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デジタルバレンタインサイレンスフィクショナリー

戦略的に購買意欲を高めたい。
バレンタインとはそもそもそちら側から盛り上がる。
実際に企業側が店頭で無料でチョコを配りまくるとその後、脳にダイレクトに届く幸せ物質の影響により財布の紐が緩くなった。経済活動は潤った。チョコには危険な幸せが配合されている。
バレンタインデイは街に出よう。
そのキャッチコピーは大当たりした。
恋とか今は関係ないし、、そういう状態で迎えるバレンタインは世界中に山ほどある。だから関係なくする。誰にでもチョコが無料で配られている。いつものポケットティッシュを配るあの子もころんと手のひらにチョコを載せて美味しいですよと微笑む。一人暮らしのポストを開けるとバラバラと落ちてくるのはチョコレートの数々。ポスティングの会社にもチョコ付き広告が依頼された。街ブラして三件ほどハシゴしたらカバンには今日だけで食べきれないほどのチョコレート。誰の口にもチョコを放り込む作戦。国民は戦略的思考という経済論に興味を持つ様になった。不幸を産まないんだなと感心したからだった。
だけどやっぱり甘いものが苦手な人には効かない。ビターな大人味と宣伝しても欲しくないものは欲しくない。

鬱陶しいほどのチョコレートで鞄が膨れて歩きにくい。公園のベンチに座り、これどうしよか?と取り出した。辺りを見渡したらリサイクルの大きな籠の横に
《チョコ専用》と書いてあった。僕は近づき、はいどうぞと呟きながらひとつ入れた。自動音声でお菓子のCMソングが流れ始めた。
寂しそうに歌うなあと思っていたら、その音に吸い寄せられるみたいに人間が集まり出した。怖かったけど鞄のチョコを全て入れて逃げる様に帰る。遠くから見守ってみたけど、あれはどうも僕の知ってる人間ではなさそうだった。

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