IQの高い人の行動ほど、周りから奇怪だと思われる理由

一般に人は、因果関係と、関連との区別のない世界を生きています。一方、一定以上の高いIQがある場合では区別ができます。この区別が意味を持つ状況下では、IQの高い人の選択は非常に奇怪に見えます。

古い話ですが、モンティホール問題というのをご存知でしょうか。モンティホール問題とは、1990年当時のアメリカで人気だったテレビ番組 “Let's Make a Deal” で番組参加者に用意された懸賞ゲームについての問題です。「世界一IQが高い人間(IQ228)」としてギネスブックに認定されていた Marilyn vos Savant 女史(以下サヴァント)が自身のコラム “Ask Marilyn” で答えたモンティホールの懸賞ゲームに関する回答は非常に奇怪なものとして、世界中の数学者、教授クラスの人物からも抗議や嘲笑を受けました。

モンティホールの懸賞は、次のようなゲームです:

実際のスタジオの様子
  1. 目の前に三つの閉じたドアがある

  2. 三つのドアのうち、一つのドアは後ろに自動車(アタリ)、それ以外の二つの後ろにはヤギ(ハズレ)がいる

  3. どのドアが正解(自動車)かは、司会者モンティホールだけが知っている

  4. 回答者はまず、自動車が後ろにあると思うドアを一つ選ぶ

  5. モンティホールは残りの二つのドアのうち、必ず外れ(ヤギ)のドアを開けてみせる

  6. 残った二つのドアのうち、回答者はそのまま最初に選んだドアか、またはもう片方の(モンティホールが開けなかった)ドアのどちらかをファイナルアンサーとして選ぶことができる


さて、サヴァントに “Ask Marilyn” で寄せられた質問は、「モンティホールの番組に出場したら、ファイナルアンサーでドアを変えたほうがいいんですか? それとも最初の直感を信じたほうがいいんですか?」というものでした。

サヴァントの答は「変えてください。最初に選んだのとは違うドアを選べば、正解率は2倍になります。」というものでした。これが当時物議を醸したモンティホール問題です。

彼女に送られた抗議は10,000件を超え、博士号を持つ人からの反対意見、いや、罵詈雑言も1000件含まれていたそうです。

ジョージ・メイソン大学のロバート・サッチス博士「プロの数学者として、一般人の数学的知識の低さにはがっかりしました。サヴァント女史は自らの間違いを認め、デマを訂正してください」

フロリダ大学のスコット・スミス博士「世界最高の知能指数保有者である貴女が自ら数学的無知をこれ以上世間に広める愚行を直ちに止め、恥を知るように!」

1991年になっても騒ぎは収まりませんでした。

E・レイ・ボボ博士「憤懣やるかたない数学者を何人集めれば、貴女の考えを改める事が可能でしょうか?」

それでもサヴァントは「ドアがそのままなら勝率は3回に1回、ドアを変えれば勝率は3回に2回」という主張を変えませんでした。

状況が変わったのは、「コンピューターシミュレーションで正しい答えを探ってみた」という投稿がなされてからでした。モンティホール問題を、最初の選択のままドアを変えずにいた場合と、必ずドアを変えるようにした場合とで数百回試行し、正解率を比べてみたという人が現れたのです。

このプログラムを作ったのは、数学者ポール・エルデシュの弟子、アンドリュー・ヴァージョニで、結果はサヴァントの主張のとおりでした。エルデシュは当初、サヴァントが誤っていると主張していましたが、シミュレーションの結果を見て主張を撤回。天体物理学者カール・セーガンらがモンティホール問題についての解説を行い、ようやくサヴァントの主張が正しかったことが知られるようになりました。

この問題が直感に反するのは、最初に選んだドアと、正解のドアとの間に、なんの因果関係もないからです。ゲーム内での因果関係を図示すると、次のようになります。

しかし、正解のドアの位置を司会者が知っているので、司会者が開くドア(そして司会者が残すドア)は、正解のドアの位置によって異なります。このことは開いていない2つのドアの正解に対する関連をもたらし、2つのドアになんの因果関係もないのに、最初に選んだドアの正解の確率が低いという結果を導くのです。

IQの高い人の行動がときに無から結論を導き出しているように見える理由のひとつには、因果関係のないところにも関連を見出すことが挙げられるのです。


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