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WRC 2023 Rd.1 Rallye Monte-Carlo

今年も開幕

熱狂と歓喜に包まれたラリージャパンから早2カ月
2023年シーズンの開幕の火蓋が、モナコはモンテカルロで切って落とされた。
今シーズンはRally1規定2年目となり、昨年のどのチームも横並び一線でスタートした状況とはことなり、それぞれに差がどの程度あるか、多くの関係者の注目を集めた。

参戦するコンストラクターに大きな変更は無く、トヨタ、Mスポーツフォード、ヒョンデの3ワークスがトップカテゴリーを形成。
ただし、昨年はトヨタの実質BチームであったTGRニュージェネレーションが、勝田選手の一部レギュラー昇格もありメイクス登録していないため、メイクス登録だけみれば1つ減少した格好となった。

ドライバー陣営は大きなシャッフルがあり、まず19年王者のタナックが20年より3シーズンを過ごしたヒョンデを離脱、17年まで籍を置いたMスポーツフォードへ移籍、古巣へ復帰を果たした。
その他、Mスポーツフォードで22年はエースを務めたブリーンが、精彩を欠いた22年の結果からフォードを放出され、再びヒョンデのパートタイムドライバーに、ソルドとシートをシェアする。
更に、22年のトヨタでパートタイムを務めたラッピは、フル参戦の切符を求めヒョンデへ移籍、タナックが抜けた後を埋める形で、明確な2ndドライバーとしてトヨタを離れた。
そして、トヨタでWRCチャレンジプログラムで参戦している勝田選手が一部ラリーではTGR WRTのレギュラーシートを射止めることになり、オジェとシートをシェアする。オジェが出場するラリーではメイクス対象外の4台目となる。

今年のラリーモンテカルロは、昨年から50%以上のルートが変更となった。しかし、このラリーモンテカルロの難易度は不変、名所のチュリニ峠はDAY1のSS1からナイトステージとして設定され、DAY4のSS16/SS18(パワーステージ)でもデイステージとして設定される。全体的にコンパクトなルート設定とはされているが、ラリー本部は例年通りモナコに置かれ、華やかな雰囲気がWRCの開幕を告げる。
リエゾンを含む総走行距離は1534.79km、総SS数はSS18で、総ステージ走行距離は325.02kmとなる。


近年稀にみるドライ路面

今年のモンテカルロは、近年稀に見るドライターマックがほぼほぼ占め、一部でアイスパッチが顔を覗かせる程度となった。そのためタイヤギャンブルなどは全く見られず、ほぼすべての日程でソフトタイヤとスーパーソフトタイヤの選択が大勢を占めた。

このドライ路面に上手く車を合わせこんできたのはトヨタ勢、シェイクダウンも含め、SS1~SS11まで11連続ベストタイムを奪取。
更にSS6ではレギュラーのエバンス、オジェ、ロバンペラにWRCチャレンジプログラム枠の勝田 貴元が1番時計~4番時計まで独占するなどタイムボード上に優れたパフォーマンスとして実力を示した。

出典:eWRC-results.com Rallye Monte-Carlo 2023 SS6 Roure/Roubion/Beuil Stage results

殊の外、このドライターマックが顕著となった今年のトヨタのマッチングは非常に良く、ステージタイム1-2を5つのSSで、1-2-3は7つのSSで、1-2-3-4を上記の通り1つのSSで達成するなど、チーム力を遺憾なく発揮。
SS12とSS13こそ、ヒョンデのヌービルに奪われたものの、全SSの80%はトヨタが奪取してみせる展開に終始した。
パワーステージでは古巣Mスポーツフォードで気を吐いたタナックがプーマRally1のパフォーマンスを限りなく引き出したものの、ロバンペラがSSスプリット2から3、4にかけて逆転、最終的に0.6秒差でパワーステージをもぎ取った。


盤石の展開を守ったマイスター

このラリーモンテカルロで、ラリーを支配したのはやはりオジェだった。
シェイクダウンから始まり、SS1からSS5まで連続ベストで他を圧倒、SS5終了時点で2位のヌービルに32.7秒の大差を構築し、SS6からは昨年オジェ自身が見舞われたパンクを警戒する展開が見られた。
押すところは押して、抑えるところは抑えて、メリハリのあるタイムを刻み続け、途中ハイブリッドが機能しないなどの状況ながらもベストタイムを奪取したり、金曜日の
のDAY2朝にはギアボックスの不調に際して、タイムコントロール入りするまで13分というところで交換が行われ、チームもオジェを強力にアシスト。
結果的に、オジェ自身にとって9回目のモンテカルロ制覇、並びに昨年のラリージャパンよりコンビを組むランデにも初優勝をもたらした。

