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第96回アカデミー賞期待の作品紹介No. 12「アメリカン・フィクション」

AWARDS PROFILE Vol. 12

アメリカン・フィクション

RT: 94%
MC: 82
IMDb: 7.9

 最新作の評判が芳しくない作家モンクは、貧しくも健気な黒人の生活を描写した小説がもてはやされる様を見て憤怒していた。彼は、この悪しきサイクルを証明するために、あえてステレオタイプな黒人の小説を書いたところ、これが大ウケし、彼自身が軽蔑していたサイクルの中へと巻き込まれてしまう...。

 近年「ウォッチメン」や「メディア王〜華麗なる一族〜」などのテレビドラマに携わり、前者ではプライムタイム・エミー賞の脚本賞に輝いた、コード・ジェファーソンによる長編初監督作。ジェファーソンが脚本も兼任している今作は、パーシヴァル・エヴェレットによる2001年発表の小説「Erasure」を基にしている。怒れる作家モンクにはベテランのジェフリー・ライト、他にもトレイシー・エリス・ロスやスターリング・K・ブラウンをはじめ、エリカ・アレクサンダー、レズリー・ウガムズ、イッサ・レイらが爆発力あるアンサンブルを作っている。彼らがコメディを得意とする布陣という点にも注目だ。トロント国際映画祭で公開されるや一気に注目を集めて、その勢いのまま、他の有力作を押しのけて同映画祭観客賞の一位に選ばれた。近年でもベスト級の挑発的で力強い風刺劇との評価。監督ジェファーソンのずば抜けたコメディセンスは、観る者をクレイジーなスパイラルへと突き落とす。人種、搾取、家族、アイデンティティと、繊細な問題が複雑に絡み合う中央でユーモアがどすんと構えている。文学界へのジャブは鋭く、面白く、また何よりも際立つのは家族の物語とのこと。痛烈な展開が待ち受ける中で、キャストたちが温かなハートを立ち上がらせることに成功する。特に主演ライトの演技は、コメディとドラマをぶん回す暴れん坊な作品の核に密着し、周囲に笑いと皮肉を伝染させる。共感を持ちながら注意深く形作られたキャラクター像は、監督とキャストの信頼なくしては成立しなかったことだろう。何でもステレオタイプに当てはめてもてはやす事象は、現代アメリカにおいて真面目に議論される事案ではあるが、今作では斜め上の角度から深刻な顔を一切見せずに、シリアスな議論を笑いに包み込んで投げかけている。2月27日よりプライムビデオで配信予定。

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