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『雌蛇の罠&女豹の恩讐を振り返る』(2)雌蛇はセーラー服でやってくる。

NOZOMIとの一戦は、大晦日、全国生中継の中行われるが、試合が迫ってくるにつれ堂島源太郎の緊張感は否が応でも高まってくる。それはそうだろう、、どんな強い相手でも、勝ち負けを超えた自分の生き様を見せることがド根性源太郎の流儀。そんな姿を家族にも見せてきた気概があった。しかし今回は勝手が違うのだ。相手はまだ高校2年生の女の子なのだから…。

それは死んでも負けられない戦いだ。

妻佐知子は「勝っても負けても逃げずに死力を尽くして戦うことが大切」と言うが、それは理屈だ。男が女、それもまだ17才の女の子に敗れるようなことあれば、キックボクサーとして10年以上も第一線を張ってきた実績が意味ないものになってしまう。男としての誇りが失われ、歩んできた人生そのものが否定される。堂島は負ければ腹を切るような覚悟でリングに上がる。

そんな堂島とは対象的にNOZOMIは絶対の自信を持っていた。自分が勝つことは勿論のこと、全国生中継で残酷ショーをお見せすると、、その決着方法を考えていた。

格闘技というものは男のするもの、女はファイトすることに向いていない、否、するべきではないと考えられてきた。従って、
格闘技はその長い歴史の中で、男同士を想定されその技術は進化してきた。
しかし、NOZOMIは骨格の頑丈さや筋肉量は男に劣ると認めつつ、女には女なりの肉体的特徴があり、男に勝る身体的長所を利用すれば男を打ち倒すことは可能。それにメンタル面は女子の方が絶対強い。そう信じてきた。そんな女子の心身両面の特徴を生かしたトレーニング方法も考え出した。
長い歴史の中で、男子格闘家が積み上げてきた格闘技の技術体系とは全く違う。男子と同じことをやっていれば女子に勝ち目はなく、女子のための女子による格闘技における新たな技術革新をNOZOMIは目指す。

堂島源太郎が「男」というものに拘るように、NOZOMIも「女の子」というものに拘っている。戦いの場に臨むのだから女を捨てマッチョになるという考えは男側の理屈に取り込まれることであり、男女平等と考えるNOZOMIは、普段はミニスカートも穿くオシャレな女の子として男を倒すことに意味があると考えている。
事実、NOZOMIはモデルとしても活躍する絶世の美少女なのだ。

調印式の場にNOZOMIは「これが私の正装です」と、その脚線美を強調するスリットの入ったロングドレスでやってきた。
調印後記念撮影をする舞台に上がると、堂島はNOZOMIと向き合った。その背の高さに驚き、更にハイヒールを履いているので見おろされている恰好になる。
男と女が拳を握りファイティングポーズで向かい合う記念撮影。武骨な男、堂島源太郎の前で拳を構えているのはロングドレス姿の17才美少女。この両者は本当にリングで拳を交えるのか?といった異様な空気に包まれたことでしょうね?
堂島にしても目の前の少女のオーラに足がすくむような思いであった。

俺はこんなのと戦うのか?…

試合の入場式では、女の子であることに拘るNOZOMIのパフォーマンスが圧巻。
舞台の袖からセーラー服姿の女子高生の群れが続々とやってくる。その中心にいるのがNOZOMIであり、彼女もセーラー服姿でリングに向かってくる。これから、男と死闘を繰り広げようというのにセーラー服姿で入場して来るのだ。モデルもしているからこそのパフォーマンスなのだろう。

『雌蛇の罠』(10)入場式 で確認下さい。

それを見た堂島源太郎は。 
”ここは男の戦場だぞ、、そんな格好で来やがって!”  憤りを感じたことでしょうね。
同時に “ここは俺のいるべき場所ではない” と、リングから逃げてしまいたい衝動に駆られる。そして、NOZOMIの圧倒的オーラを前に膝がガクガクと震えるのだった。

リング下では、妻の佐知子、息子の龍太、娘の麻美が、緊張の面持ちでリング上の夫を父を見つめている。

佐知子はNOZOMIの入場パフォーマンスに夫の足が震えていることを見逃さない。
NOZOMIのジェンダーレス的な考えに共感するも、その過剰な入場パフォーマンスには不快感を覚える。あれでは、正常な気持ちで夫はファイトすることが出来ない。

龍太はNOZOMIの入場パフォーマンスに怒りを感じていた。神聖なるリングにセーラー服で入場してくるなんて、父ちゃんをバカにしてるのか?  万一、あんな短いスカートを穿いてくる女子高生に負けてしまったなら? 父ちゃんが女の子に格闘技で負けるわけないよね?一発でKOだよね?
龍太は強くて尊敬する父を信じていながらも負ける姿を想像すると不安で不安でたまらない気持ちになった。

麻美はカリスマモデルとしてのNOZOMIに憧れており、そんな憧れの存在と尊敬する父が試合するのが嬉しくて仕方ない。幼い麻美には父がどんな気持ちでリングに上がっているのか理解出来ない。NOZOMIの入場パフォーマンスをうっとり観ている視線の先にはリング上で父がぽつねんと突っ立っている。麻美は急に悲しくなった。
“どうして女の子と戦うの? 強くてやさしいパパが女の子に負けたらどうしよう”
「パパ頑張って〜!」

セーラー服姿のNOZOMIはそのままリングで待つ堂島源太郎に向かって走った。
コーナーポストに手をかけ、ひょいと飛び乗るとタイガーマスク顔負けのバランス感覚でピタッと立ち止まる。そして、堂島に目を向け宙で一回転するとリングに舞い降りたのだった。なんという身体能力!

場内からは津波のような歓声。
NOZOMIの入場パフォーマンスを観た観客は、全国生中継での視聴者は、これをどんな気持ちで観たでしょうね? これから繰り広げられるリング上での死闘を思い想像力をか掻き立てられたことでしょう。
セーラー服で入場してくる少女が、元日本王者のキックボクサーと戦うのですから、想像さえ出来ないことです。

男!堂島源太郎にとって、セーラー服でやって来た女子高生に敗北する意味は?

いよいよゴングは鳴る。

次回、続きは来週半ば頃です。

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