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第96回アカデミー賞期待の作品紹介No. 15「メイ・ディセンバー ゆれる真実」

AWARDS PROFILE Vol. 15

メイ・ディセンバー ゆれる真実

RT: 92%
MC: 85
IMDb: 7.1

 20年前に禁断のロマンスで全米を騒がせたグレイシーとジョー。二人は現在、閑静な街に住み、子供の高校卒業を目前に控えていた。そこへ、グレイシーとジョーを題材にした映画でグレイシーを演じる俳優、エリザベス・ベリーがハリウッドからリサーチのために二人の元を訪れる。エリザベスがグレイシーを研究する中で、段々と彼らの力関係が崩れていく...。

 ["May-December"]:(恋愛・結婚において)親子ほど年齢の開きがあること。

 禁断のゴシップから20年を経たカップルを解剖する本作の監督は、ロマンスや女性を主題とした作品を多く手掛けるトッド・ヘインズ。サミー・バーチとアレックス・メチャニクによるストーリーを基に、バーチが脚本を執筆した。エリザベスを演じるのは、オスカーに輝くナタリー・ポートマン。グレイシーを演じるのは、これまたオスカー受賞者のジュリアン・ムーア。まだ年若い夫ジョーには、チャールズ・メルトンが扮している。カンヌ国際映画祭でプレミアを迎えて以来、胸をざわつかせる、わざとらしくも面白い作品と好評を博している。演技や否認、不正行為、同意年齢のテーマを伴う、成長とそのプロセスにおける歩みと失敗についてを描く。監督お馴染みの華麗なスタイルを極力抑えて、非常に巧みにトーンと視点の操作を駆使し、キャラクターたちの心理を洞察する。ヘインズの原点回帰ともいえる性格描写は、個人や社会、文化に対して鋭い分析をし、ほの暗い活気と嫌悪感が行き来する居心地の悪さを感じるとのこと。扱われる題材が繊細な問題のため、どこまでも暗くなりうるのに、複雑で痛みを伴う感情を、皮肉なユーモアを交えて描くことで、アメリカが抱える病理を探ることに成功している。今作は道徳的であることを迎合する映画界において、道徳的曖昧さに正面から取り組むところに新鮮味があると称えられている。ポートマンとムーアは文字通りの演技合戦。ポートマンは次第に、夫婦の危険な領域へと踏み込んでいく静かな狂気を魅せる。ムーアは自身の仮面の中を覗き込まれ取り乱す。メルトンは、自身の置かれた状況を再認識し、大いに心がかき乱される。この完璧に不均衡な三角関係が複合的なテーマ全てを物語る。リアリティーとメロドラマの合体。扇動と思慮深さを融合させることで今作は、他人事と思ってスキャンダルを消費する大衆の姿もまた、辛辣に反射させる。7月12日公開予定。

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