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暴君ぶりをかばう気はないし、もう支持はできないアンドリュー・クオモ州知事の過去

ちょうど1年前、全米でも最悪の事態となったCovid-19のパンデミックの渦中にあって、ニューヨークのアンドリュー・クオモ州知事のリーダーシップが頼もしいと評判になったことがあった。

毎日定時に記者会見をして、どんだけヤバイ病気なのか、ニューヨークがどんだけの危機に見舞われているのか、不要不急の用事のために外出るんじゃねーよとか、医療スタッフのマスクが足りねぇんだよとか、毎晩テレビでがなっていたわけです。

そのアンドリュー・クオモの政治生命が今や虫の息。高齢者住宅での死亡者数をごまかして報告していたことが発覚し、次にその責任をどうとるのかと迫った州議会議員を恫喝したことをバラされ、さらに相次ぐセクハラパワハラの告発によって失脚しようとしている。

私は例によってニュースジャンキーのニューヨークっ子だったので、アンドリュー・クオモが昔からPrince of Darknessと揶揄され、仕事ぶりがruthlessと評されてきたことは百も承知。なぜそんな暴君がニューヨークで支持を集めていたのか、そしてそんな彼のリーダーシップをべた褒めしていた日本人もあまり知らないクオモ昔話を書いておこうかと。

ニューヨーク、って聞くと日本人のほとんどは摩天楼そびえ立つマンハッタンとか、橋を渡ればオサレスポット若者の街ブルックリン、みたいなイメージを持つと思う。だが、「ニューヨーク州」といえば北ははるかカナダまで繋がるでっかい三角形の広大な州。ニューヨークといえば、リベラルな青い州、というのはウソではないが、それは人口が集中している都市部の人間が多いから、全体で票を数えれば青くなるだけで、上の方(=田舎の方)は真っ赤っか。州議会のレベルでは2012年まで共和党が与党だったし、青い党のデモクラッツ内でも派閥争いがすごくて、知らない人には何がどうなって、ニューヨークの法律やインフラが変わっていくのか、わかりにくいはず。

アンドリュー・クオモを語る場合、まず知っておかなければならないのか彼のお父ちゃん、マリオ・クオモ州知事。80~90年代にかけて3期、ニューヨークの州知事を務め、将来はレーガン大統領の対抗馬に、と期待されたリベラルな政治家。スピーチも上手だったし、温厚な性格が息子とはえらい違いw 人道主義で死刑を廃止しようとして、そのリベラル/保守のねじれた州議会を説得できず、4期目の再選ならず、ジョージ・パタキという共和党の軽そうなヤツに破れた。

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その父親の選挙活動で汚れ役を引き受けて暗躍してたのが息子のアンドリュー。要するに相手候補のネガキャンとか、指示を取り付けるためのギリギリ合法な脅しをかけていたわけw いちばんヒデーやり口だな、と覚えているのが、マリオ・クオモが州知事の前にニューヨーク市長に立候補して、現役のエド・コッチと予選でば撮りしていたころの話。

クオモ地元のクィーンズで、彼らと同じイタリア系のカソリックが多い町に「Vote for Cuomo, Not the Homo」というLGBTQ差別丸出しの謎のポスターが出回った。70~80年代にかけてずっと市長をやってたコッチはずっと独身で、ゲイじゃないの?って噂はあったけど、ずっとカミングアウトも否定もしないでいた。だからこのポスターはその噂をネタに、コッチを名指しすることなく、ゲイ禁止のカソリック教の支持者に訴えていたわけだ。

アンドリュー・クオモがhold a grudge、つまりやられたことをいつまでも根に持って仕返しをするヤツだってことも昔から有名。2001年、忘れもしない9−11の同時テロ事件の後、パニックに陥っていたニューヨークで、「アメリカの市長」とニックネームを勝ち取ったルドルフ・ジュリアーニ(その後の落ちぶれようはまた違う機会に書くとして)父親を破って州知事に当選したジョージ・パタキに対し、「アイツはただのジュリアーニの鞄持ち」などと空気を全く読まない発言をして四面楚歌で叩かれたことがあった。

