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間違った「お・も・て・な・し」がツライ

海外から日本にやって来る人たちを「おもてなし」しようという心意気は買います。でも日本にいるとどうしてもこういった「頑張りすぎてハズしちゃった」文章を見かけることが多くて、あと4年半でオリンピックまでに少しはマトモになるんかいな?と暗澹たる気持ちになることも確かです。

例えばね。こちら、成田のバゲージクレームで見かけた看板。「往復で買うと成田エキスプレスがお得ですよ」ってことを言いたいのだということはわかる。私は日本人だからw。成田エキスプレスに何度も乗ったことあるから。でもわかりにくい。

英語のフレーズってのは短ければ短いほど、簡潔でわかりやすい言葉が求められる。そしてそれは回りくどい日本語を直訳したのでは、だいたい間違ったものになる。

日本人が書いたものをネイティブチェックするだけじゃダメ。プロの人を雇ってください。

本当は、日本人の英語の間違いを指摘するのは好きではないのです。それって、日本人同士がよくやっている、せっかく英語で発信している人に対する「アイツの英語は下手」っていう低次元な重箱の隅のつつき合いだから。そしてそれをやればやるほど、みんなが萎縮して喋らなくなるから。

喋る英語は、どんなに間違っていても、言いたいことが通じればそれでいい。でも書いた言葉、特にネットに載った英語はその途端、日本というコンテキストを離れて世界で共有されるため、また、世界中の人の目に晒されるため、なるべく正しく、簡潔で、美しい英語が望ましい。政府機関や私企業など、それなりの団体が発信する場合は特にそう。

こういう公共の掲示物もそう。大勢の人の目に触れるわけだから。そして伝えるべきメッセージが伝わることが大事だから。

では、どこがどういけないのか、そして(ここが批判するだけの人間と違って、ただでプロのサービスを供給しようという気前の良さw)どうすればいいのか、見ていきましょう。

Accessing major stations in Tokyo.

文法のことを細かく言えば、主語も動詞もないフレーズにピリオドを打ってはいけません。「アクセス」するのは誰か?これは利用客の「あなた」なわけで、こういうのは
You can access major stations in Tokyo!
ってな方が、直接的に訴えられて効果的です。しかも、「アクセス」ってのは既に和製英語として一人歩きしている感じで、ウェブなどで、その施設への行き方、っていうのは、DIRECTIONという言葉の方が一般的です。もう、この際、You can reach ... でもいいくらい。もっと細かくいうとmajor stationsって言い方も、何を持ってしてメジャーなのか?って問題もあるので、mostでもいいかな。

できれば、その主要駅(って言いたいんだよね、つまり)major stationsがどこなのかわかるように、右上の駅名が書いてある図のそばにあるとよかったですね。そこで、この図なんですが、駅名が長いほどフォントが小さくなってしまっては読みにくい。丸の大きさが大きいほど大きい駅なんだということが言いたいのであれば、この丸の中に収めず、overlayにするとかで、字の大きさは統一した方がいいでしょう。そして、都心にアクセスするのが目的なのであれば、成田駅の丸は違う色を使うとよかったですね。そしてターミナルが1とか2とかいうのは、空港に行く場合には重要ですが、都内に向かうのには大して必要のない情報なので、空港を一つの丸にまとめた方がわかりやすいでしょう。

その図のそばにある
No transfers all the way to major Tokyo stations.

これも主語、動詞、ないっつーの。そして長い。乗り換えなしでいける!ことを伝えたいなら、回りくどい否定形を使わずDirect access to Tokyoでいいと思います。Stationsとつけるのも要りません、なぜなら、乗客たちは駅に行くことが目的ではなく、東京のどこかに行くために駅で降りるだけなので。

で、デザインのことをついでに言えば、これが屏風に描いてある意味ってありますかね? デザインとして使いたいなら、いっそのこと屏風っぽい蛇腹の看板にすればいいじゃないですか。あ、予算がない? なら平面でいいですよ。でも、屏風に書いた餅、じゃなかった、絵に描いた金屏風だと、屏風の枠の部分が要る分、小さて読みにくくなるし、ぶっちゃけダサいです。もう一休さんみたいに、さぁ、都心までお安く行けますから絵の中から電車出してください!ってトンチでもかましたくなるレベルです。

以上はとりあえず前置きでして、まずはその下のでかい文字のところからして気になったんですよね。

A TICKET THAT MAKES “N’EX” MORE ECONOMICAL.

