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たまたま読んだ本031 「最高の発想」を生む方法 あの「ジャムの種類は少ないほうが売れる」の全盲の著者  最高の発想は成功事例から有用なものを選択して組み合わせること


最高の発想を生む方法

日本のタイトルは最高の発想を生む方法となっているが、原題はTHINK BIGGER、大きく考えようという意味なのか、その意味は失敗事例ではなく、過去の成功事例をジャンルを超えた大きい範囲で調べ、その中から有効的なものを新しく組み合わせることが、最高の発想につながると強調している。

著者は「ジャムの種類は少ないほうが売れる」ことを訴えた全盲の著者で、物事は選択の種類が多いほどいいのではなく、20種以上の品数の豊富な売り場では購入者は混乱を招くので、結局6種類程度の少ないほうが選択しやすく良く売れることを実証したマーケティングの有名な話だ。人間が把握できる項目は7個プラス2個までだという。
本を読む限り、著者が全盲とはとても信じられない。周りが見えている感性を持っている感じがする。

それはともかく、こういう発想方法のノウハウ本は、実はあまり好きでない。いろいろと理屈をこねて発想方法を伝授するが、ほとんどその通りすることが難しい。発想者自身もそのとおり行っているかも疑わしいくらいである。
同書も、読むと特に目新しいものはない。ただ、過去の成功事例の選択と新しい組み合わせということは納得できる。著者はその事例を自由の女神をデザイン建設したバルトルディやピカソの画風、アイスクリーム製造機や大衆車のT 型フォードの開発などで証明する。もっとも事例を挙げているように、この方法は過去から行われてきたことを分かりやすくまとめたものだといえるだろう。

ニュートンがリンゴの落ちるの見て重力を発見したのではなく、紀元前のアルキメデスが重心の概念を導入し、ニュートンは重力を証明する数式を発見したのだという。

また、「分析的な左脳型」「創造的な右脳型」といわれるが、左脳だけや右脳だけが働くことはないので、それは嘘だという。そしてオフィス空間をクリエイティブにしてもアイディアの質は上がらず、最高のアイディアが生まれるのは作業場でタスクに取り組んでいる最中だという。
熱中すると寝ても覚めてもそのことばかり考えるが、そんな時に急に浮かぶものがあることが多い。著者は、思考は何らかの記憶の行為であり、新しいのはその要素の組み合わせる方法が新しいのだという。アイディアの質は組み合わせるピースの質により決まるので、行き詰るときは必要なピースが足りないので外に出て探索すべきだという。

ブレインストーミングでは最高のアイディアは生まれない。まずは共同作業の前に一人で作業することだと強調する。

方法論としては、6段階の方法を述べる。
①課題を選ぶ。課題とは誰かが欲しがっているが、手に入らず困っているもので、まずは小さな課題を解決することから始まる。
②課題を分解する。サブ課題として分解することで解決策が見えてくる。
③望みを比較する。何を望んでいるのか出して比較する。
④箱の中と外を探す。つまり別領域で過去にうまく行った解決策を探す。失敗からは学ばない、試行錯誤もしない。成功事例を探る。
⑤選択マップ。組み合わせを何度も考える。異なる価値観にさらされた人間は創造性が高い。多様な文化を理解する人は創造性が高いという。そしてあなたの発想のもとになるのは、あなたが学習したことの蓄積だけなのだと言い切る。ただ選択肢が多いとやる気をそぐので絞り込む必要はある。また、いろいろな制約は創造性を妨げない、逆に制約があるから生まれるものもあるという。
⑥第三の眼。他人はどう見るのか?語って聞かせ、第三者に説明してもらうことで発想はより進化するという。

以上のように、発想法として別に珍しいことではないが、その過程を分解して分かりやすく提示してくれたことに価値がありそうだ。発想で困っているときは、新しいことを考えるのではなく、いろいろな分野ですでにある成功事例を新しく組み合わせてみることから始めよう。

THINK BIGGER 「最高の発想」を生む方法
コロンビア大学ビジネススクール特別講義

出版社:NewsPicksパブリッシング
発売日:2023年11月20日
頁 数:384頁
定 価:2,200円+税

著者プロフィール
シーナ・アイエンガー (シーナ アイエンガー)
全盲のコロンビア大学ビジネススクール教授。心理学者。イノベーション、選択、リーダーシップ、創造性研究の世界的第一人者。彼女の選択理論(商品の種類は少ない方が売上が多い)はマーケティング業界で広く知られる。同理論を書籍化した『選択の科学』(文春文庫)は各国でベストセラーに。日本ではNHK「コロンビア白熱教室」として番組化もされた。
1969年、インド移民の両親のもとカナダで生まれる。3歳で眼の疾患を診断され、10代後半で完全に視力を失う。にもかかわらず普通学校に進学することを選択し、大学進学後は「選択」を研究テーマとする。スタンフォード大学より博士号取得(社会心理学)。経営思想界のノーベル賞と称されるランキング「Thinkers50」に3度にわたり選出。米大統領より卓越した若手研究者に贈られるPresidential Early Career Awardも3度受賞。現在はコロンビア大学ビジネススクールで人気講義THINK BIGGERを開講中。本書は同講義の書籍化である。

翻訳者
櫻井 祐子 (サクライ ユウコ)
翻訳家。京都大学経済学部卒。大手都市銀行在籍中にオックスフォード大学大学院で経営学修士号を取得。訳書にアイエンガー『選択の科学』(文春文庫)、ソニ『創始者たち』、シュミット他『1兆ドルコーチ』(以上ダイヤモンド社)、サンドバーグ&グラント『OPTION B』(日本経済新聞出版)、クリステンセン他『イノベーション・オブ・ライフ』(翔泳社)、マグレッタ『マイケル・ポーターの競争戦略』(早川書房)など多数。

トップ写真:白いシクラメン

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