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『チエルアルコは流星の』おじさんは何故八宮めぐるをプロデュースし、True Endに至ったのか

考えていたら長くなったのでTwitterではなくnoteでまとめようというだけの記事

  1. 前提

  2. 序論

  3. 本論

  4. 結論

1.前提
八宮めぐるのプロフィール

コミュタイトル

チエルアルコ:エスペラントで「虹」の意
ウテナ:以下、weblio経由で精選版日本国語大辞典より
① 四方を眺めわたすために土を積み重ねて作った壇。〔十巻本和名抄(934頃)〕
② 高い盛り土の上の建築物。高殿(たかどの)。
*竹取(9C末‐10C初)「葎はふ下にも年はへぬる身の何かは玉のうてなをも見む」
③ (「蓮のうてな」の意から) 仏説で極楽往生した者の座るという蓮の花の形をした台。蓮台。
*源氏(1001‐14頃)鈴虫「はちす葉をおなじうてなと契おきて露のわかるるけふぞかなしき」
④ 血筋。血統。同族。
*歌舞伎・御摂勧進帳(1773)五立口「義経いやしくも清和の台(ウテナ)を出で、多田の満仲の正統」
(5) (萼) 植物の萼(がく)。「はすのうてな」から出た「はなのうてな」の意が広がったものという。
*浄瑠璃・嫗山姥(1712頃)灯籠「はひまつはるるあさがほの花のうてなのりんりんごとに」

 考察にあたってはゲームの性質上、開始直後に本カードのプロデュースを行いTrue Endに至る可能性が存在するため、八宮めぐるのW.I.N.G選択時に見られるコミュ及び『チエルアルコは流星の』コミュに対象を限定する。

2.序論
 『チエルアルコは流星の』にはアイドルである八宮めぐるの成長に多様性の肯定と、プロデューサーの作用が重ね合わせられている。

 本コミュ(及びW.I.N.Gコミュ)を通して八宮の成長は、「友人関係を維持しつつアイドルとして成功を手に入れる」こととして描かれる。この「友人関係の維持」は楽しさという面だけでなく、疎外されることへの防衛とも取れる。
 一方で本作のプロデューサーは「アイドル(偶像)」として世に送り出せる、有り体に言えば「売れる」人材を発掘し、育て演出する立ち回りが要求される。

3.本論
 まず八宮めぐるにとっての「友人」、あるいは「友人関係」について整理する。

W.I.N.G共通コミュ「輝きはめまぐるしく」

 上記のように周囲を立てつつ自分の主張も伝え、幅広く交友していることを伺わせる。端的に言うと「コミュ力」が高い。

W.I.N.Gコミュ「大切、選べないから。」

 ただしこの友人関係は八宮からすると「役に立ち」、「みんなのためになる」という側面があり、単純に楽しいだけで交流しているわけではないことが窺える。
 プロフィールを振り返ると、趣味としては「人と話すこと」「体を動かすこと」とある一方で、特技としては「スポーツ全般」としかない。「友達作り」など書いてもよさそうなところだが、「人と話すこと」に対応する特技らしい特技がない、つまり人付き合い自体は好きだが少なくとも本人としてはスポーツに並ぶ特技として認識していないといえる。
(プロフィール欄、特に趣味特技に関しては月岡恋鐘、黛冬優子、市川雛菜あたりからわかるように、基本的に設定資料というより各アイドルの申告制である)
 そして本題の『チエルアルコは流星の』の「同調の水、されど」では水槽内で孤立している熱帯魚に自らを重ね合わせている。セリフだけでなく、以下のイラストでも水槽に写った八宮に重なるように、他の魚から孤立した熱帯魚が描かれている。

『チエルアルコは流星の』コミュ「同調の水、されど」

 魚の気持ちは「わからない」としつつ、その感情に寄り添っている上記の場面から、明示されてはいないものの、彼女自身も孤立した経験があることが推測できる。
 本カードのコミュには、この「同調の水、されど」の前に「異邦の青、浮遊する」がある。作中では映画内に当初存在していた役の少女が青い目をしていることが示されているが、八宮めぐる自身もアメリカ出身で青い目を持った金髪の少女である。もちろんそれを加味したオファーではあるが、日本国内で「異邦の青」が「浮遊する」のを避けるのは難しい。
 現実問題として日本国内の在留外国人は以下のようになっている。地理的、経済的要因からもアジアや南米の割合が高く、北米やヨーロッパ、オセアニアは少ない。もちろん下記以外にも八宮のような「金髪碧眼」の子供が学校にいるケースは存在するものの、珍しいことには違いない。

内閣府より

 この「珍しさ」から「浮遊(孤立)」に繋がることは語弊を恐れずいえば自然である。また八宮めぐるはスタンダードな衣装の色合いから、イルミネーションスターズのVisual担当をイメージさせる。

アイドルロードSSRより

 加えて彼女の場合はいわゆる「スタイルがいい」体型とされている。単純に顔がいい、髪や瞳の色が珍しいだけでなく周囲の男子からのエロティックな視線にも晒され、このことがときに女子からの嫉妬や逆恨みにもなり得る。
 その「孤立」からのある種の防衛として周囲との友人関係の構築と維持に努めているため、その崩壊を恐れていたものの、杞憂に終わる。

