仮面ライダーBLACK SUN感想(ネタバレ)

アマプラ独占配信作品『仮面ライダーBLACK SUN』を完走したので、取り急ぎ感想を。

良かったところ…
 改造人間としてのライダー・怪人デザインの細部までの拘り。HRギーガーのデザインにも通ずる、生き物のグロテスクさと機械の無機質さが一体化した素晴らしい造形美。また、俳優陣の並々ならぬ役作り。変身シーンは平成以降で一番といって良いほど、命を賭してる感が出ていて鳥肌が立った。西島秀俊の顔力を以っての南光太郎の「ゆ゛る゛さ゛ん゛!」は今をときめく若手俳優たちには絶対に出せないであろう迫力があり、最高の人選だったと思う。アクションは、いつものライダーのスタイリッシュでプロレス的なバトルとは違った、リアリティある物で、これはこれで良かった。

悪かったところ…
 世界感が一向に頭に入ってこない。戦中、軍の特務機関により作り出された生物兵器=怪人。1972年、学生運動よろしく怪人解放のために活動する五流護六。そして現代では、幼稚なヘイトスピーチを繰り返す怪人排斥運動とリベラル派の反差別運動が小競り合いを繰り広げている。各時代の描写は現実世界のメタファーになっていて面白いのだが、フィクションと現実世界のパッチワークが正直、あまりうまくいっていない。場面場面はリアリティ溢れる画なのにも拘らず、「どうして怪人が差別をうけるようになったのか」「政治団体となったゴルゴム党は、怪人に対してどのよう施策を採ったのか」等、時代と時代の繋がりがあまり説明されないままストーリーが進んで行き、流行りの言葉でいえば世界観の「解像度」が低くて没入できないのだ。

 また、これは視聴者の読解力に委ねられてるのかもしれないが、過去と現在の場面がころころ切り替わるのが煩わしく、中々ストーリーに集中できなかった。過去編と現代編の劇場版サイズ2本に再編集し、時代間の補完を加えたらもっと締まった作品になるかも。

 1972年の五流護六に関わる一連の描写は、白石監督の師匠である故・若松孝二監督の『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』と同じように、あの時代の空気感として若者たちの未熟で青臭い狂気と真っ直ぐさが描かれていて、個人的には面白かった。だが、ライダーファン、特に平成ライダーから入った層がこれを求めているか?と問われれば、うーん、違うかな…となってしまう。

 こう色々と難癖を付けてしまうのも、アマプラ独占配信作品としては前作にあたる『アマゾンズ』、特に1期が素晴らしすぎたからに違いない。1話も漏らさず視聴者を惹きつけに惹きつけまくった衝撃の展開の数々。そして最初から最後まで「正義とは?悪とは?」というテーマで主人公2人を悩ませまくったのは、大人向けライダーとしては満点の内容だった。

 一方の『BLACK SUN』はというと、キャッチコピーの「悪とは、何だ。悪とは、誰だ。」から期待される内容に反して、悪者は誰がどうみても総理大臣および日本政府しかいない。怪人はというと、戦闘力が多少高いだけの社会的弱者であり、悪としては描かれていない。内々で「権力に屈するか、反抗を続けるか」という葛藤やそこから生まれる内紛はあるものの、総理大臣の圧倒的な悪の前ではその葛藤も霞んでしまう。だから総理大臣は天誅を下されたのだし、そのシーンにはキャラクターの迷いも無ければ感動も無かった。これでは勧善懲悪モノである。子供向けのニチアサですら「善悪は相対的」というメッセージを描けているのに、折角の大人向けライダーが勧善懲悪モノというのは些か残念である。

 まぁ、何が言いたかったかというと……

『アマゾンズ』本当に素晴らしい作品なので、未視聴の人は是非見てください。

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