活マイスターの
田原 富美子さん(たはら ふみこさん)。
畑の面倒だけではなく、草刈りもしてくれています。
不定期に開催される飲み会。
小谷の方は、水のように日本酒を呑みます。
小谷村百姓七人衆
僕らのために年越し蕎麦を打ってくれました。


きっと、ほとんどの方には馴染みがないその場所に、僕たちのレストランはあります。


名前は「NAGANO」


自分たちの美学を押し付けるのではく、長野県の豊かな食材を使い、長野の皆さまと「共に創るレストラン」を目指して、この名前はつけられました。

2023年7月にオープンした「NAGANO」。
あっという間に9ヶ月が経過していました。

僕個人としても、去年の6月に小谷村に移住し、
10ヶ月この場所で暮らしています。

はじめての厳しい冬を経験し、
新年度を迎えたこのタイミングで、
これまでの小谷村での生活と、
「NAGANO」での仕事を振り返るべく、
このnoteを書くことにしました。

まだまだ知られていない、「NAGANO」のこと、小谷村での生活のこと、会社のメンバーにも知ってほしいことは、山ほどあります(笑)



また都会から地方への移住を考えている方にも、
何か参考になるものを書けたらと思います。



学生時代から憧れだった長野移住


自己紹介が遅くなりました。
「NAGANO」のマネージャーをしている依田 暁(よだ さとる)と申します。

sioグループに入ったのは2年前。

3年前、コロナ禍にメディアで活躍していた鳥羽さんの存在を知り、当時、京都のホテルでフロントマンをしていた私は、この状況でも前を向いてチャレンジしていく姿に強く心を打たれました。

動向を追ううちに「この人と一緒に働いてみたい」と思うようになり、サービススタッフを募集しているタイミングですぐに応募しました。

翌年、表参道のレストラン「Hotel’s」のオープンと同時にsio株式会社に入社。

表参道 Hotel's

ホテルとレストランのサービスの違いに最初は苦戦しましたが、sioグループが大事にしている、お客様への「愛」を込めた接客だけはとにかく心がけていました。

レストランでサービスマンとしての働き方にも慣れ、入社して1年半が経ったとある日、長野のとある村に新しく古民家レストランができると社内アナウンスが流れました。

sioグループでは9つ目のお店です。

学生のころはからスノーボードが好きな私は、「長野でスノーボードを堪能する生活ができる」と心が踊り、すぐさま配属を志願しました。

無事に配属が決まり、長野に移住し、
お店のオープンを迎えました。

自分はマネージャーという役職に就き、
これまでのサービスという仕事以上に、
幅広い役割を求められることになりました。

初の地方移住。
初のレストランマネージャー。

オープンから今日に至るまで、
想像を超える怒涛の毎日が待っていました。

「NAGANO」オープン

「NAGANO」は2023年7月にオープンしました。

私は6月から現地入りし、現地スタッフ5名で共同生活をしながら、オープンの準備を進めました。

シェフは長野県上田市出身の白木シェフ。
元々は奈良のすき焼き割烹「㐂つね」のシェフをしていましたが、地元の近くにレストランができるタイミングで、本人の希望もあり、「NAGANO」のシェフになりました。

