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アマゾンがリアル店舗を持つたったひとつの理由

…みたいなアホなタイトルで私はコラムを書いたりしません。世の中なにごともそんなに単純なものではありませんからね。アマゾンも然り。

で、ロイター通信の第一報から、いちばん詳しいウォールストリート・ジャーナルの記事を元に、どのメディアもこぞって取り上げたニュースですが、あまり状況説明がされていないようなので、補足しておきます。

まず何故このタイミングなのか?

これはクリスマス前の「ラスト・ミニッツ」買い物客への対応策です。アメリカ人というのは普段まったくと言っていいほど人に何かを贈る習慣がありません。お中元もお歳暮も手土産もなし。バースデープレゼントなんて子どもの時だけだし、ウェディングに招待されても事前にレジストリーで数十ドルのものを手配しておけばいいだけ。

そのたったひとつの例外がクリスマスです。クリスマス当日、つまり25日の朝までには、家族、友人、親戚で集まる人たち全員に何かを用意しなければなりません。例外は許されません。手ぶらで行ったりしたら親戚一同からつまはじき者になります。子どもに至ってはひとりにいくつもプレゼントを用意したりします。休みを取った後に「どこそこへ行ってきました」と温泉まんじゅうを配る習慣がないオフィスでもプレゼントのやりとりをします。

なにごともいつもギリギリまでやらない人というのはどの国にもいるもので、アメリカのショッピングセンターは12月24日の夜中にお店がすべて閉まるまで、阿鼻叫喚を挙げながらプレゼントを買いまくるアメリカ人でごったがえします。夜のニュースではモールから生中継が入り、レポーターに上から目線で「なぜ今の今までやらなかったのか?」とマイクを突きつけられて「このギリギリのスリルが楽しいんだよね」と答える剛の者もいたりするのが定番です。

お正月明けからせっせと貯金をし、プレゼントをする人たちのリストを作り、バーゲンでお得にゲットしたプレゼントを用意し、半額で前年の12月26日に買っておいたラッピングペーパーで包む、童話に出てくるアリのような用意周到な人がいる一方で、おバカなキリギリスのような人もいるわけです。遅い時間になると、売れ筋商品は既にラッピングしてリボンをかけてあるぼったくり香水セットが定番です。あまりにも毎年繰り返されるので師走の風物詩といってもいいでしょう。

アマゾンを始めとするネットリテーラーの台頭で、このアメリカのクリスマス商戦もだいぶ様相を変えました。サンクスギビング(いつも木曜日)の翌日の金曜日は、食べ過ぎた七面鳥ディナーの腹ごなしに朝っぱらからモールに出かけ、クリスマスショッピングを始めるのがアメリカの習わしだったのですが、(大安売りの大型テレビや人気のあるおもちゃを巡って毎年のように人が踏まれたり撃たれたりして死にます。)最近ではその週末の次の月曜日を「ブラックマンデー」と言って、アメリカ人が出社してオフィスのパソコンでクリスマス用のショッピングを始めるのが昨今の常識です。

何しろネットショッピングだと、あっちこっちのサイトを比較してどこがいちばん安いかすぐに分かりますし、オフィスに届けてもらって家に持ち帰れば不在票とは無縁だし、ラッピングが苦手な人はギフト用ボタンをポチればそこそこ上手に包んだものが送られてくるし、遠くに住んでいる親戚にも直接配達することができるし、いいことだらけです。

ただし、ここでネットショッピングにもたったひとつの落とし穴があります。それはいくらギリギリにしようにも、クリスマス前日(当日は祝日扱いなのでアウト)までに配達されるためにはロジスティックスを考えて、だいたい22日までに注文を取り終え、在庫があることを確認しておかなくてはなりません。

アマゾンは昨年、このロジスティックスを読み間違えて、つまり予想以上にギリギリで売れた商品が多かったため、クリスマスに間に合わなかったプレゼントが山のように出てしまい、注文客からさんざん文句を言われたのでした。実はアマゾンの方の処理は万全だったのですが、結局、各家庭にプレゼントを配送するのは普段からアマゾンにセクシーなマージンで締め上げられている配送業者の皆さんですからね。最終的には知ったこっちゃねーよ、こっちだってプレゼント抱えて実家に帰らないと母ちゃんに怒られるんだよ、という郵便局員も多かったわけです。