これは主語と動詞があるだけマシじゃん、と思うかもしれませんが、文章としてさらにダメです。こういう場合はAで始める必要全然ないんですよ。新聞の見出しと同じです。「切符」を単数で表現しちゃうのはおそらく紙のチケットが頭から離れない旧世代だからでしょうね。今は世界の交通手段ではEチケットでも同じチケットなので、切符を1枚、2枚という感覚すら古いわけです。

動詞のMAKEもいただけません。これはチケットを擬人化していることになります。英語のMAKEは日本語の「〜になる」の訳としては不適切な場合が多いんです。

で、これは私がツイッターでも度々愚痴っている部分ですが、“N’EX”のカギカッコ(quotation mark)は固有名詞に使うものではありません。人が何か言ったことを引用するからquoteなのです。そして日本に初めてやってきて空港から都内に行こうとする人がN’EXと書いてあるのを見て、これが成田エキスプレスという電車の名前だということを知っている・わかる人がどれだけいるでしょうか? 考えてみてください。もしかしたら成田という空港名だって知らないかもしれない。東京に行く時の空港、って認識かもしれない。つまり、わかっているのはTOKYOに行くためのAIRPORTだということだけです。「で、N'EXってなぁに?」っていう反応だと意味がないんです。

なので、この看板の最大の失敗は、ぱっと見で、空港から都心に行く電車のことを言っていることさえわからないということです。この場合、いちばんわかりやすいフレーズはAIRPORT SHUTTLEです。これなら世界共通で空港とその周りの都市を直結する乗り物なんだな、とわかります。

同じようにMORE ECONOMICALという言葉もいただけません。Economicalというのはマクロ経済の上で「経済的」という意味だからです。個人向けに「もっとお安く」というのなら、more affordable、more inexpensive, ぶっちゃけcheaperでいいかもしれません。私の提案としては以下です。

AIRPORT SHUTTLE NARITA EXPRESS
BUY ROUND-TRIP TICKET AND SAVE!

よく見るとその下に

About one hour from Narita Airport to Tokyo!
Trains operate at approximately 30-minute intervals.

とまぁ、これも長ったらしくって、回りくどい。

1時間ぐらいなら1時間でいいんです。1時間4分もかかったじゃねーか、くそ駅長が!みたいな思考回路を持っているのは日本人だけですから。感覚もだいたい30分おきなら30分おきと言って結構。時間によってそんなに頻繁に走ってないことぐらい、当たり前。これを必要最小限に表現するとこうなります。

ONE-HOUR TO TOKYO EVERY 30 MINUTES

この看板を読んでいる時点で成田空港にいるんだから、「どこから」なんていらないし、電車のことを言っているのも言わずもがな。最初のONEが「1」ではないのは文頭にあるから、というのと、1って見落としやすいので、こう書く方が読みやすいからです。さらに言えば、アメリカのマスコミで一般的に使われているAPのスタイルブックでは、文頭の数字は全てスペルアウト、文中でも1〜10の数はアラビア数字を使わずスペルアウト、というのが基本ですし。

どうです?たった7ワード。もう少し大きいフォントが使えますね。

回りくどいわりには、大事な情報が入ってなかったり、小さすぎて読みにくいのもアウトですね。この看板で気になるのは、じゃあ往復で買ったらいくら節約になるのかということ。海外からやってくる人たちにしてみれば、スケジュールが固まってなくて、帰りは東京都圏以外から成田に行く可能性もあるし、紙のチケットで買っておくと、旅の途中で失くしてしまうかもしれない。使わないから、って払い戻しが効くのかも知りたい。そういうリスクを自分で計算して、往復券を先に買っておいた方が得だ、と感じてもらえれば、買う気になるわけです。

ということで、せめて通常料金で往復の成田エキスプレスに乗った場合との比較で、どのぐらい安くなるのかを書いておいてもらわないと、「お安くて4000円になる」じゃ、ちっともわからない。自分が買うべきかどうかも決められないというわけです。

毎日同じ定期券を使って、同じ通勤ルートで、同じ日本人と同じ職場で働いて、同じような日常を送っている、おっさん集団から見ると「お得感」あるのかもしれないけど、旅人がお金を出すときのリスクとか、予定外の行程の可能性ってものが全然わかってないからこうなった、という気がします。

しかも最後に小さい文字で日本のパスポートを持っている人はダメです、だって。私もここでやっと自分には最初から読む必要さえなかった情報だとわかって、時間を無駄にさせられてチョッピリムカついたわけです。

チクショーついでに右下も読んでみたら第1ターミナルのみでの販売ですと。長い空の旅の後で、第2ターミナルに降り立った人が、どのぐらいお得かもわからないこの往復券のために、わざわざ第1ターミナルに行くかっつー話です。こういうの、せめてどのターミナルからでも買えないと、意味ないでしょ。不公平だし。

で、そこに横から見た成田エキスプレスが描いてある理由もよくわからない。こうなるとさらにイラつくだけ。

ということで、これはもう英語の問題を超えて、「お得な往復券」というサービスや発想自体がダメダメなことがわかる看板ですね。「Enjoy Girls」に負けずとも劣らない残念案件かと。・

最初はこのコラム、英語について書いた有料マガジンに放り込もうかと思ってたんですが、こうなった以上、なるべく多くの人に読んでもらって、日本の「おもてなし」が単なる一方通行の独りよがりの押し付けになっているんじゃないか、いろんな人に考えて欲しくなったので、普通に無料で公開としておきます。

有料マガジン購読者の方は、こういう添削なら喜んでいたしますんで、ネタ提供と思って「これはどうよ?」ってものを知らせてください。

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