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WRC 2023 Rd.5 Rally de Portugal

伝統のグラベルラリー

ラリーポルトガルは伝統の一戦だ。古くは1967年より開始され、1973年の記念すべきWRC開催初年度にもシーズンの一戦として名を連ねている。
元来、ポルトガルはミックスサーフェスのイベントとして行われていたが、2002年を最後にその形態は終わりを告げ、現在ではフルグラベルとなっている。

ポルトガルはトヨタと相性が良いのか、2019年には当時所属のタナックが、2021年には今も所属するエバンス、2022年には現王者ロバンペラがそれぞれヤリスWRCやGRヤリスRally1で優勝を飾っている。
(2020年はコロナウィルスの影響で開催されていない。)
2018年はヒョンデのヌービルが優勝しているが、5年も前のことになる。
トヨタ勢以外も別にポルトガルは特別不得手という訳ではないのだが、ここ数年はトヨタ勢が優勝を重ねている。

また、ポルトガル名物と言えば、最終日のパワーステージにも設定される
『ファフェ』の大ジャンプだろう。その最後のジャンプに至る道も含めて見どころがいっぱいで、誰が見てもポルトガルだなと感じさせる景色を織りなしている。
過去には、このジャンプでつんのめってしまい顔面ダイブしてしまうクルマがあったり、着地でとっ散らかるなどもあるあるな話で、ここを綺麗に飛ぶことは見せ場の一つにもなっている。

画像出典:トヨタGR公式 ファフェの大ジャンプ

ラピッド・ロバンペラ

このポルトガルでは、今シーズン始まって以来、モンテの2位以外を4位で終えていた現王者ロバンペラがついにその本領を遺憾なく発揮した。
第4戦クロアチアでは不運のパンク、第3戦メキシコも初日に先頭走者のタナックがいきなり消えて、結局先頭で砂かき役を強いられ後退。
更に思い返せば、得意のはずの第2戦のスウェーデンも出走順でだいぶ割を食わされた。故に、一部のよく内容を見ていない人々からは「今季不調」を囁かれていたりもした。

だが、このポルトガルで完全に去年を席巻していたロバンペラがそこに居た。初日を2番手出走の難しい状況ながら快走、終わってみれば初日を1位でまとめて見せた。
そして2日目からが、まさに特急快速ロバンペラ。出走順が後方になったことで、最早だれもロバンペラを止めることはできなかった。
2日目の午前中を全てベストタイムで並べ、1番時計を奪取。結局、この2日目は7本のSSの内、5本をロバンペラが奪取。追いすがるソルドも2本ベストを持ち帰ったが、SS15終了時点で2位のソルドはロバンペラに57.5秒もの差を突きつけられる格好になった。

3日目は正しく勝利へのクルージング、SS16は僚友の勝田がベストタイムを記録し、パワーステージと同じステージになるSS17をクルージングながらロバンペラは1番時計、SS18はフォードのタナックがベスト。
そして天王山のSS19パワーステージ、ここでロバンペラは完璧な走りで他を圧倒、追いすがるタナックを0.7秒差で下し、パワーステージを奪取した。
これでロバンペラは23年シーズンの今季初優勝と共に、30ptのフルポイント優勝で一気に選手権首位へ躍り出た。

初日から最後まで、一貫したパフォーマンスで現王者の底力をまざまざと見せつけ、このポルトガルからのグラベル7連戦の初戦を幸先良い形で締めくくった。ロバンペラの圧倒的なスピードは今年も健在だと改めて広く証明するようなラリーだった。


王者本領発揮

ラリーポルトガルは終わってみれば、トヨタのエースがいよいよ本領発揮。と言ったところだろう。去年のシーズン序盤に見せたような圧倒劇を再び今年も見ることが出来た。
イベント後記者会見でも、その圧倒的なポテンシャルに、ラッピは舌を巻いていた。
ラフグラベルにおけるポディウム請負人のソルドも、この5月2日で40歳となったが依然そのいぶし銀の走りは健在。昨年を上回る2位を獲得し、チームへポイントを持ち帰った。
3位に入ったラッピは前戦クロアチアからの連続ポディウム、2017年のフィンランド以来もう5年以上勝利は無いが、コンスタントにポディウムに登壇し続けている。

このポルトガルに関して、トヨタのチームプリンシパルを務めるラトバラは、ロバンペラの金曜日のポテンシャルは特に高く、素晴らしいものだと評している。
ロバンペラが1勝を挙げた以上、周囲の関心は今年残りのラリーをいくつ制覇するかだろう。筆者もロバンペラの破竹の勢いを観たい限りだ。

画像出典:トヨタGR公式 優勝を喜ぶロバンペラ&ハルットゥネン

ラリーポルトガル 2023 最終結果
1位:カッレ・ロバンペラ/ヨンネ・ハルットゥネン(トヨタ)
2位:ダニ・ソルド/カンディド・カレーラ(ヒョンデ)
3位:エサペッカ・ラッピ/ヤンネ・フェルム(ヒョンデ)
4位:オイット・タナック/マルティン・ヤルヴェオヤ(フォード)
5位:ティエリー・ヌービル/マーティン・ヴィーデガ(ヒョンデ)
6位:ガス・グリーンスミス/ヨナス・アンダーソン(シュコダ) ※WRC2
7位:オリバー・ソルベルグ/エリオット・エドモンソン(シュコダ) ※WRC2
8位:アンドレアス・ミケルセン/トルシュテイン・エリクセン(シュコダ) ※WRC2
9位:ヨアン・ロッセル/アルノー・デュナン(PHスポーツ) ※WRC2
10位:テーム・スニネン/ミッコ・マルクッラ(ヒョンデ) ※WRC2