W.I.N.Gコミュ「これがわたしだから」

 ここで重要なのは、八宮が「人と話すこと」を趣味とし、友達付き合いも無理をしているわけではないことだ。過去には辛かった時期があったかもしれないが、現状その問題はなく、自らの努力と性格で状況を打破できている。
 学校、あるいはクラスに孤立した存在が八宮以外にいないということは考えづらく、そういった子供が皆八宮と同様に動けるわけではない。そのことを理解している。だからこそ、水槽で孤立した魚の気持ちを懸命に考えても結論としては「わからない」のである。

『チエルアルコは流星の』コミュ「無重力のウテナ」

 True End達成条件はファン数50万以上かつW.I.N.G優勝である。ここまでのアイドルにならなければ八宮は孤独な存在にかける言葉を見つけられない。
伝える内容は前述されている通り、一つの世界に拘らず視野を広げることであるが、寝癖を手がかりとして八宮自身が周囲からどう見られるかに拘らなくなっていることも示唆されている。

『チエルアルコは流星の』コミュ「同調の水、されど」
『チエルアルコは流星の』コミュ「無重力のウテナ」

 カード名の「流星」は彼女が所属する「イルミネーションスターズ」であり、「無重力」ーー宇宙空間、流星が流れる場所であると共に非常に高い位置を示すーーの四方を見渡す「ウテナ(ライブのステージ)」から「チエルアルコ」を届ける構図となる。
 虹は昨今多様性の象徴に用いられる一方で、文化によって捉え方が異なることでも知られる。一つの価値観に拘らなくてよいことがここで示されている。
 またエスペラントは人工言語の一種であり、どこの国の言葉でもない(成立背景からヨーロッパ諸語の影響が強いく、公語でなくとも母語としている者は少数いるが、特定の国に紐付けられるものではない)。八宮めぐるがアメリカ出身であることは彼女がどんな存在であるかを示さないし、彼女の容姿もまた彼女を規定するものではない。

ウェザーニュースより

 問題は八宮がこの心境に至った要因である。アイドルとしてファンにどのようなステージを見せたいか、その方針はプロデューサーのプロデュースで成立した。

『チエルアルコは流星の』コミュ「無重力のウテナ」

 しかしプロデューサーが意図的にこのように行動したと判断するのは難しい。水槽で「浮遊」していた「異邦の青」はその珍しさと「初心者向け」であることから買われそうになるが、八宮めぐるの「イルミネーションスターズ」にも同様のことが言える。大きな癖があるわけではなく、一生懸命アイドルとして成長していく少女たちであり、ユニット紹介でも先頭に来る彼女らは、ゲーム内の存在として「初心者向け」である。

『チエルアルコは流星の』コミュ「同調の水、されど」

 目立った容姿でプロデューサーにも友好的な態度を示す八宮めぐるは、このようにプロデューサー(≒プレイヤー)に選ばれ、育成されていく。仮にW.I.N.Gの途上で敗退しても、「事務所(初期設定のホーム画面)に持っていく」ことで、別のサポートアイドルやアイテムを設定しリトライできるのだ。またプロデュース中に休みを取ることで彼女が友人と遊ぶ選択をすることが伝えられるが、システム上一切休まずにプロデュースすることすら可能である(W.I.N.G審査を勝ち抜くのがかなり不可能に近くなるが)。
 しかし八宮本人をはじめとしたアイドル達に本来リトライする未来はない。各々がW.I.N.G、ファン感謝祭、G.R.A.D、Landing Pointで成功を収めていくことが、いわゆる正史であり、敗退は「想定された可能性」である。

『チエルアルコは流星の』コミュ「同調の水、されど」 

 この認識の齟齬はシーズン3から解消され始める。友人とアイドルの両立をプロデューサー(≒プレイヤー)が共に模索していくことがW.I.N.G出場、True Endの過程において必要条件となっている。

W.I.N.Gコミュ「大切、選べないから。」
『チエルアルコは流星の』コミュ「無重力のウテナ」

 プロデュースの過程で、彼女のわかりやすい「色」だけでなく、その内面を理解したからこそ「親友」で「とにかく元気な役」を取ってくることに成功する。プロデュースの過程で成長していくのはアイドルだけではなく、プロデューサーもまたその一部であり、この一連の成長を通してプレイヤーは八宮めぐるを理解していくのである。
 最後に二人が「心で」見た空は、特定の色ではなく「光り輝いている」。本人を理解し、ファン数50万を超えるアイドルを育てたプロデューサーは「アイドルマスター」であり、「シャイニーカラーズ」を体現していると言える。

『チエルアルコは流星の』コミュ「無重力のウテナ」

4.結論
 『チエルアルコは流星の』は八宮めぐるとプロデューサーの成長譚を通し、他者の多面性への理解と、周囲の多様性への積極的姿勢を肯定するものである。
 演出としては寝癖を気にするところから水槽のガラスを見つめ、その先に自らと重ね合わせる熱帯魚を見つける一連の流れが非常にスムーズで印象的である。

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