小谷村の山間にある、素敵な古民家を使って、
「長野の皆様と共に創る」ことがコンセプトのレストラン。

”関わる全ての人が幸せになる”
そんな、かっこいいレストランを作りたい。

飲食業界に入って2年しか経ってない半人前が、
そんな大それたことを考えていました。

しかしながら、レストランの立ち上げというはそんな夢からはほど遠く、厳しい現実を突きつけられる毎日でした。

ユニフォームが直前まで届かない
提供するドリンクの内容が決まっていない
ディーナーコースが一部完成していない
メニューのデザインが決まっていないetc…。

自分が招いた結果ですが、
今考えると心が縮むような毎日を過ごしました。

そんな日々の心の支えになったのは、
小谷村の皆さまの温かい声。

「古民家が息を吹き返したみたい」
「ここで一体どんな料理が食べられるの?」
「こんな素敵なレストランができて、小谷村民として誇りに思う」

期待の現れと喜びが私の活力となり、なんとか無事オープンをむかえることができました。

「NAGANO」の1年目

sioグループ9店舗目、レストラン「NAGANO」のすべり出しは、お世辞にもいいものと言えるものではありませんでした。

東京から車で5時間、
新幹線だと1時間半と長野駅から車で1時間。

決して交通の便が良いとは言えないお店は、来るまでのハードルがとても高いこともあり、ランチはほぼ満席でしたが、ディナーは常に満席という状況にはなりませんでした。

集客の難しさに悪戦苦闘する毎日。

周辺のホテルやスキー場に挨拶に伺い、
お客様に紹介してもらえるよう交渉したり、

SNSで魅力が伝わるような動画を発信したり、
(ぜひインスタフォローお願いします!)

色々試してみてはいるものの、どうしたら「NAGANO」に足を運んでもらえるのか、まだ答えは見つかっていません。

オープンして間もなく、sioグループで馴染みのお客様が多く来てくれました。

「東京からはるばる車で来たが、それを超えた感動体験だった」
「都会と騒音の中食べるよりも、景色も良い所で食べるのが良い」
「自然の音やお店の雰囲気も加わり、最高の体験だった」
「古民家の凛とした空間がたまらなく良かった」

来てくれた皆さまから、
たくさんのお褒めの声をいただきました。

【ディスティネーションレストラン】
という言葉があります。

「そのために訪れる価値のあるレストラン」
という意味です。

「わざわざ時間をかけてレストランにご飯を食べに行く」

手前味噌ですが、
NAGANOの料理、NAGANOでの全ての体験は、
わざわざ行く価値があるものだと思います。

来てくれた方の感想を聞くうちに、
その体験価値に確固たる自身がついてきました。

まだ「NAGANO」に来たことがない人には、
その贅沢な体験をぜひ一度味わって欲しいです。

きっと感動すると思います。

小谷村で暮らす現実

「NAGANO」があるのは、
長野県内でも特に積雪量が多いと言われている小谷村の千國地区。
全国的にも有名なスキー場が近くにある場所です。

標高がおよそ770mの山間にあり、
熊や狸、猿などの動物の姿もちらほら。

もちろん道路沿いに電灯はなく、
夜になると周りは真っ暗です。
人影はほとんどありません。

家から最寄りのコンビニまでは
車で約15分。

ガソリンスタンドは18時に閉まり、
朝晩雪かきをしないと家から出発ができません。

生活圏内に電車が通っていないため、
車がないとどこにも行けません。

東京にいた頃に比べると、
不便なことは多いです。

ただ不便だからこそ、
色んなものに気づくことができました。

その1つは、
「自分は色んな人に助けられて生きている」
ということです。

レストランのオープンに合わせて、隣接する畑を、小谷村役場のご好意で貸していただけることになりました。

自家菜園にも興味があった私は、
はじめのころは威勢よく、
村の方の提案にも乗り気で、
沢山の種類の野菜の苗を植えました。

しかしお店がオープンしてからは、
慣れないお店の営業と、
どんどん生えてくる雑草の処理で、
畑の管理に全く手が回らなくなってしまいました。

胡瓜やズッキーニは、2,3日放置すると、
市販で売られている4〜5倍ほどの大きさになります。

動物達が畑を荒らしてしまうこともあります。

その成長サイクルの早さについていけず、
結局、畑のほとんどを村の方に見ていただくことになってしまいました。

それだけでなく、食材の調達や食文化の勉強、日々の生活など、多くのことで小谷村の皆さんに助けてもらっています。

イメージとのギャップに驚いたのは、小谷村の皆さんはほとんど休むことなく働きっぱなしなことです。

特にお年寄りの方が、毎日元気に農作業をしている姿を見てびっくりしました。

田舎といえば、のんびりとしたほのぼのライフ。
そんなイメージを持っていましたが、小谷村ではそんなことはありません(笑)

