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V7シリーズについて

21世紀の屋台骨

ついこの3月15日に創立102周年となったモトグッツィ、同社といえば縦置きVツインのシャフトドライブ、そんな前置きで書き始められる記事は幾重にもある。だが、モトグッツィといえばつまるところそのコンポーネントに依るキャラクターは、欠く事が出来ないほどのものであるため、そう書かざるを得ない。
そうした縦置きVツインのエンジンは、大きく分けて2023年現在は3つの系譜がこの世に存在する。
・ビッグブロック
・スモールブロック
・コンパクトブロック
この3種類だ。分類は至って単純、ビッグとスモールはそれぞれ空冷で排気量の大小で区分される。とは言っても、一部世代ではビッグの系譜でもスモールと大差ない排気量とかもあるけれど、世代がほぼほぼ違うのでその辺も勘定に入る。
コンパクトブロックは新生代の水冷エンジンなので、そもそもビッグやスモールとは生まれた時代も背景もまるで異なる。

この記事で書き記す"V7"は1969年に登場したV7スペシャルや1972年に登場したV7スポルトではなく
2007年にミラノモーターショーで発表された、V7クラシックに端を発するここ15年のエントリーモデル群だ。

V7はいいぞ

V7の復活

前述の通り、2007年に発表されその名前が復活した"V7"だが、エンジンはブレヴァ750をベースとしており、その系譜は全てスモールブロックの系譜に連なっている。
そのブレヴァ750のエンジン自身も源流は1978年に市販されたV35イモラになる。
リバイバル以来、グッツィのエントリーを担うモデルとして親しまれ、車体サイズは日本の母なるスタンダード、CB400SFとそう大差ない。
乾燥重量も190kg前後で、取り回し性も良好、老若男女問わずビギナーからベテランまで誰の目線にでも合う。
筆者はV7を"等身大の相棒”と呼んでいる。誰にとっても目線を合わせやすく、乗りやすいそのキャラクターからそう考えた次第だ。
誕生から凡そ15年、日本にも数多くが上陸し、今なおモトグッツィの哲学と鼓動を多くのユーザーに振る舞ってくれている。他にもグッツィはいっぱいあるけれど、V7は間違いなく"名家”の屋台骨であることは疑いようのない事実だ。


1st GEN


V7クラシック (写真出典:ピアッジオジャパン)

・V7(前期型) 2008年~2011年
初期の段階で展開されたのはクラシックとカフェクラシックの2グレード、これが元祖たる69年のスペシャルや72年のスポルトを想起させるエクステリアとなっている訳だ。
ザックリ言えばアップハン2名乗車かセパハン1名乗車かの違いと思ってもらって良い。

そしてこれが最初期の2008年モデルは48馬力のまま日本に入ってくるのだが、翌年には一旦排ガス規制のアレコレで躓いて、2010年10月に触媒みっちりブチこまれて日本に再上陸する旨がピアッジオジャパンから発表された。
その時、日本仕向車両は馬力が40馬力まで低下しており、その辺は中古でお探しの際に意識してみると良いだろう。

また、2011年にはよりカフェレーサーらしさを全面に押し出した
V7レーサーも新たにグレードに加えられ、メッキタンクや各部のディテールをガラリと変えて、一段とレーシーに仕立て上げられている。このグレードは、前期型限りで消えたクラシック及びカフェクラシックとは異なり、長くV7シリーズを代表する売れ筋グレードとして続いていくことになる。


V7ストーン (写真出典:ピアッジオジャパン)

・V7(後期型) 2012年~2014年
後期型からはエンジンが刷新され、最大50馬力を発揮するようなったのが前期型との最大の違い。ただ、急に今風になったエンジンヘッドよりも前期型の方が雰囲気が好きということで、前期型を好むオーナーも当然居る。そこはスペックを優先するか、エクステリアの統一感を優先するかの違いで正解は無い。

前期型同様にダブルクレードルフレームで、ミッションが5速で同じだがこちらも刷新されている。そしてこの段階で、V7⇒V7II⇒V7IIIでお馴染みのストーン、スペシャル、レーサーの三本柱が形成された。
特に日本では、V7IIへの切り替わり直前まで50馬力のエンジンとして入ってきていたため、一部専門店ではグッツィらしいのはV7でV7IIはそういう部分が薄味。と評されることもある。

バリエーション展開
V7前期型
・クラシック
・カフェクラシック
・レーサー
V7後期型
・ストーン
・スペシャル
・レーサー
・※レコードリミテッドエディション
(上記3グレードに少数設定されたロケットカウル装着車)


