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【歴史小説】北風の賦 全6章+付録

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「今に見とれよ、お前を一介の御用聞きとして、目の前に這いつくばらせたるからな」……兵庫津の北風荘左衛門は、旧友瓦林加介の誘いに乗り、荒木村重の反乱計画に加担する。狙うは、魔王織田…
歴史小説「北風の賦」を、まとめて読んでいただくことができます!「まえがき」「英雄のいない摂津 〜『…
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「北風の賦」まえがき

 この小説は、現在の神戸港に当たる、兵庫津を舞台にしています。  その地には、南北朝時代以来、「北風家」という商家がありました。  明治維新に至って、その財力で大いに尊攘の志士を助けたものの、ついには身代を傾け、倒産・絶家してしまったといいます。  しかし初めから商人だったわけではなく、そもそも武士として立身し、それに挫折したことで、やむなく商売を始めた、ということのようです。  室町時代の半ばに、北風家は二流に分かれました。  一方は「嫡家」、もう一方は「宗家」を名乗り、相

【エッセイ】845年目のイニエスタ

 地下鉄和田岬駅の二番出口から地上へ出ていくと、JRの線路の車止めが目の前にあった。 「これはここで終点なんだよ」  と、ポワールが指さした。 「へえ」  と私はうなずく。 「和田岬線は、兵庫と和田岬の二駅しかないんだよ。ずっと昔は、鐘紡前駅とかあったみたいやけどな」 「ふうん」 「鐘紡って、あの化粧品のカネボウ。今のクラシエ」 「はあー」 「神戸大空襲で壊滅的な被害を受けてから、再建されなかったらしい」 「それは、ほんとに昔やね」  ポワールは、別に鉄ちゃんではない。兵庫県