見出し画像

The Interview、一足先に観た感想

クリスマスイブに観ちゃいました、The Interview。劇場公開は明日のクリスマス当日ですが、お天気悪いし、いちばん近いブルックリンの映画館ではすでに初日分が売り切れていたので、ソニー特設サイトで1日早くストリーミングで公開されていたのをレンタルしてみたというわけ。

このおバカ映画に関する大騒ぎが日本でどのぐらいまで報道され、理解されているのかはわかりませんが、個人的には表現の自由に関するアメリカ企業と北朝鮮の攻防が大きな問題を投げかけた事件として受け止めています。(普通なら、「ブローマンス」と呼ばれるこの手のコメディは観ないんですがw)

映画そのものの感想は下の方にあるので、そこだけ知りたい人は次の部分を飛ばしてもらっていいです。ただし、あらすじやセリフのネタバレのオンパレードです。映画を観る予定のある人は読まない方がよろしいかと。

———————————————————————————

・ソニー・ピクチャーズ、および親会社ソニーが受けたダメージ

対応によっては、さらに企業イメージが下がった可能性もあり、すったもんだの末、公開に踏み切ったことは評価しますが、ハッカーの内部情報漏洩によって色々とマズい社内問題が晒されたこと、いったん非公開の決定をしたことで、オバマ大統領にまで小言をちょうだいするなど、マイナスも多かったでしょう。

まず、公開前からハッカーの攻撃を受けて、ソニーの企業としてセキュリティーの脆弱性が暴露されたこと。アメリカの企業はそれこそエンタメ(特にゲームソフトの会社)企業から、チェースのような大手銀行、大勢の顧客のクレカ番号を預かるターゲットのような量販店に至るまで、日々(おそらくロシア筋や中国筋の)ハッカーから狙われているわけですが、ソニー・ピクチャーズでは社内ネットワークのパスワードを一括してファイル名に「パスワード」と名前の付いたファイルで管理していたのがバレたりして、ソニーはこれから情報管理にもっと膨大なお金と人材をかけなければならないでしょう。

その他にも外に漏れた社内情報として、男女間の給料格差も指摘されていました。これは他のアメリカ企業でも程度の差はあれ、起こっていることですが、親会社のソニーが日本の企業だと「ああ、日本は職場の男尊女卑がひどいからねぇ」と納得されてしまい、ネガティブなステレオタイプを裏付けてしまう結果になりました。

そして、漏れた社内メールでは、エグゼクティブ同士が啀み合い、罵り合っている様子がわかってしまいました。ハリウッドに限らず、クリエイティブな仕事をしている人たちはいかにリベラルを装っていようと、常にpolitically correctに言葉を選んでいるわけではないのだなぁ、とメッキが剥がれることに。具体的に言えば、黒人向けの映画タイトルが並べて、オバマ大統領が観てるのはこういうのじゃない?と茶化したり、アンジェリーナ・ジョリーのことを「ちょびっとしか才能のない甘ったれお嬢ちゃん」と言っていたり、低俗な言葉を使って同僚の悪口や脅しなど、エゴ丸出し。

この映画はそもそも日本では公開予定さえなかったらしく、個人的には、この映画のクライマックスシーンで、金正恩が死ぬ場面について、ソニーの平井さんがプロデューサーに宛てているメールからも、日本の上司の「甘さ」や、クリエイティブで自由な映画作りよりも、政治的な気遣いを優先させていることが伺えます。英語は流暢でも、部下に宛てて「先日は電話で話せてよかった」などと挨拶にもなっていない余計な文章が冒頭にあるメールだったり、「あともう少しソフトにすればそれでオッケー」などと曖昧な判断でキチッと細かい指示ができていなかったり。そもそもアメリカの子会社が作る映画の内容に口を挟むところからタブーなのですが、介入するならするで、何がダメで、どこまでならいいのかということも伝えられない体たらくです。

さらにハッカー集団は「これから何年もリークし続けられる情報量がある」と脅しているため、ゴシップねたの火消しも大変そうです。ソニーは弁護士を通じて面白おかしく取り上げているマスコミ相手に「おたくがやっていることは漏洩情報、つまり違法に手に入れた盗品と知って、それを売っているのと同じです。覚悟しておいてくださいね」みたいな手紙を送りつけていますが、実際に訴訟を起こしてもさらに弁護士費用がかさむだけで、ダダ漏れになっているスキャンダルを止めることは難しいでしょう。

というわけで、今回の騒ぎのおかげでこの映画が話題になり、人を集めることができた、というのは間違った結果論です。たかがコメディー1本を宣伝する代償としてはダメージが大きすぎました。

・公開するのか、しないのかまでのflip-flop(手のひら返し)

ハッカーによる被害と、テロ行為の予告によって、ソニーはいったんこの映画の劇場公開を諦めました。正確には、上映するかどうかは各映画館の判断に任せたところ、ほとんどすべての映画館が辞退して、実質的な公開中止となったものです。通常、映画製作のスタジオと全米の映画館との間には、きつい縛りの上映契約が交わされてて、劇場が判断する権限はまったくありません。それを映画館で決めてくれというのは単なる責任の放棄です。数年前にコロラド州でDark Knight Risesというバットマン映画の公開初日の劇場で、男が催涙弾を投げ込み、銃を乱射した事件があった時も、その映画は上映され続けていたくらいですから。

