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100年経っても残る傷。傷つき、沈黙した先祖のスピリットの声に耳を傾ける〜リリー・グラッドストーン〜

ACTORS PROFILE Vol. 6

リリー・グラッドストーン
「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」


IMDbが選ぶ代表作
ライフ・ゴーズ・オン 彼女たちの選択

1986年アメリカ生まれ。100年経っても残る傷。傷つき、沈黙した先祖のスピリットの声に耳を傾ける。

 石油採掘で巨万の富を得た一家の娘モリー・バークハート。彼女は白人アーネストと結婚し、幸せな家庭を築こうとするも、彼女の姉妹をはじめとするオーセージ郡の先住民たちが謎の死を遂げ、自分自身も徐々に体を弱らせていく。

彼はショミカシよ。

 ▲グラッドストーンのブレイク作となったのは2016年の「ライフ・ゴーズ・オン」だ。アメリカ・インディーズ界の巨星ケリー・ライカート監督による、アメリカ中西部に住む女性たちの慎ましい日常を描いた作品で、グラッドストーンは口数少ない牧場で働くジェイミーを演じた。町で知り合った女性と親交を深めるその様は、言葉ではなく表情で物語る穏やかな風情を感じさせた。以降「ファースト・カウ」でライカート監督と再び仕事をするも、先住民という出自による役柄の少なさやコロナ禍もあり、俳優を辞める一歩手前までいったそうだ。そんなときに舞い込んだオファーが「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」だった。

 ▲スコセッシ監督作、しかも共演にディカプリオとデ・ニーロという大きな企画。監督は「ライフ・ゴーズ・オン」での彼女の演技をみて、キャスティングを即決したそうだ。グラッドストーンは、夫アーネストと言葉はなくとも魂で通じ合うロマンチックなケミストリーをみせる物語の序盤、悲劇が続き慟哭し、夫の裏切りにより体を弱めていく中盤、そして愛と信頼、失望をみせる終盤と、その感情全てがにじみ出る表情で観る者をずっと引き込み続けた。まさに彼女は、白人の裏切りを描く本作における先住民の象徴としての役割を背負っているのだ。白人による野蛮な行為が連続する作品だが、物語が最も耳を傾ける存在であり続ける。

この頃はまだ良かった。

 ▲本作の作り手たちが、物語の魂、心臓は彼女であるとする意味がよく分かる。100年前の実話だけあり、まだオーセージの人々の傷は癒えず、この映画に対する反応も様々ではあるだろう。この物語を語る責任を引き受けて、作品を見事に立ち上がらせ、沈黙した声を届けた彼女はすごい、素晴らしい。


リリー・グラッドストーンの関連動画

・リリー・グラッドストーンのインタビュー映像

・グラッドストーンのブレイク作となった「ライフ・ゴーズ・オン 彼女たちの選択


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