昨年は最終日にパンクに見舞われ、ローブに逆転負けを喫する悔しい展開だっただけに、今年のオジェはリスク管理を完璧にやり遂げ、モンテカルロ優勝数を9回に更新。見事なラリー運びは、帝王オジェここにありと言わんばかりの安定感であった。

写真出典:トヨタ自動車

ラリーモンテカルロ2023 最終結果
1位:セバスチャン・オジェ/ヴァンサン・ランデ(トヨタ)
2位:カッレ・ロバンペラ/ヨンネ・ハルットゥネン(トヨタ)
3位:ティエリー・ヌービル/マーティン・ヴィーデガ(ヒョンデ)
4位:エルフィン・エバンス/スコット・マーティン(トヨタ)
5位:オイット・タナック/マルティン・ヤルヴェオヤ(フォード)
6位:勝田 貴元/アーロン・ジョンストン(トヨタ)
7位:ダニ・ソルド/カンディド・カレーラ(ヒョンデ)
8位:エサペッカ・ラッピ/ヤンネ・フェルム(ヒョンデ)
9位:ヨアン・ロッセル/アルノー・デュナン(PHスポーツ) ※WRC2
10位:ニコライ・グリヤジン/コンスタンティン・アレクサンドロフ(TOKスポーツ) ※WRC2


各チーム其々の週末

◆トヨタガズーレーシングWRT
トヨタは、開幕戦モンテカルロに23年型GRヤリスRally1を投入、新エンジンやボディサイドのハイブリッド用冷却ダクトを、エアスクープタイプから、引き込みダクトタイプへ変更しエアロパッケージを洗練させてきた。
木曜日のシェイクダウンを含むDAY1からトヨタ勢は好タイムを連発、22年後半から開発リソースを23年型に割り振っていたのではという声も囁かれ、23年の好発進を印象付けた。
また、オジェを筆頭に、22年王者ロバンペラも好走、更に昨年は不調を囲ったエバンスが明らかに復調。
ロバンペラを凌ぐタイムを重ねたもののSS5のパンクが響き後退するものの、結果的には4位まで順位を戻すなど本人の表情は晴れやかに見えた。
勝田は初日のSS1を4番時計で駆け抜けるなどスピードを見せる。だが、SS2ではハンドブレーキトラブルで大きく後退、しかしDAY2、DAY3と印象的なスピードを発揮、更にDAY4のSS17では2番時計を刻んで見せ、ターマックでスピードが劣っていないことをアピールした。
しかし、最終SS18ではリアデフが破損し予期せぬスライドでマシンを岩肌にヒットせてしまい大きくスローダウン、パワーステージでポイント獲得はならなかった。
だが、他チームの2ndドライバー及び3rdドライバーを全て下す6位を死守、今期のレギュラーを一部担うラリーで活躍を期待させる走りを見せたといえる。
このラリーの殆どのステージを支配したトヨタだが、それにはフォードのタナックがまだ初戦ということもあったし、ヌービルらは車のセットアップ不調等、トヨタ勢にとって追い風となる要素が重なったのも確かだ。
ラトバラ監督は、次戦スウェーデンでは今回の様にできるとは限らないと警戒心を隠さない。実際、21年の代替開催となったラップランドラリーでは、本番とは食い違う気候でのテストとなったトヨタは、大きく苦戦し得意の高速スノーラリーを落としている。故に勝って兜の緒を締める構えを維持して欲しいところだ。

◆MスポーツフォードWRT
19年王者タナックの帰還、新星ルーベのレギュラー投入など、どこよりも顔ぶれが新しいと言えるフォードは、昨年のローブが導いた優勝の再演に期待を寄せた。
しかし、蓋を開けてみてMスポーツはすぐに昨年の再演は難しいことを思い知らされる展開。タナックは細かいトラブルが続き、ルーベはSS5で完全にパワーステアリングの機能を失う。
ツイていなかったのは、このDAY2がミッドデイサービスがなく、修理が不可能であり、ルーベは非常に重いステアリングと格闘を強いられた。
タナックも、パワーステアリングトラブルに見舞われることになり、いくつかのステージではタイムロスを強いられざるを得なかった。
結局ルーベはDAY3のSS9、ゴール直前で車を橋の欄干にヒットさせてしまいデイリタイア、DAY4も水漏れトラブルで戦列を去る。
タナックはSS18で2番時計を刻むなど、プーマから速さを引き出して見せたが、総合は5位、今年もプーマの信頼性向上が大きなテーマとなりそうだ。

