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地域工務店あるある デジタル化の罠

【ポイント】安易にシステムを導入しても、必ずしもデジタル化になる訳ではない
※ここで言うデジタル化とは『業務にデジタルツールを活用する事で既存業務を効率化する事』と定義します。

1.中小工務店の現状
地域の中小工務店業界でも確実にデジタル化の波が来ています。人材不足への対応・業務効率化・生産性向上といった観点から不可避の課題ですが、その浸透スピードとレベルは企業によって大きく異なります。しかもそれは決して企業規模の大小ではなく、ずばり経営者のデジタル化に対する意識が大きく影響しています。端的に言えば、経営者はデジタル化についての理解度が低いと業績悪化の要因となる事を明確に認識しておかれるべきだと思います。もちろん経営の本質的な事柄の方が大切なのですが、デジタル化はビジネスにおける大きなルール変更であり、早めに打ち手を打つ必要があります。とは言え特に地方の中小工務店ではデジタル化に対する様々な障壁があるのも確かです。それでは中小の地域工務店におけるデジタル化はどのように推進していけば良いのでしょうか。

2.経営者の理解と業務の整理
『一概にデジタル化と言っても、どこから進めていけば良いのかよく分からない。』『予算もいくらかかるかよく分からないし、ぼったくられそう』
という地域工務店の経営者も多いのではないでしょうか。社内に充分な知識を持っている人材はいないし、外注するにしても全く知識のない事を社外に丸投げするのは不安です。デジタル化はマーケティング会社やソフトウェア会社の言いなりになって進むものでもありません。根本的な問題解決策は社外にはない(社内にある)のは分かっているのだけれど、社内の誰かに任せていてもそうそう前には進みません。まずは経営者自身が自社の業務のどこがどのようにデジタル化できるのか仮説を立てられるまで考え抜く事ではないでしょうか。そのためには信頼のおける詳しい人から聞く・ネットで情報を収集する・成功事例を見聞きするなどが第一歩で、立てた仮説を検証してみる事から始まるでしょう。
情報収集をされたとして、デジタル化を推進していこうという話になるのですが、ここで陥りやすい罠がいくつかあります。とても多いのがソフトウェアを導入しさえすればデジタル化したと勘違いする事。よくあるパターンとして①ソフトウェアを導入しても入力がなされない、②複数のソフトウェアを導入したのは良いが情報が連携されず結局は入力だけが増えた、③自社の業務ルールが定まっておらず皆が勝手気ままにやっているのでデジタル化しても効率化していない、などです。スケジューラーを導入しても社員がスケジュールを入力しない、細心の設計図面をグループウェア上にアップできるようにしたとしても最新版がアップされていない、工事管理システムを導入し受発注や請求管理をペーパレス化しようとしても協力業者が対応できないなど、具体例は多くあります。これらにはゲームのルールが変わったという事を明確にする事、業務を確認(管理・チェック)する人が必要だという事も全員が認識するべきでしょう。
こういった罠(トラップ)にはまらないようにするには、まず自社の組織体制と業務整理を行い、社内ルールを今一度見直していく事だと思います。いま現在、だれが何をしていてどのように業務が回っているのか。それに対してどのようにすれば効率化が進むのかを考えた方が良いでしょう。ソフトウェアありきで考えると組織にフィットしないものを選んでしまったり、不要な機能を無駄に使ってしまう事になりかねません。
組織体制のまとめに関しては、工務店であれば営業・設計・IC・現場監督・総務経理というすべての機能がある場合とそうでない場合があります。設計担当が営業を兼務していたり、ICはすべて外注しているなどがあるだけで、関連した業務の流れが他の工務店と違う事はよくある話です。

3.ではどうすれば良いの?
解決策については次回のコラム『地域工務店のデジタル化戦略』で詳細を書いていこうと思いますが、ポイントとしては『①デジタル設計図の作成②適正なツール活用と外注③デジタル人材の育成』が挙げられます。地域工務店にできるデジタル化は、まずは自社の業務状況や事業の強みなどと嚙み合った形での業務整理を行い、そこに適切なデジタルツールを導入する事。そしてそのリソースが社内に不足している時には一部を外注する事。中長期的には内製化を目指してデジタル人材を育成する事だと考えています。※詳細は次号でお伝えします。

4.SaaSがすべてではない
世の中には工務店向けソフトウェアが氾濫しています。工務店は年間マーケティング費用だけでも売上高の2~3%を平均的に使います。つまり10億円の売上高だと2,000~3,000万円/年、5億円でも1,000~1,500万円/年を使う事となります。この事業規模でこんなに多額の販促費を使う地方企業はあまりありません。つまり地域工務店はマーケティング会社からするとお金を出してもらいやすい業態なのです。実際に住宅業界特化型のベンダーやコンサルタントの場合、業界特性をよく知らずとも商品力があればなんとかなっているケースも多く見かけます。人もアイデアも不足しているレッドオーシャンのなかで、正直に申し上げれば(自虐の意も込めて)供給側のレベルは高くなくとも成り立ってしまっているという形です。この状況が良いか悪いかは結局地域工務店の業績貢献度次第という事なのですが、地域工務店に対する広告ツールや『SaaS(さーず)』と言われる各種ソフトウェアの販売は、総じてやりやすいのだろうと感じます。私は、このソフトウェアなどがデジタル化(≒業務効率化や生産性向上)をすべて解決してくれるものとは全く思っていません。確かに有効に活用をしておられる地域工務店さんも存在しますし、なかには安価で利便性も高いソフトウェアもあるのも事実ですが、これはソフトウェアの問題ではなく地域工務店の取組姿勢が問題なのだと考えています。ですので、まずはソフトウェア導入ありきのデジタル化を考える前に、自社の体制を読み解いてからの方が成功する可能性が高まると思います。

『SaaS』とは『Software as a Service』の略で、これまでパッケージ製品として提供されていたソフトウェアを、インターネット経由でサービスとして提供・利用する形態のことを指します。インターネット環境があれば、場所を選ばずアクセス可能です。
業務上のメリットとしては、①インターネット環境があればどこでも仕事ができる、②複数で同時に編集や管理ができるなどがあります。また開発会社が汎用性を持たせて開発をしているので導入コスト・ランニングコストが安い事もあります。バージョンアップも常に開発業者側が行うので、サービス内容も最新版委更新されますし、セキュリティも安心です。逆に会社ごとにカスタマイズする事は難しく、やれるとしても高額な費用が掛かる事が多いです。

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