というわけでアマゾンは対応として商品クーポン出したり、送料をチャラにしたりと、昨年末は師ではなく、対応に追われることになったわけです。買い物客の方も、やっぱりギリギリショッピングは「ブリック&モルタル」と呼ばれるリアル店舗の方が確実だよな、ということを、親族に白い目で見られながら学んだわけです。アマゾンがちゃんと届けないのがいけないんだよ、と親戚に言い訳してもダメですからね。サンタさん、どうしてこなかったの?と子どもに泣かれて困り果てた親も多かったことでしょう。それがみんなアマゾンのせいになったわけです。

こういう場合、オンライン商店だけでなく、店舗も持ち合わせた量販店だと、今からお届けできませんが、どこそこの店舗に在庫があります、と表示できる方が強いわけです。アマゾンはこれを制しようというわけですね。もちろんいきなりクリスマス前の数日だけお店をオープンしても誰も来ませんから、今のうちから「お店がありますよ」とアピールしておいて、12月22~24日にボロ儲けしようという企みです。

アップルのiPhoneやサムソンのギャラクシーに劣ると評されたファイヤーフォンも、iPadやグーグルのネクサス7ほど人気のないキンドルファイヤーも、タイムリミットを前にした客にとっては関係ありません。とりあえずそのスマホ下さい!タブレットだったらなんでもいいです!リボンだけかけてもらえれば!ってなキリギリスさんたちに売りつけようという試みでしょう。

なぜマンハッタンで同日配送をやるのか?

実は今年に入ってから5月にグーグルが私が住んでいるマンハッタンで「朝に注文、その日のうちに配達」サービスを始めたんです。ウォルマートとかターゲットといった量販店と組んで。(両店はマンハッタンに店舗がない。)しかもテスト施行として最初の6ヶ月は配送費タダ。私もちゃっかり出不精を炸裂させて、歯磨き粉1個とか、スパイス2袋とか、セコイ注文を何度も入れて今日に至ります。そうしたら8月にアマゾンもニュージャージーにある倉庫を使って同じサービスを始めたんです。

実は第1次ネットバブルだった90年代にも「同日配達サービス」ってのはいくつかありました。Kozmo.comとかWebVanとかUrbanFetchとか。でもみーんな、配送コストが割に合わなくて潰れましたけどね。

だからアマゾンも今ここでものぐさなニューヨーカーをグーグルにとられてなるものか!さすがにグーグルは店を作れないけど、うちならキンドルやファイヤーフォンを置ける!クリスマス前に配達できる小さいものならマンハッタン即日いける!とふんだのでありましょう。

なぜエンパイヤステートビルの並びというロケーションなのか?

五番街34丁目と言えば、近くに言わずとしれたメイシーズという大衆デパートがあり、その周りにH&Mなどのファストアパレルの大型店が並び、バーゲン狙いのワーキングクラスの皆様でごった返すエリア。ティファニーやサックス・フィフスアベニューなど高級店が並ぶ五番街と比べると格下ではありますが、キンドルとカルティエを並べちゃいけないことぐらいアマゾンだってわかってます。

しかし再三このnoteでもお伝えしているように、マンハッタンの地価って今バカみたいに高いんですよね。何もないアメリカの田舎にどーんと大きい流通倉庫を作るのとはワケが違うし、ニューヨークってのは労組が強い町。あのウォルマートでさえ、お店をオープンしようと土地を視察しただけでジャマされて未だにマンハッタンには店舗を作れないでいます。

短期のポップアップストアならいざ知らず、ずっとここにお店を確保しようと思ったら、労組結成をしようとする店員も出てくるはずです。そうすると34丁目のお店の前に巨大なはりぼてのネズミが立つ(このお店はscabかさぶたと言われる非労組の従業員を使ってますよ、という抗議のサイン)ことにもなるし、アシェットとのバトルで既に出版業界中心地ニューヨークの皆さんの間では評判を落としているアマゾンのことです。ちゃっちゃとトンズラできることを念頭にお店を開いているはずです。いきなり通常の10年リースとかあり得ないですね。それにやっぱりリアル店舗はいろいろとコストがかかります。株主に早くもっと利益を上げて配当せい!と突き上げられているアマゾンが今さらイチからリテールをやるとは思えません。

そう私が断言しちゃえるたったひとつの理由とは…アマゾンのお店なんかできても私は行かないよ!ってことですけどね。

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