200610 〈TED〉エリフ・シャファク: 多様な考え方が持つ革命的な力


突然 こんな風に感じました 私が伝えようとしていることは 複雑で細部にわたりすぎていて この状況の中では 説明することは無理なんだ と そして こうした状況で 私がよくしてしまうことをしました 口ごもり 中断し 話すことをやめてしまいました 私は真実が複雑すぎたから 話すことをやめたのです 心の奥ではわかっていたのに 人は複雑であることに恐怖して 決して沈黙してはならない ということを
(Transcript/日本語訳より)

上記は導入部分のエピソードからの引用。「冒頭にキャッチーなエピソードを持ってきて、再度結びで取り上げる」という方法はスピーチの鉄板だと思うけど、これまでに聞いた中でも特に心に残るエピソードだった気がする。話者の方、素敵な雰囲気の人だな…このメモでは全編の内容に触れることはできないけれど、トータルで見ても、優しさと強い意志と、その両方を感じさせる素晴らしい語りだったと思う。

言葉にするのをためらう場面は、私の日常にあふれている。言いよどんでいるうちにタイミングを失ったり、喉まで出かかった言葉をぐっと飲み込んだり…そうしていつも押し黙る、ということが多々ある。それはなぜか。
もちろん不安や自信のなさに由来する部分もあるけれど、言葉にするが故にこぼれ落ちてしまうものに思いを馳せすぎるところが、私にはある。言葉で表されたもの以上に、そうすることによって失われてしまうものの方に、心がたなびいてしまう。だから結局、多くの場面で流されるがままに沈黙を守り、そこに居座ることになる。

最近やっと文章にする勇気は湧いてきたけれど、やっぱり話し言葉は苦手だな。恐ろしく会話の瞬発力がないから、だいたい答えをまとめようとしてるうちに、場面は次のフェーズに移ってしまう。だからといって、自分のそういう愚鈍さを特別恥じる必要はないと思う。得手不得手があるのは当然のことだし、私は自分にできる形で言葉と付き合っていければ、それでいい。

忘れたくないのは、表現そのものから離れてしまうこと。表現することを恐れて、自分の中にあるものを見なかったことにしてしまうこと。何によって表現するか、その手段は別になんでもかまわないから、「知らぬ間に気づくと言葉を失っていた」という状況にだけはならないように、そうして気持ちを見失ってしまうことがないように、言葉を上手に用いることができるといいね。


●以下、Transcript/日本語訳に基づくメモ及び引用(引用はカギ括弧、引用内の読点は引用者によるもの)

・感情的知性を高める必要がある
→政治理論の主流では感情にほとんど注意を払わないが、それは間違いである
理由1:私たち人間は感情的な存在だから
理由2:現代は集団的感情が政治を先導し、ときに誤った方向に導く時代だから(SNSの普及→感情の増幅、分極化)
・世界を架空の対立する二つの集団に分ける見方
→液体的な国(トルコなど):まだ静まっておらず揺れる波のよう 
→固体的な国(西洋):安全で安定している
     ↓
(2016年において)階層的な地域分けは無意味、世界を二元論で語ることはできない。歴史は必ずしも前に進まない。ときに円環的、あるいは後退もありうる。私たちは液体的な時代を生きている
・世界はこれまでにない難題に直面している
→急速な変化、不慣れな出来事に直面すると、人は単純さを切望する
→大衆扇動家が現れる契機を用意することになりかねない
→世界の煽動家に共通しているのは、複数の選択肢を嫌うこと、多様性を扱えないこと
「曖昧さに対する不寛容は権威主義的な人格の印である」byアドルノ(恐らくテオドール・アドルノ
・アカデミアの中で起こる無神論者と有神論者の争いについて
→「それは本当の知的なやりとりではありません。なぜならそれは二つの確実なものの衝突でしかないからです」
「二項対立があらゆる場所に現れていると思います。そのためゆっくりと、そして組織的に、私たちは複雑な存在でいる権利を否定されているのです」

「トルコ出身の私は、多様性が失われることがとても大きな損失であることをよく知っています」
「固体的な国が幻想であったのと同じく、単一の帰属意識も幻想です。なぜなら私たちは多様な声を内側に持っています」

「あなたは存在を喜びに変える、あらゆる必要な要素を魂に持っています。これらの要素を混ぜ合わせるだけで良いのです」byイランあるいはペルシャの詩人ハーフェズ
「感情は私たちを部族に分断しようとしています。でも私たちは国境を超えてつながっています。感情は確かさを求めてきます。でも私たちは人生がたくさんの不思議と曖昧さであふれていることを知っています。感情は二元論を促してきます。しかし私たちは二元論では表しきれない微妙な違いを持つ存在です」
「私はおしゃべりな人々から沈黙を学び、不寛容な人々から寛容を学び、不親切な人々から親切を学んだ」byレバノンの詩人ハリール・ジブラーン
   ↓
「ポピュリストの扇動家から私たちに民主主義が不可欠なことを学び、孤立主義者から地球規模での連帯の必要性を学び、部族主義から世界市民主義と多様性の美しさを学ぶことができるのです 」

↓は同じ話者の2010年のトーク