2nd GEN

V7IIストーン (写真出典:ピアッジオジャパン)

・V7II 2015年~2016年
2015年にV7はモデルチェンジを敢行、V7IIとして世代が切り替わった。
その見た目は大して変化が無いように見え、キープコンセプトとも取れる。しかし中身は変更が多く、その最たる例はエンジンの搭載角度だ。V7後期型比でエンジンは4°傾けられ、跨るライダーの膝周りのスペース拡大に貢献している。故に、V7後期型とV7IIの見分けるポイントは、フレームとエンジンの締結箇所の違いで判断できる。傾斜させる都合で、フレームの下側で締結しているのがV7後期型で、フレームの上側で締結しているのがV7IIだ。

エンジンが傾斜したことで搭載位置は10㎜下がり、プロペラシャフトも50㎜低く取り付けられている。更にトランスミッションも6速化された。他にもシート高を15㎜下げたり、クラッチワイヤーの取り回しを見直すことで負荷を低減、ワイヤーが疲労によって破断しやすい持病も改善されとっつき易さが向上した。
ABSやTCSの電子制御も充実するなどライダーズエイドの投入もこの代からで、V7比で改良が数多く盛り込まれている。

エンジンのスペック自体はV7後期型から若干低下し、48馬力となった。しかし欧州ではそもそも2013年型よりV7後期型も48馬力だったので、V7IIで日本仕向車も排ガス規制など含め、仕様が追いついたと考えて良いだろう。
更に、V7IIにおける限定モデルとしては、2015年にスクランブラーテイストを全面に押し出した"ストルネッロ"も登場した。

有り体に言えば、V7IIはV7後期型の最終進化版であり、V7オーナー間ではまことしやかに"V7の人柱の上に生まれた存在"なんて揶揄される。が、V7IIは非常に短命だった。2016年のミラノショーでは次なるV7IIIが早々に発表されたがために、日本においてはほぼ1年こっきりで新車販売から姿を消したのだった。

バリエーション展開
・ストーン
・スペシャル(日本未導入)
・レーサー
・ストルネッロ
※カスタマイズキットとして展開された
ダッパー、ダークライダー、レジェンド、スクランブラーは
グレードの種類にカウントしないこととする。


3rd GEN



V7IIIスペシャル (写真出典:ピアッジオジャパン)

・V7III 2017年~2020年
先述の通りにV7IIは早々に役目を終えて、V7IIIへ切り替わった。V7IIIは同時期に発表されたV9のエンジンをベースに仕立てられているが、排気量は下げられ744ccとされた。このエンジン自体は大幅に刷新されたもので、2バルブであることは変わりないものの挟み角などが見直された他、油脂類の循環系統なども効率を求めて刷新。ユーロ4排ガス規制をクリアした上で52馬力を計上した。

V7IIIのトピックは、そうした動力系の刷新はもちろんながら数多く揃えられたグレード/限定グレード群にある。兎角多い。フィアットが500でよくやる限定グレードの連発を想像してもらえば大体合っている。

メカニカルな面の刷新もさることながら、エクステリアについてもそれまで以上に変更点が多く、バリエーションによってはLEDのデイランニングライトを装備していたり、バッテリー収納部のカバーに備わる車種名バッジは、タンクのカラーに合わせて部分的に色が変わる等、細部の仕上げも違った味わいが楽しめる。
惜しむらくはストーンをはじめ、一部車種ではタコメーターがオミットされたことか、アニベルサリオやミラノであればタコメーターが備わるのでタコメーター有り無しの好みがはっきりしている人は、その辺も気を付けて見てみて欲しい。

このV7III日本導入時には
ストーン、レーサー、アニベルサリオの3本立てだった。アニベルサリオはもちろん数量限定であったがこの後もバリエーションは増えて行き、V7IIIオーナー同士でも

「こんな設定あったっけ」

と首をひねることも珍しくない程度には増えている。

筆者的に、中古でイイカンジのV7が欲しければ、まずV7IIIから探してみると大体好みに合ったものが出てくるのではないかと思っている。
バリエーションもそうだし、単一モデルとしても日本で一番多いのはV7IIIだろうと思う。また、V7前期型やV7後期型などと比べると、ABS等の安全装備も完備しているので、なおさら初心者やリターンライダーにもお勧めだ。

バリエーション展開
・ストーン
・レーサー
・アニベルサリオ
・ラフ
・ストーンナイトパック
・スペシャル
・レーサー10thアニバーサリー
・ストーンS
・ミラノ
・カーボン
・カーボンシャイン
・レーサーリミテッドエディション(日本未導入)