関わる皆様は、僕たちよりたくましく、
元気に、アグレッシブな生活を送っています。

そんな小谷村の皆さまに毎日全力で助けられ、
ようやく1年が経ちます。
自分たちだけでは何もできなかった。
10ヶ月経った今でも知らないことだらけです。

レストランに招待して僕たちの料理を食べてもらったり、少しずつお返ししていますが、まだまだお世話になった皆さまに返しきれていません。

このレストランが観光の目的地になって、
たくさんのお客様を小谷村へ迎えることが、
皆さんへの1番の恩返しになるので、

もっと知ってもらえるようにがんばります。

小谷村ではじめての冬

小谷村に来てもう1つ気づいたことがあります。
それは「自分が思っていた以上に、自分はレストランという場所が好きだ」ということです。

小谷村の隣には白馬村という村があります。

1998年の冬季オリンピックの開催地にも選ばれ、
ウィンター スポーツのメッカとも称される場所です。

スノーシーズンには、外国人観光客で賑わう白馬。その周辺の飲食店はスノーシーズンで年間の売上のほとんどを稼ぐほど。

そんな中でのレストラン営業には、
思わぬ落とし穴がありました。

それは言葉の壁です。

ほとんどの外国人観光客には日本語が通じません。

表参道のHotel’sにいた頃にも、海外のお客様はちらほら見られましたが、NAGANOにはその比にならないほどの数の海外の方の来店があります。

来ていただいた方に、
まず自分が館内を案内して、
囲炉裏を囲んでお茶を出す、
という恒例のサービスがあります。

日々感じる、
伝えたいことが伝えられないもどかしさ。

ジェスチャーや単語である程度の会話はでき、楽しんでいただけていましたが、
「料理についてもっと深く知って欲しい」
「NAGANOの良さが100%伝えきれていない」
と反省する毎日でした。

僕は、勉強が好きなタイプではありません。
学生時代、英語の勉強が嫌いでストレスを感じていました。

そんな自分が自然と日常的に英語の勉強をするようになりました。

英語の勉強をするストレスより、NAGANOの魅力がスマートに伝えられないストレスが大きく、伝えたいという想いが日に日に増していきました。

はるばる来ていただいた方に、
最高の思い出を提供したい。

まだまだ未熟ですが、
苦手なこともお客様のためなら頑張れる。

今年は英語でスマートなジョークが言えるようになるくらい、貪欲に頑張りたいと思います(笑)

レストラン「NAGANO」

さて、ここまでは小谷村での経験を経て気づいたことや、皆さまに知って欲しいリアルなレストランの現場や、小谷村での生活について書いてきましたが、もう1つ皆さまに伝えたいことがあります。

僕らが働いている「NAGANO」というお店についてです。

「NAGANO」は小谷村に元々あった、築140年の古民家を改装した建物をお借りしています。


古い建物ならではの、長い歳月によって生み出された美しさが随所に感じられます。

詩季織々の風景も楽しめるのも魅力で、
特に秋の紅葉の時期がおすすめです。

見渡す山々が色づいた様子は圧巻で、
標高差による色付きの変化も見ることもできます。

今年の冬には木に付いた水分が固まった「雨氷」という現象がとても印象的で綺麗でした。


鎌池  /  雨氷

都会に住んでいる人は特に、
小谷村に来ると「空気と水が美味しい」と言います。

この美味しさを知ってしまうと、
都会に帰れなくなります(笑)


