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日本の選挙は諦めがついてたりもするのに、バージニア州の州知事選で胃がキリキリ

まさかこんなことでトニ・モリソンを再読しようかな、という気になるなんて…ちょっとそれはそれで情けないんだけど。

アメリカの赤い州、青い州ってよく分けて呼んでるでしょ? でもその境目ってどうなってるのか、例えば州境のあたりを旅するとどういう感覚なのかわかんないよね? 目の周りの景色が赤かったり青かったり、色がついてるわけじゃないんだから。ハロウィーンといえども赤鬼みたいな人やアバターみたいな人が歩いているわけじゃないんだから。

で、その昔、東海岸をニューヨーク(真っ青)からバージニア州のリッチモンド(赤い州だけど、都市部はパープル)まで車で南下したことがあってだな。その紫の黄昏のような境界線を越えた経験を思い出す。

折しも10月下旬で、11月に大統領選挙のある年で。そこに行き着くまでは、車を停めておりても普通に英語も聞き慣れた訛りだったし、アジア人だからってジロジロ見られることはなかったんだけど…

リッチモンドに降り立った途端、異次元世界だったよね。たまに黒人の人もいるけど、基本ナマっちろい白人ばっかりで。こっちは何もしてないのに、「そこにアジア人がおるで」みたいに視線が突き刺さるような。そして、人が話す英語がちょっぴり南部訛り。南部訛りって説明しにくいんだけど、ニューヨーカーの弾丸トークに比べると、タカターン、タカターンというゆっくりなリズムがあって、最後の2音節がターンターンという、ちょっと間延びした2音節。説明しにくいんだが。この兄ちゃんのしゃべりがまんまバージニアだね。

そしてリッチモンドの街には、大通りにロータリーがいくつもあって、そのロータリーの真ん中には、南北戦争で「負けた方の」将軍の銅像が建っていて、どれも北部に馬のお尻を向けて聳え立っている、ってのは、昔書いた気がするんだよな。

こういう南部軍の英雄を讃える銅像ってのは、南北戦争の直後からずっと建てられてる伝統のあるもの、って思うでしょ? ところがどっこいそうでもないんだよなぁ。大体は1960年後半あたり、つまりマーティン・ルーサー・キング・ジュニア牧師みたいな人たちが人種平等を求めて戦った公民権運動が盛んだった後に、そのバックラッシュとして作られたのがほとんどなんだよね。うるせー、何が平等だ、俺たちはてめーらを奴隷のままにしようとして戦ったんだぞ、みたいなマウンティング行為の象徴だったわけ。

リッチモンドでは最近、リー将軍の銅像が撤去されたんだっけ。ミネソタ州でジョージ・フロイドが白人警官に殺されて、全国でBLM運動が盛り上がった頃。けっこう高いところに建ってるから、クレーン車とか必要だったろうな。あ、映像あったわ。

そのバージニア州で来週、州知事選挙があるんだけど、まず、あれ?去年に大統領選やったばかりじゃん。なんでついでに合わせてやらないの?って普通思うよね?そうなんだよ、そう、勝った州に馬のお尻向ける、みたいな、へそ曲がりなところがまさにバージニア。

さらに、その州知事の任期もなぜか2期続けてはなれなくて、ずっと州知事やりたい人は、飛び飛びに任期を空けて、また、立候補しなきゃいけないときている。なんなの?この人たち?w

というわけで、いま、州知事の座を争っているのが、前々期州知事を務めたテリー・マコーリフ。まぁ普通にいい感じのおじさんで、2期目も頑張りますよー、という民主党の候補。そして対抗馬が共和党候補のグレン・ヤンキン。共和党というより、ばりばりトランプ信奉者なんだけど、表向きにはそれを出さないようにしていて、ドナルド・トランプには「応援演説には来ないでね」とビクビクしている。何しろ、赤青でいえば、紫と目されていたバージニア州民は大統領選挙の時に、一気にジョー・バイデンが優勢になったから。

いやしかし、このヤンキンってのが、「どこの馬の骨ですか?」(馬から離れろ、自分ww)ってな胡散臭い経歴の人。トランプと同じ、政治家としての経歴はないってのを売りにしているが、カーライルっていう有名な投資グループの社長もやってた人。でも大損こいた取引をいくつもやって、出世競争で負けて追い出されたも同然なんだけど。

コイツが州知事になったら、フロリダのデスサンティスやテキサスのアボットよろしく、州内で中絶手術を違法にしたり、子どもにマスクさせない、先生にワクチン打たせない、みたいな州になりそうな。

で、トニ・モリソンのことなんだけど。

選挙運動たけなわの中、変なおばさんが変なこと言うヤンキン支持のコマーシャルが流れたのね。

「ある日、うちの子どもが学校でこんな本が課題に出たんだけど、悪夢を見るようになったって言ってきたんです。親としては、子どもがトラウマにならないようにしたいじゃないですか。だからその本を禁書にしてくれって言ったんですけど、当時のマコーリフ州知事は耳を貸してくれなくて。でもヤンキン候補は違います。私たちの意見を聞いてくれます。」

って、もっともらしいこと言ってるんだけど、この母親が言ってる、禁書にしてほしい本ってのが、トニ・モリソンの『ビラブド』。あのノーベル文学賞受賞者によるピューリッツァー賞受賞作品で、オプラ・ウィンフリーが自ら主演で映画化したBelovedなんだよね。そして「うちの子」ってのは、エリート私立校に通う、18歳くらいのおぼっちゃま君なんだよね。Belovedが課題図書になってたのは、上級の米文学の授業なんだよね。10年も同じこと訴えてて、しつこいなw そしてそのおぼっちゃま君は今27歳で、トラウマはどうした?ってな、親のコネでバリバリ七光りしながら首都ワシントンで共和党委員会お付きの弁護士してるんだよね。

確かにBelovedは読んででキツい本ではある。集団レイプも獣姦も出てくる。何よりも、自分の子どもに奴隷としての人生を与えてしまうのが辛すぎて自ら命を奪った母親の気持ちがキツイ。だけど、そう言う奴隷史を真っ向から描き切った作品として評価されてる。エリート白人のティーンエイジャーこそ読めよ、ってな話な。


州知事選の投票日は火曜日なんだが、今のところ調査では「五分五分」とのこと。歴史的に見ると、バージニアの州知事は、いつも前年の大統領選で大統領になった人の党じゃない方が勝つ、と言うパターンが続いている。だからヤンキンが有利、なんてことは言わないが、何としても負けたくない民主党はジョー・バイデン大統領から、バラク・オバマ前大統領まで強力な助っ人を次々と送り込んで応援演説している。

ところで、この対抗馬で馬面のヤンキン氏、誰かに似ている、そしてなんかムカつく、と思ってたんだけど、あれだ、ビール大好きセクハラし放題のおぼっちゃまのくせに最高裁の判事になったブレット・キャバノーと激似じゃないすか?

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左がヤンキン、右がキャバノー。おえっ。なんかオレンジの🎃見るのももう嫌になった昨今w、ハロウィーンも楽しめないわ。

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