NEW GEN


V7 スペシャル (写真出典:ピアッジオジャパン)

・V7 (850) 2021年~現在
現行モデルは名称が"V7"となり、公式にはV7IVとかV7 850などとは呼称しない。が、ここでは分かりやすくするためにV7 (850)とした。
本車から一連の744㏄エンジンから決別、今まで以上に各部が変更されリアタイヤのサイズ変更や、リアサスペンションもKYB製となり取り付け角が見直され、ストローク量も増やされた。
他フレームも剛性の強化がなされたし、排気量が853.4㏄となり増大したエンジンパワーに対応するべく駆動系も見直されている。

ユーロ5の突破のために、色々我慢を強いられるかと思いきや、モトグッツィは空冷のまま刷新してあまつさえ最も近年でパワフルな"65馬力”をカタログに掲げ、V7を送り出してきた。

オールドスクールなスタイルで取りまとめられた"スペシャル"は、タンクへ誇らしげに850という排気量の数字が描かれ、綺麗で深いブルーと、爽やかでモダンなグレーが用意される。
より今風、都会的なで"ストーン"には、アクイラを模ったデイランニングライトが装備され違った顔つきとなる。車体色は、従来通りマットブラックを基調に単色で3色展開がされ、また2021年が創立100周年であることからチェンテナリオという特別カラーも用意された。

今のところは、レーサーに相当するグレードの設定はなく、ストーンとスペシャルの展開である。だが、レーサーではないが"ストーンスペシャルエディション"として、アロー製のエキゾーストが装備された限定モデルが早速出てきた。
こうした流れでカフェクラシックやレーサーのような、カフェスタイルの限定モデルもそのうちシレっと発表されるかもしれない。
尚、お値段が752万5,000円(税込)と超高額なグッチとのコラボ限定仕様もあるが、世界50台限定の仰天お値段なので、その辺で見かけることは無さそう。

バリエーション展開
・ストーン
・スペシャル
・パレス グッチ モトグッツィ(世界50台限定 日本導入台数不明)
・ストーンスペシャルエディション


ベストバイは?

ここまで数多くのV7姉妹を見て来て、もし今これを読んでいる貴方が、V7をお探しの立場であったならば

一体どれ買えばいいのよ!!!

って思わせてしまっていたら申し訳ない。
罪滅ぼしではないが、基本的には"最新のV7が最良のV7"だ。

それはまず、メーカーの保証がキッチリ効くという観点から
最新の新型が最もオススメできるV7となる。特に、もう何台もバイクを乗り継いでて、店との付き合い方とかその他諸々を心得ているベテランならばその辺は無視してもらって構わない。

初めてのナナハン、初めての外車、初めてのモトグッツィであれば
現行のV7 (850)が当然オススメだ。V7は割と他のイタリア車に比べれば、そんなに激しく身を焦がすようなトラブルはないものの
それでも、リアデフのオイル漏れなど諸々の小さな困りごとは個体によって出る出ないがあって、オーナーを悩ませることがある。よって、そういった観点から、最もオススメは新車保障がガッチリの現行モデルだ。

すごく端的に各4世代のV7を言い表すと

1st世代
5速!電子制御なし!グッツィを色濃く感じたい!

2nd世代
6速!電子制御あり!普通のバイクとして使いたい!

3rd世代
色んな仕様から選びたい!ドレスアップも楽しみたい!

4th世代
新型が欲しい!一番パワーがあるやつ!

乱暴にザックリかくとこんな感じだ。
ただ、やはりV7がなんであれ機械は機械なので、古ければ当然手はかかるし、新しければその辺の手間は減る。味とか雰囲気というモノは個人の感覚に左右されるので、探し方としては"気に入った見た目のグレード"から紐解いていくのが良い。
その気に入った仕様を第1希望として、第2希望、第3希望とピックアップし、それぞれを比べてみると良いだろう。


最後に

V7は誰にでも乗りやすく、経済性もそれなりにあって、普段使いからツーリングまでシーンを選ばない。
特段の気難しさとかも無いし、シャフトドライブだからって身構える必要もない。単にエンジン周りが個性的なホンダCB400SFとかヤマハSR400って感じ。
メーカー希望小売価格こそ最近は相場の都合で値上がりを見せているが、それでもドゥカティやMVアグスタ、BMW、トライアンフと比べるとかなりお買い得なので、一目惚れするV7と出会えたらば、きっとあなたのグッツィライフは良いモノになるはずだ。

V7でグッツィワールドに飛び込んだ後の話は、また今度。

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