また、「NAGANO」は長野県を中心とした、
食材や文化を体験できるフルコースのレストランになっています。

広大な長野県の全域にわたって広く栽培され、古くから愛され続けている伝統食 『 蕎麦 』をメインに、sioイズムである5味+1を詰め込んだ「蕎麦粉のガレット」

お皿の周りに店舗周辺で採れる野草などをあしらい、四季の移ろいを感じられる「NAGANOの八寸」。

店舗周辺に群生しているカタバミの葉を丁寧に並べた酒粕のチーズケーキ

小谷村の早生品種の玄米『 ゆめしなの 』と、小谷村の伝統的な漬物『 小谷漬 』の炊き込みご飯

また、冬季に出している小谷村伝統の雪の下で育てる雪中キャベツは、糖度も高く取れたては水々しくてとても美味しいです。

その時々で、長野県内の旬の食材を取り入れながら、「NAGANO」のコースは変化し、進化していきます。


そして何より、「NAGANO」のプロジェクトには沢山の人が携わっています。

一番近い距離でお世話になっている小谷村の方々には、オープン以降、特にお世話になりっぱなしです。

毎朝無償で店内のお花を活けてくれたり、農業を手伝ってくれたり、料理を教えてくれたり。

たくさんの方々の想いが、お店にも料理の中にも余すところなく散りばめられています。

もちろん「sio」のイズムも。

ぜひそんな想いの詰まった料理と、
想いを込めたサービスを、
140年の歴史が詰まった建物で、
味わっていただけたら嬉しいです。

「NAGANO」のもう1つの姿

夜は長野県の旬を詰め込んだコース料理のレストラン「NAGANO」。

実は昼間は「ながの」として、定食を提供しています。

「究極の鮭定食を作る。」

2年前、旗艦店の「sio」ではじまったこのプロジェクトは、昨年は「Hotel’s」に引き継がれ、形を変えて「NAGANO」にやってきました。

パリパリの皮目に、しっとりジューシーな鮭。
県産の食材を使った小鉢。
極上七味と熱々のとん汁。
おかわり自由の炊き立ての白米。
締めには出汁茶漬け。
食後には温かいお茶とお茶菓子を。

この空間で食べる極上に鮭定食の贅沢さは、体験した人にしかきっと分からない幸福があります。

たかが鮭定食、されど鮭定食。
sioグループが作りあげた渾身の鮭定食。

このために来る価値ありです。



「長野県の小谷ってところに、めっちゃいい古民家があって、そこでレストランやるんっすよ。」

鳥羽さんのこの一言が、僕がマネージャーをしている「NAGANO」との、はじめての接点でした。

気がついたら、営業中、仕事そっちのけで盗み聞きをしていました。

「小谷って村が管理してて」
「築100年くらいの古民家で」
「山奥にあるんすけど」
「めちゃくちゃかっこいいんですよ」
「そこでレストランやろうと思うんすけどね」
「冬は雪がめっちゃ多いらしいんすけど」
「まじ最高なんすよ」

営業後も、舞い上がった気持ちが抑えられませんでした。

帰りの電車の中で、同僚の仁くんに
「今日鳥羽さんが話した長野県の古民家のこと聞いた?ずっと長野県に住みたかったんだよねー。社内公募はじまったら絶対応募するわ!」

帰宅後、同棲していた彼女(現在奥さん)に
「鳥羽さんが長野県で新しいレストランをはじめるんだって。長野県にずっと住みたいと思ってたから、挑戦したいと思ってる。」

こんなことを言ってました。

あとからわかったことですが、この時点では正式にレストランやるか、まだ決まっていなかったそうです。(笑)

鳥羽さんの勢いもすごいですが、
僕も、なかなかだなって思います。

でも、なんだか、
あまり考えず、わりと自由に生きてきた人生。
30年目にして、点と点が繋がった気がしました。

NAGANO オープニングメンバー

NGANO / ながの ご案内
住所:長野県 北安曇郡小谷村 千国乙823-4
電話番号:0261-88-0590

位置情報:
https://maps.app.goo.gl/oHwKD7tRABiF5FWL9
予約サイト:
https://www.tablecheck.com/ja/nagano
Instagram:
https://www.instagram.com/nagano_otari?igsh=M2IxZG82aXd6Y2pk
X(Twitter):
https://twitter.com/nagano_otari

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