各チーム其々の週末

◆トヨタガズーレーシングWRT
トヨタは5戦中4勝を計上し、虎視眈々と3年連続のWRC制覇に突き進んでいる。
このポルトガルではSS3を前にワークスノミネートの勝田がオルタネータートラブルでデイリタイア、SS7ではエバンスが大きなクラッシュ、マシンの修復が困難となり初日でラリーそのものから姿を消した。
勝田とエバンスの両翼がいきなり消え、劣勢かと思われたが先述の通り、ロバンペラが昨年の様な他を圧倒するペースでポルトガルを席巻した。
結果的に復帰した勝田も、ワークスノミネート勢の中で6位相当の完走で8ptを持ち帰り、PSでも4番時計の2ptを追加で持ち帰る等した。
それにより、マニュファクチャラーズタイトルではヒョンデを更に3pt引き離す結果となった。
次戦サルディニアでは、絶対王者オジェが再び参戦、出走順はさほど有利になっていないが、21年のサルディニアを制しているのはオジェ、ピレリの冗談みたいな仕事ぶりに巻き込まれなければ、今期早くも3勝目の可能性も十分にある。

◆MスポーツフォードWRT
若手ルーベが開幕のSS1でベストを刻むなど幸先の良いスタートではあったが、SS3完走時点でエキゾースト周辺から小さな出火があった。そのためルーベも勝田同様に初日にデイリタイアかと思われた。
しかし、その後のタイヤフィッティングゾーンで、認められる作業の範疇でメカニックが対応。事なきを得てルーベは初日を走り切った。
タナックは、パンクに見舞われデイリタイアを喫していないラリー1勢の中で最後方へ後退してしまったが、最終日にはライバルのヌービルにトラブルが出たこともあり結果的には4位でラリーを完走している。

◆ヒョンデ シェル モービス WRT
2位、3位を得て、ポルトガルを後にすることとなったヒョンデ。しかし、その内容はロバンペラにただただ圧倒されるだけの展開だった。
走行順序の都合で、ソルドに優勝の期待が大きくかかっていたが、それは叶わず。主力のヌービルも最終日にはターボトラブルに見舞われ4つのSSで大きくロス。リタイアを免れたものの、クロアチア、ポルトガルと忘れたいラリーが続いている。
しかし、次戦はサルディニア、元来相性が良く18年~20年、22年と直近で最も勝っているラリーだ。
そのため必勝を期してくるであろうし、出走順もレギュラー3名が有利な位置に付けるので、下馬評はヌービル、ソルド、ラッピの誰が勝つかというところを考える人も多いだろう。


ラリーポルトガルのおわりに

【不運の勝田】
SS3のスタートに彼が現れないとSNSで情報を掴んだ時、めちゃくちゃガックリした。一昨年、昨年と4位に食い込んでおり、彼自身としても欧州イベントでの初ポディウムをと気合が入っていただろうだけに
早々にデイリタイアに追い込まれたのは残念に他ならなかった。タラレバではあるが、走り続けていたのならばラッピと3位争いをしていた可能性が高い。なんならソルドを抑えてロバンペラと1-2だった可能性もあったのではないかと筆者は考えずに居られない。
次戦のサルディニアではメイクス対象外ではあるが、出走順を生かして彼の粘り強い走りと戦いぶりを見たい限りだ。

【ルーベの1番時計】
昨年、不振を極めたフルモーに代わって今季のフル参戦シートを獲得したルーベ
成長著しい彼は、このポルトガルSS1でいきなりのベストを記録。僚友タナックを抑えてのことである。ヒョンデの育成シートに収まっていた頃は精彩を欠いたラリーが多かったが
今年は随所で煌めく走りが増えているように感じる。そう感じているのは筆者だけではないはずだ。
現在のコ・ドライバーは、ヌービルのコ・ドライバーも務めていたギルソウル、組んでいたランデは現在オジェのコ・ドライバーを務めている。
ルーベがこの先、ますます経験を積んで成長すれば、近い将来勝田と熾烈に表彰台を争っているという姿を見る日も近いかもしれない。

【ソルベルグのドーナッツペナルティ】
WRC2で走るソルベルグは2日目にFIAが定めるエキシビジョン走行禁止区間でのドーナッツターンが罰則の対象となり、1分のペナルティを受けてしまった。結果的にはそれが響き、僅差でグリーンスミスに敗れ、WRC2の優勝を手中からこぼしてしまった。
ドーナッツターン自体が悪いのではなく、エキシビジョン走行禁止区間でやってしまったがためにこのような結果となった。
ただ、最終日、グリーンスミスを追い詰めるソルベルグは気迫の走りで観客を沸かせ、グリーンスミスもマシントラブルでパワステを失う中でなんとか逃げ切ってみせるなどドラマに溢れていた。
SSフィニッシュ後に二人はお互いを讃え合い、WRC2の名勝負としてポルトガルの1ページを鮮やかにしてくれた。


次戦は地中海サルディニア

次戦は6月1日~6月4日にかけて実施されるラリーサルディニア
近年はヒョンデが特に得意としており、トヨタは逆にここではツイていないことが多い。出走順を見てもトヨタ勢が1-3-4番手という中々美味しくない出走オーダーを強いられる。
昨年もマシントラブルや初日の出走順に阻まれ、あまり良い展開では無かった。
が、今年はGRヤリスRally1のアップデートも含めて、前哨戦のメキシコでは似たような路面でも競争力を発揮したため、防戦一方ではないと思いたい。
ここまでシーズン未勝利のヒョンデは全力で勝ちを取りに来るだろうし、フォードもタナックはサルディニアを得意としている。トヨタは21年の優勝者オジェが3番手スタートで幾分か砂かき役が軽くなる、よってグラベル7連戦の2つめも目が離せない。


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