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人生リハーサル(お薬編)

 



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あらすじ(約1500文字)

  社会人一年目、僕は気づけば有給休暇を使い切り上司からは休職を勧められ、とうとう休職期間の4ヶ月を使い果たしかけていた。抑うつの僕だが、”せめて転職しなければ”という想いで必死だった。表情には出ないが心の焦燥は止まらない。止めどなく流れる心の冷や汗は、目には見えなくともすっかり地面に水たまりを作っていた。「どんだけだよ。」一人で漫画のように突っ込むが部屋の中は静まり返っている。嬉々として買った宝物も大概はメ○カリの売上金に姿を変えた。残るは自分の体とこのスマホだけ。すがる想いで毎夜毎夜ネットを徘徊した。つまらない動画で朝の5時まで時間をつぶすこともあった。昼夜逆転の生活は当たり前。夜職に就こうかと思ったりもしたが「コミュ力ねえ・・・」そんな日々の繰り返しである。時間の浪費においては天才的だ。

 唯一家から出るのは、毎週火曜のメンタルクリニックに行く時だけだ。5分未満の診察は愛想もクソもない。しかしその時ばかりは自分も患者気取りで今にも死にそうな顔と声。デートの時はバッチリ決めるくせに、クリニックにはパジャマとか遅刻とかしていく。無条件で甘えられる場所だ。商店街のアーケードに居るおばさんは気の毒そうに見つめてくる。それをこの世の終わりのような顔で見つめ返してやる。不甲斐ない自分のくせに呑気な態度だ。

 そんな自分にも本当に不幸が訪れた。不眠症だ。夜中はネットサーフィンをして昼に寝てテキトーにご飯を食べて寝る、っていう暮らしに社会人を見下せるような気持ちよさを抱いていた自分にはビッグニュースだった。自分が眠れない・・・?!まさか過ぎた。いつまでも寝れるぜと豪語していた自分が眠れない・・・どういうことだ。カーテンの隙間から少し黄色がかった光が白い壁を染めていく。

 次の火曜日速攻先生に打ち明けた。「変わりないですか。」少し勿体ぶって「実は・・・・・・眠れないんです。」僕にとっては一大ニュースだ。先生はどんな反応だろう。死にそうな表情の裏にはドヤ顔を悟られないようにする自分がどこかに居る。「では眠れるお薬だしときますね。」少し冷たくそうひとこと言われただけだった。(くそ・・・)正直つまらなかった。もっと大げさに心配されたかった。『眠剤出されたww』『大丈夫か?!w』『おう。そろそろヤベェかもwww』自分はくそだ。L〇NEでだって焦りながらこんなことしか言えねえ・・・

処方された通り寝る直前に眠剤を飲む。(本当に眠れるのかよ。)<バタッ・・・気絶>


 あれから僕の人生は変わった。この薬一つで覚醒してしまった。何もハイになった訳じゃない。料理も歌も勉強も女心も人より少し上にできてしまったんだ。何より嬉しいのは夢の中で一日が体験できること。予知能力が上がり過ぎたのか、夢の中でリハーサルできてしまう。初めは告白とか転職の面接とか実用的なことに使っていたけれど今はちょっと危険なこともしてしまう。株の売り時や買い時、アイドルの出待ち時間をチェックしたり。すっかり金持ちになって、もう自分に不可能なことはないぞ!なんて友人に大げさに言ってみせた。


 しかし最悪なことが起きた。夢の中でこの薬が廃止されるニュースを見たのだ。あまりに恐ろしくて無理やり目覚めた。「これは夢だ!!!!!」いや、夢なんだけど現実だ!くそ!どうすればいいんだ!!これなしじゃやっていけない!!!明日はプレゼンのリハ明後日はプロポーズのシミュレーション、明々後日は白○ちゃんの卒コンの出待ち!うわあああぁ


 薬のストックがまだワンシートある。三度薬を試したが、ニュースは変わらなかった。来週の火曜にはもうあの薬は手に入らなくなっている。頭の片隅に「また眠れない日が来るんじゃ・・・」あの頃と同じ不安が自分を襲う。くそ!眠れない!


<目が覚める。日めくりカレンダーは気絶した日から変わっていない。>


 「「心配事の9割は起こらない(byアール・ナイチンゲール)」」

(あぁ、そんなことネットのどこかで読んだな・・・)

フローリングの硬さと冷たさを感じながらAM8:00と点滅するデジタル時計を見つめた。


#テレ東ドラマシナリオ #取り急ぎ #人生リハーサル #意味深 #ちょっと実話

新卒いつのまにか抑うつ病で休職中。ご支援頂けたら嬉しいです。