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第96回アカデミー賞期待の作品紹介No. 7「パスト ライブス/再会」

AWARDS PROFILE Vol. 7

パスト ライブス/再会

RT: 98%
MC: 94
IMDb: 8.0

 韓国で生まれたノラとヘソンはお互いを深く思いやる幼馴染だったが、ノラは家族と共に欧米へと移住してしまう。20年のときを経て、生活を固めたノラの前にヘソンが現れる。ついに二人は幾重にも重なり合った、愛と運命について向き合うこととなる...。

 劇作家として流星のごとく現れたセリーヌ・ソンによる映画監督デビュー作である本作は、今年度トップクラスの評価を集めている。ソン自身、生まれは韓国で、子供の頃にカナダへと移住したそうで、自伝的な要素も多分に含まれている。主役ノラには近年存在感を増しているグレタ・リー、ヘソンには韓国を飛び出し世界で活躍するユ・テオ、ノラの夫アーサーにジョン・マガロが出演している。今年のサンダンス映画祭で一番といっていい好評を博したロマンスドラマの本作は、人々の絆を丁寧に描いた人間ドラマの最高峰だという。監督は、アイデンティティーや言語といった移民のパーソナルな物語を土壌に、観る者の心を揺さぶるラブトライアングルを創り出す。20数年という時と、韓国とニューヨークの距離を越えて、まさに過去からやって来たヘソンとの再会。深いつながりと絆で結ばれながらも互いを選ばなかった二人と、ノラが現実に選んだアーサーの三角関係というメロドラマになりそうな物語を繊細さ、リアリティあるキャラクターの情感に根差した絶妙な塩梅で誠実なドラマに仕上げている。そこには忍耐と許し、柔らかな知恵が注がれる。選ばなかった人生を後悔することはない、考え抜かれた人の思索が作品にみられるとか。物語の中心となるキャスト、リーとユ、マガロが素晴らしく、特にリーは愛のニュアンスを理解した魂を優雅に演じている。35mmフィルムで撮影された温かみのある映像は、主人公たちの韓国での思い出とニューヨークでの再会を優しく包み込む。韓国語で"In-Yun"とあらわされる、「定め」「運命」を意味する言葉が、8000年もの時を超える過去世からの繋がりを感じさせながら、キャラクターたちがつくる三角形を、穏やかにゆっくりと大きな輪の形へ変えていく。近年稀にみる地に足の着いたロマンス映画の今作は、涙を誘いながらも、愛らしくてたまらない作品と絶賛されている。来年4月5日公開予定。

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