◆ヒョンデ シェル モービス WRT
新体制として元ルノーF1の責任者、シリル・アビテブールをチーム代表に招聘したヒョンデ
このモンテカルロへは、ヌービルとソルドに、新加入のラッピが顔をそろえた。当然下馬評では、トヨタに対する対抗勢力最有力としてヌービルが挙がるし、昨年後半からのパフォーマンス向上などもあって
20年シーズン以来の開幕戦優勝をかけて乗り込んで来た。
しかし、木曜日からのラリーで、ヌービルはトヨタ勢に対抗するタイムを出すものの、ソルドはマシンのハイブリッドシステム不調から低迷、ラッピもマシンになじみ切っておらず精彩を欠く
全体を通して、マシンのセットアップのふり幅を、よりスリッパリーな路面状況に合わせて持ち込んだダンパー類が、想像以上のドライターマックとなったモンテカルロにマッチせず
SS12~SS13こそヌービルがベストを奪ったものの、その他全てでトヨタ勢に遅れる展開となった。


ラリーモンテカルロのおわりに

始まった23年シーズン、当然の如く、タナックがフォードに移ったことでチャンピオン争いは三つ巴を期待する声が高まったが
タナックはやや分が悪そうかなという感じ。
昨シーズンからずっとプーマRally1についてまわる大小様々なトラブルが解消されていないように映る。
とは言いつつも、昨年はブリーンもフルモーもグリーンスミスもとにかくプーマRally1をぶっ壊し続けていたので
マシンの修理費で予算がかなり吹っ飛んで、改良どころではなかったのかもしれない。

トヨタ勢を応援する筆者としては、このラリーで見せた全SSの80%に及ぶトヨタ勢のベストタイム占有率はかなり喜ばしいものだった。今年のGRヤリスRally1は、まるでトライダガーXがネオトライダガーZMCになったかのようにすっきりとして、それでいて速いんだから見ていて気分が良い。

オジェとロバンペラが速いのは想定の範囲内として、昨年、割かし金曜日の出だしで遅れが目立ったエバンスの復調は嬉しかった。だが、結局SS5ではパンクで水を差され、オジェをして言わしめるピレリの"冗談みたいな仕事ぶり"は健在らしい。
SS12ではラッピもリム落ちを喫しており、ピレリはほんと何とかならないのだろうか、秒差のバトル中にパンクでは悲しい以外なにもない。正直、WRCにはミシュランが必要だ。

そして勝田選手。勝田選手の走りを見ていて、本当に速くなったと感じる。タイムがそれを示しているし、19年のドイツで完走第一を遵守しながら、おっかなびっくりという雰囲気を携えて走る勝田選手を思い出すととても感慨深い。
今回のモンテカルロで先代ヤリスWRCよりもボディワークが大きくなったGRヤリスRally1を手足の様に振り回し、4番時計を順当に刻み、場所によっては他チームのエースさえ上回って見せるなど
ちゃんと、このトヨタ勢のマシンが上手くマッチしたモンテカルロで、他の僚友に大きな遅れを取らず続いた部分に、筆者は勝田選手の成長をひしひしと感じている。

結果こそ6位で、最終SSも意図しないスライドで、マシンのサスペンションを壊してしまったが、それでもソルドやラッピを抑えて6位を死守。4thドライバーとしては十分なしぶとさも発揮した。
昨年からイベントによっては、正面からポディウムを争う姿が僅かながら見られたので、このモンテカルロからより一層、勝田選手のポディウム登壇ひいては初優勝を期待できるのではという
希望を与えてくれるような走りだったと筆者は思う。

22年シーズンは唯一リタイアしたニュージーランドを除いて、残り全てでポイントを獲得していたし、今期はレギュラーの3rdドライバーとしてトヨタにポイントを持ち帰ることも責務となる年
レギュラードライバーとしての重責を担いつつも、栄冠を手にする勝田選手を見られるかどうか、今年の大きな楽しみの一つだ。

おまけとして話題をさらったのはやはりグリヤジンのファビアだ。特に日本のスペクテイター達は、車体側面に貼られた「藤原とうふ店(自家用)」のステッカーに大盛り上がりだった。
結果的にはインカットペナルティによって、優勝が取り消しになり、ロッセルが繰り上げ優勝ではあったが
グリヤジンをはじめ、新しくなったファビアRS Rally2の戦闘力は高く、次戦でも大いに活躍するだろうと思われる。 


次戦は白銀超高速バトル

次戦は2月9日~2月12日にかけて行われる「スウェデッシュラリー」
雪と氷が支配する白銀の世界で、スタッドタイヤを武器にラリーカーは時速200km/hさえ届こうかと疾走する。
先頭走者ながら、昨年は他を圧倒して優勝したロバンペラがどれほどの速さを発揮するのか。
また、このスウェーデンでは、ブリーンが今シーズンの開幕を迎え、出走順で有利となるブリーンは、新チームに自身の能力を示せるのか。
モンテカルロ6位で終えた勝田も出走順的には悪くない、WRC2での優勝経験もある勝田が僚友たちに負けず劣らずの走りを披露するのか。

今年のスウェデッシュにも目が離せない。

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