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アルベール・カミュ「異邦人」の映画版(ルキノ・ヴィスコンティ作)を見てきたよという話

 ルキノ・ヴィスコンティ氏が撮った、アルベール・カミュ作の「異邦人」の映画を見ました。自分は映画には全く詳しくないのだけれど、カミュの「異邦人」については偏執的なまでに好きな作品なので、今回映画版を見れてとても嬉しい。
 早稲田松竹が7/3〜7/9までヴィスコンティ祭りをやってるらしいので、全人類見てください。
http://wasedashochiku.co.jp/archives/schedule/10799

 ネタバレ等気にする人は見ないでください。





・最後のムルソーの涙、解釈違いだな〜〜〜!!!個人的にはあそこはスッキリした顔か、無表情のままでいてほしい。希望が消えて(消えたがゆえに)、生まれ変わったような気持ちを表現してほしかった。ムルソーに限って、「本当はそんな簡単に吹っ切れなかったんで泣いちゃいました」と言うことはないだろうし……
・ムルソーのアスペっぷりが映像になると際立つな……「通常の論理的な一貫性が失われている男ムルソー」というあらすじを見るたびに「いや、ムルソーはめちゃくちゃ首尾一貫してるだろ」と思ってたのだけど、社会フィルターをかけると毎回空気読まないマンになって支離滅裂に見えるんだな。ダルいからといって母親の葬儀で悲しまなかったり、恋人が「結婚したい!私を愛してる?」と聞いたとき「別に愛してないけど結婚したいならしてもいいよ」って言ったり、人が沢山いる雑居房で「何やったの?」「殺人」って答えたりしてはいけない。
・最後の牢獄シーン、あの限られた空間、限られたライティングで多彩な表現をしたのはマジですごいなと思う。ムルソーに詰め寄る司祭の青白い白目、死神みたいで好き。
・レエモンの職業は字幕ではヒモと訳されていたけど、ヒモなの?小説版では女衒だけど、女衒とヒモではかなり重みが違うのでは……公衆の面前で「彼の本当の職業はヒモだって皆知ってる!」って怒られるのイヤすぎるな。女衒だったらいいってわけじゃないけど。
・かさぶただらけのサラマノの犬はどう表現されるんだろうと思って見てたが、暗くて見えなかった。表現しないのか、なるほど。となった。
・最初の方の母親埋葬シーン、ちょっと早送りすぎでは?と感じたけど、その後の法廷シーンの尺はいい感じだと思ったので、あの長さは適切なんだと思う。
・ムルソーのアラビア人を撃つシーンがチープで、もうちょいなんとかならんのか?と思ったが、多分誰に撮らせてもチープにしかならないだろうなという予感もある。あれはムルソーを糾弾する手段にすぎないのだし。
・検事の「寛容という消極的な徳は、より容易ではないが、より上位にある徳に替わるべきなのです」のシーンでの動きが、めちゃくちゃヒトラーの演説に似てて笑った。正義を身体で強く表現しようとするとだいたいヒトラーになるんだなーと思った。
・増村保造氏の「ヴィスコンティはムルソーの内面を掴んだか」という評論文が映画館に貼ってあって、それを読んだのだけど、どうも的外れに思う。「ヴィスコンティは、馬鹿に力を入れて、この法廷シーンを描いているが、そこに展開されるのは証拠を中心とする英米法的攻撃防御ではなく、美辞麗句、誇張にみちた雄弁を主体とするラテン的裁判であるために、熱が入れば入るほど、空虚で軽薄でお芝居じみてくる。」としているが、その「お芝居」こそムルソーが断固として拒否したものではないか?「異邦人」において、アラビア人を殺害したことはムルソーを糾弾するためのきっかけにすぎない。殺害されたアラビア人は名前すら明らかにされない。ムルソーはキリスト教社会において道徳的な重罪人であるがゆえに死刑になる。これは宗教裁判なのだから、そりゃあ法的ではない。
・最後の司祭との対決シーン。「あなたは本当は○○と思っているはずだ」という失礼極まりない決めつけをバスバス詰める司祭に、きちんと否定して激高するのは、とても正しいと思った。司祭の考えが結局全く変わらないのも含めて、自己主張を推し進める意義というのを感じた。
・ムルソーの水着が女子用スクール水着っぽくて「成人男性がスク水!?」ってなった(多分あの時代は普通のファッションなんだろうと思うけど)
・汗の表現がとても良かった。ワイシャツにオリーブオイルがべったり張り付いてるかのような汗の描写で、「ほんとにクソ暑いんだろな……」というのが伝わってきた。
・「煙草は大人のおしゃぶり」みたいな話を聞くけど、走ってるときとか電話してるときにも煙草ピョコピョコくわえてるの見るとほんとおしゃぶり感あるな〜となった。灰が飛び散って火災とかおきないのかな?と心配になるけど、車ビュンビュン走ってたらそら一定数交通事故は起こるでしょくらいのノリだったのかな。
・早稲田松竹のルキノ・ヴィスコンティ特集ページに
>本作(異邦人)の主人公の不条理な言動は、クイーンの名曲「ボヘミアン・ラプソディ」の歌詞とも類似しており、元ネタとしても有名である
って書いてあったがホンマか〜〜〜???ってなった。ムルソーはそんな母親に執着しとらんやろ〜〜〜。ちょっとググったらクイーンは元ネタについて明言しておらず、諸説あるらしい。


 原作小説だけだとなんか胸いっぱいになってなかなか感想が書けなかったのだけど、映画についてのコメントをするという形だと比較的書きやすくなったので良かった。「異邦人」、めちゃくちゃ良い小説なのでみなさん読んでください。

人間の資本が増えます。よろしくお願いします。