見出し画像

第96回アカデミー賞期待の作品紹介No. 29「ORIGIN」

AWARDS PROFILE Vol. 29

ORIGIN

RT: 77%
MC: 76
IMDb: 6.5

 イザベルは私生活で大きな悲劇に見舞われながら、世界規模の調査と発見の中に身を置き、その膨大な規模のプロジェクトと向きあうことで、自分自身の中にある美しさと勇気を見出していく...。

 「グローリー/明日への行進」でキング牧師の肖像に迫り、「13th -憲法修正第13条-」で現代アメリカの刑務所システムを明らかにし、「ボクらを見る目」で冤罪の少年たちが長い時をかけて無罪を証明する過程を描き、「リンクル・イン・タイム」でディズニーのファンタジーに溺れたり、と長編映画、ドキュメンタリー、テレビドラマと媒体を変えて現代社会にメッセージを送り続けるエイヴァ・デュヴァーネイ監督が、今作で取り組むのは作家イザベル・ウィルカーソンの人生の物語だ。今作はウィルカーソン著のアメリカにおける人種差別を考察した、ノンフィクション本「Caste: The Origins of Our Discontents」を調査、執筆する過程を描いている。この本は、階層等によって特徴づけられる社会全体のシステムを、インドのカースト制やナチス時代のドイツを引き合いに、そのシステムが人々に与える影響を調べた作品だ。2020年に出版されやいなや、大絶賛を巻き起こし、ベストセラーとなった。イザベル・ウィルカーソンを演じるのは、「ドリームプラン」でW・スミスを食う存在感をみせてオスカー助演候補になったアーンジャニュー・エリス。病に蝕まれている彼女の夫ブレットにはジョン・バーンサル、他にもヴェラ・ファーミガ、オードラ・マクドナルド、ニーシー・ナッシュ=ベッツ等、デュヴァーネイ監督作の常連が集まっている。現代アメリカを総括するような本の執筆過程で、ウィルカーソンが乗り越えた苦難を描いた今作は、ヴェネチア国際映画祭でプレミア上映されて人々の心に響く作品と好評を集めている。人種差別が叫ばれる、今の時代に重要な意味を持つ映画とのこと。長編映画にするには学術的すぎるテーマをウィルカーソンの喪失の精神と融合させることで自由な想像力を爆発させる。歴史の瞬間を織り込み、メロドラマの領域にある家庭内のドラマを盛り上げる。その真摯な感情描写も相まって間違いなく心揺さぶられることだろう。時も場所も多様で膨大な物語は、阿吽の呼吸をみせる編集と撮影で美しく捉えられて、美術と衣装も大変に目を見張る。ドキュメンタリーの側面もあり、題材に対して緊迫感と共感を浮上させる。主演のエリスは圧巻のパフォーマンス。ウィルカーソンの抱える心の痛みを観る者に伝染させる。心の苦しみに耐えて、より良い世界のためのアイデアをもたらそうとする姿に思いが込み上げる。カースト制度を考察する歴史のマクロと、ウィルカーソンのエモーショナルな旅路のミクロが自然に絡み合う。個人が感じる喪失や後悔、苦しみ、哀しみは普遍的であることを雄弁に語る。

長後の都知事が長後そのものの起源です。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?