鉄道模型の縮尺について

 日本で鉄道模型をやっている人の中で、一番多く採用されているのはまちがいなくNゲージでしょう。
 ですが、これは正確にいうと「Nゲージ風」というべきかもしれません。
 なぜかというと、日本でのNゲージは1/150でできているものが多いのですが、Nゲージというものは、正しくは1/160で作られなければいけないきまりだからです。
 しかし、不思議なことにこの国では、1/150で作られたものが普通で、わたしもそれを愛用しています。
 日本でNゲージを1/160でなく1/150で作るのがあたりまえになったのにはいろいろな理由が考えられますが、その発端はわたしが鉄道模型をはじめるよりも数年早く、とやかくいうにはいささか遅かったようです。
 そもそもNゲージが一般的になるよりも20年(いや実際には15年、あるいは10年そこそこですが)前に、線路幅16.5mmの鉄道模型が日本でも主流になろうとしている時期がありました。これは本来なら1/87の「HO」であるべきだったところ、日本では線路幅が狭い(狭くないのもあったが主流ではなかった)いわゆる狭軌の国鉄が普通であり、縮尺をあわせるにも軌間をあわせるにもうまくいかなかったので、1/80、16.5mmという妥協の産物が生み出されたのです。現代なら「なぜ?」と思いますが、そのころはアメリカ型の鉄道模型が産業的には主軸(対アメリカへの輸出)であり、そこに日本のファンをとりこむためには縮尺を1/87のままではなく1/80にしたほうがわかりやすい、とおもにメーカーが考えたのでしょう。いまの常識では理解できない世界ですが、わたしの世代はこのようにとりこまれたのです。日本人のファン層なんてアメリカ人のそれから比べたら笑ってしまうほど脆弱だったんですね。
 このようにとりこまれた人々の多くは、メーカーや模型店からその名前をHOゲージと教えられていました。わたしなど、ごく一部のファンは「その呼び方はおかしい」という考えに従って「16番」という呼び方を50年以上も使っていますが、どうやっても少数であるのが現実です。しかしいきがかり上とはいえ1/80を使用している人が自分のゲージを「HO」と呼ぶのはおかしいのです。
 こんなことを16.5mmゲージを自分のゲージとしている人たちと話しても時間の無駄になりそうなのでそろそろやめますが、9mm幅のゲージは自分の話ですのでもう少しつづけましょう。
 
 先ほども書きましたように、日本と英国は別にして、Nゲージには1/160、9mmゲージという標準があり、全グループの統一規格です。英国人は1/148でゲージは同じ9mmで楽しんでいます。ただ、どちらかというと1/76のOOゲージのほうが多くて1/148はかなり少ないようです。どう考えても、Nゲージのほうが16.5mmゲージよりも盛んなのは圧倒的に日本らしく、欧米では16.5mmゲージのほうが主流ではありますが、どちらのサイズでもイギリスの人々がアメリカやヨーロッパ(イギリスを除く)の人たちと違う縮尺を好むのは、国民性があらわれていると思います。1435mmゲージを1/148にすると9.7mmくらいですので縮尺としては?なんですが、英国人としてはそれが一番よかったのでしょう。
 Nゲージが日本に本格的にデビューしたのは1965年ですが、こちらは1/150でいくことになりました。もちろん、そんなに安易に決めたわけではなく、たとえば1/120・9mmゲージでいこうという人などもいたのですが、最初に製品化に踏み切った関水金属が1/150という縮尺を採用し、かなり遅れてはじめたトミーなどもこのサイズをとったわけです。
 これが正解、という答えは簡単には出せないですが、いまのところ「間違っていた」といいはるのにも無理があります。1/150が1/148に比べて国民性によるもの、というよりももうちょっと企業的というか、経営的な計算が強かったとはいうものの、結果として多くの日本人に受け入れられている事実は認めないわけにはいかないでしょう。
 しかしながら、これを「正しい」ともいえないのが困ったところなのです。まあ、縮尺だのなんだのはおいておくとしても、線路の幅がリアルサイズよりも広いことは、誰が見てもわかります。1435mmを160で割った幅が9mmなのに、1067mmを160でなく150で割ったら何ミリになるか、これはかなり強引な話でしょう。たまに実物をビデオに撮ったものをみていると、悲しくなるときがあります。
 一方、新幹線は1/160でつくるのが当初からのルールだったらしく、いまやそれも一般的な模型の一部になっている今日では、これを共存させていくにも「?」という印をつける人も出てきそうな勢いです。まあ、7ミリの線路幅を「よし」とする動きがあったとしても、日本型の在来線の鉄道を1/160でやろう、ということになるとは思えませんが、新幹線との共存に関しては、論議があってもよいでしょう。わたし個人としては、生きている間に自分のゲージ・縮尺は変わらないと思うので別にこのままでもよいのですが、日本のNゲージはこうである、と誰かがいってくれたらいくらか気が楽なんだけど、とは思います。
 とはいえ、16.5mmゲージ近辺でさえいまだに収まらないゲージの話が、9mmあたりだけ急激に収まるとは考えられません。だいたい、日本人には(わたしも含めて)この種の論争がうまい人が少ないと思います。論じていると、相手の人格まで否定したくなる気分になってしまうところがあるのでしょう。
 わたしはやみくもにゲージ論をやりたい、といっているわけではありません。ただ、メーカーや模型店だけが進めている日本のゲージというものに対して、ファンが無条件に従ってよいのか、いささか疑問に思う次第です。

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