この時ばかりは、周りからの「不謹慎な!」コールと、ドメバイ容疑も含めた離婚騒動もあってアンドリューは少し懲りたかのようにも見えたのだが。ちなみにクオモの元奥さんはケリー・ケネディー。そう、ジョン・F・ケネディの弟で、政治家としての将来を嘱望されながら兄と同じように暗殺された弟のロバート・ケネディの長女で、ニューヨークのクオモ家とボストンのケネディ家と言ったらアメリカの皇族にも似たエリート政治家一家同士の結婚ってことで注目されてたけど、結局、途上国の人権問題に携わってたようなケリー・ケネディが実は、家では夫からの虐待に耐え忍んでましたってな話で、離婚訴訟もこじれてたみたいなヒドイ話だったんだよね。

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そんなアンドリュー・クオモの2018年の再選の時は、大統領が既にトランプで、アンチアンドリューの民主党が立てた候補は「セックス&ザ・シティ」で知られる女優のシンシア・ニクソンだったわけだが、これも、民主党内のベテラン政治家はアンドリュー・クオモの過去の脅しとか、しがらみを思い知らされていたから、敢えて政治経験のない、だからこそクオモを「NY州のジャイアン」と真っ向から叩き切れる候補を擁立したわけなんだけど、結局大敗したわけでさ。(他にもニューヨーク独特の第3党のしがらみなんかもあったわけなんだけど、ややこしすぎるから省くね、ごめんね。)

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そんなわけで、3期目に当選したアンドリューは、ニューヨークの都市部にウケるよな政策、つまりゲイ婚合法化とか、銃規制とか、最低賃金値上げとか、ごり押しする形で州議会を通してきたから、人気もあったわけですよ。おそらくニューヨーク市部に住んでいる日本人住民なら、クオモ時代になってペンステーションや空港といったインフラが目につく形で整備されるようになったという形で恩恵を受けているから、クオモ支持者が多いんだと思う。

もうひとつ、アンドリュー・クオモが受けている「理由」の一つとして、いまいち軟弱でジャーナリストになった弟のクリス・クオモとのテレビでのヤラセっぽい喧嘩もウケてる理由の一つだったよね。「お母ちゃんに贔屓されてたのはオレの方だ」とか「おまいは出来損ないだと言ってたぞ」って公共の電波使って楽しげに言い争いをしていたのも好印象だったわけです。

でも、そんなこんなで蓋を開けてみれば、クオモ州知事に叱られるのが怖くて、老人ホームでのコロナ死者数をチョロ負かした部下がいたとか、その責任をせまった州議員を脅したとか、部下の女性にはミニスカートとハイヒールがデフォだからな、と言外に匂わせ、オフィスで2人きりのときに「オレみたいなおじさんとヤレる?」とか「二股愛人とかオッケー?」ってセクハラしまくってた、って話が次々に出てきたわけだが…驚きは全くなかったよね。「アイツならそのぐらいやってそうだ」って話で。

でもアンドリュー・クオモがそれでも重宝されていたのは、そんなjerkで嫌な奴なんだけど、トランプ大統領の言いなりになったりしないで、Get shit done(とりあえず、成果はあげる)みたいな実力行使の能力を買われていたわけで。

そんなこんなで、今ニューヨークではマンハッタン司法省がセクハラがあったかどうかの調査中なんだけど、個人的には「高齢者施設での死亡者数にイカサマがあったかどうか」で調べ上げて有罪にしてほしいわけなんですよ。アンドリュー・クオモがパワハラのセクハラのどうしようもないおっさんだったことはみんなが知っていることなんで。

アンドリューが見誤ったのは、そうやって辣腕政治家としてのし上がる時にまったく味方を作る努力をしてこなかった、ってことに尽きると思うんだよね。


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