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やっちゃば一代記 思い出(17)

大木健二の洋菜ものがたり
 薬草か、野菜か?
フェンネル
 野菜というより薬草のイメージが強く、日本の消費は今一つ伸びません。イタリアのシチリアでは時期になると、野山の至る所に原生種が百花繚乱。
家庭では煮込みやサラダの隠し味としてよく使われています。
 日本では食用として注目されたのは進駐軍が駐留した頃の第一次洋菜ブームからです。当時は房州(千葉県)の農家が葉をつけたまま出荷していましたが、独特の香りはあっても食味や形が本場のイタリア産にはほど遠く、今では国内産は夏場の長野産や愛知さんを除いて数えるくらいです。
 私は、新米の頃の昭和八年から九年にかけてセロリアックとグリーンアスパラを分けてもらいにツムラ順天堂の圃場(調布市仙川)近くまで通いました。この圃場では、漢方薬の原料としてフェンネルも栽培されていました。
しかし、どうゆうわけか、仕入れに行く度に、係の番頭さんが近くの駅に品物を持ってきてくれるのです。こちらはペーペーの若僧ですから恐縮するばかり。あとで考えると、圃場を見せたくなかったのが本音だったようです。
番頭の後藤さんが恐かったこともあり、ついぞ見せてくれとも言い出せずに時が過ぎてしまいました。
 戦後、ツムラ順天堂に後藤さんの消息や当時のことを尋ねましたが、手がかりすらありません。もしかしたら、昔のフェンネルに再開できるのではと期待していただけにちょっと寂しくなりましたね。
 ※フェンネル
 正式名はフローレンスフェンネル
   南ヨーロッパ原産。セリ科ウイキョウ属の多年草です。
   草丈1~1.5メートル、葉柄基部がタマネギ状にに肥大します。
   原種は江戸時代に中国経由で渡来し、1845年の京都医学院が主催した異国 
   草本会という品評会に出品されたという史実画あります。
   根っこの部分にあるアネトールという物質が婦人病などに効くと言われ。
   ツムラ順天堂の中将湯や実母散(江戸中橋の木谷藤兵衛店を本家として広く 
   流布した婦人薬=広辞苑)の原料として国内栽培されていたようです。
   食用種は明治初年に導入されましたが、普及はしませんでした。主要な輸
  入品はもっぱら根部が利用されますが、最近は魚の臭みを取るために葉の
  部分 を求める声も多いですね。


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