しかもGOP(Guardians of Peace平和を守る者)を名乗るハッカー集団が実際にテロを起こすことは難しいとされていました。公開中止に追い込まれたソニーは、それも映画客の安全のための措置だという善意があったのかもしれませんが、これは一企業の判断だけでは済まされず、表現の自由、報道の自由を謳うアメリカの基本理念に反する行為として大いに批判されました。映画館の来場客の安全を優先したと褒めるところはなく、おそらく実際にテロ行為があったとしてもソニー・ピクチャーズを一方的に責める人はいなかったでしょう。

これは「The Interview」が良質のアートやエンタメではなかったから、ということとはまったく関係ありません。むしろ、アメリカにおける表現の自由というのは、低俗なエロや、お下劣なバカ映画も、高尚なアートと同じ自由を享受しなければならないのだという思想に基づいています。(参考までに拙ブログのこのエントリーをどうぞ)そこには、アートの優劣や、わいせつに当たるかどうかを決して政府や警察に決めさせてはならないという考え方があるからです。

ソニーのこの決定は、内部情報の漏洩以上の波紋を広げました。俳優ジョージ・クルーニーは映画産業の重鎮たちを集めて正式にソニーに抗議して、せめてオンラインでの公開を要求しようと奔走していましたし、大統領さえも公的な場で「ハッカーに屈するのはけしからん」と批判しました。私が身を置く出版業界でも多くの著者からなるPEN協会が公開状でソニーに中止の決定を再考するよう求めていました。

———————————————————————————

というわけでネタバレを含むThe Interviewを観た個人的な感想です。

正直に言えば、オープニングシーンから失笑を禁じ得ませんでした。in spite of myselfという乾いた笑いですが。だって、チョゴリ姿の女の子が「♪ 火の玉になって燃えちまえアメリカ(「やんき」って聞こえるんだけど)、傲慢でデブなヤンキーどもよ、飢えて病気で苦しめ、♫ 自らの血とウンコの海に溺れろ〜」って笑顔で歌ってるんですよw

これって、普段は北朝鮮のニュースなんかめったに耳にしないアメリカ人が聞いたら、イカれたジョークだよね、って思うだろうけど、実際に、これに近い反アメリカのプロパガンダ流してるもんなぁと複雑な思いの笑いですね。かの国のニュースを読み上げるアナウンサーの声を耳にしている隣国の人間としては。

この映画の主人公コンビは、ジェームズ・フランコ演じるデイブ・スカイラーク(美空ひばりじゃなくてデイブひばりw)というインタビュー番組の司会と、マネージャーであり番組プロデューサーであるアーロン・ラパポート(セス・ローゲン、彼がこの映画の脚本家)。冒頭の番組でインタビューされてるエミネムがポロっとゲイであることをカミングアウトしたり、ハンサム俳優のロブ・ロウがいきなりカツラをとって薄らハゲを晒すとか、もしかしたらオプラ・ウィンフリーや黒柳徹子よりもすごいインタビューの才能があるのかもしれないけど、やっぱりおバカなひばり君。北朝鮮に着くなり「コニチワ!」ってw

男性向けの映画なので随所に『指輪物語』ジョークが埋め込まれています。「ブローマンス」というのは、フロードとサムワイズの男の友情を(照れもあるのか)揶揄してます。それだけでなく、マッチョでなければならないアメリカ人男性の苦悩に踏み込んだジョークもあって、この辺は平気で男性が女装できる(イケメンであれば、まぁオジサンもいるけど)日本とは違うなぁと思いました。アメリカ人男性は、ケイティー・ペリーの曲や、爪楊枝のミニ傘でデコった甘いカクテルが好きだったり、かわいいワンコ相手にデレデレしてはいけない、みたいな刷り込みがあるんですよね。(ちなみに私はケイティー・ペリーのFireworksはけっこう好きな歌だったんだけど、これからは真顔で聴けないかも。)

そんなことを気にしないヒバリ君は、ちょっとオネエの入ったバカキャラなんだけど、だからこそ誰もが言えない本音や理想をズバッと言ってしまうことも。例えば、いきなり現れたCIA局員が若い女性だったのをアーロンが「これは罠だよ、色仕掛けで説得しようと美人局要員を出してきたにちがいない」と言ってもデイブは「ナニ言ってんの? 今は2014年だよ。それとも若い女性がCIAで大事な仕事を任されちゃいけないの?」みたいなことを真顔で言うわけです。Ouch。

映画の予告編でも、この2人がCIAに暗殺を頼まれる場面で「take him out(殺してほしい)」と言うのを「連れ出してほしい」と勘違いして「どこへ? 飲みに? それともキムチ鍋食べに?」となかなか理解できないシーンが使われていましたが、映画を観て、なんで2人がそこまですっとぼけていたのかもわかりました。前夜に2人でエクスタシーでラリってまだ二日酔いの状態だったんですね。

セス・ローゲンが映画公開前のジャンケット(=前パブのマスコミ周り)で、北朝鮮についてどうしても理解できないこと2つは、本当に国民はそんなに飢えているのか?ってことと、国民は金正恩がウンチもおしっこもしないと本気で信じているのか?ってことだと答えていました。これが映画の随所に出てくる下ネタジョークになっています。

ということで2人は、デイブが握手すると手に貼り付けたテープから猛毒リシンが漏れて時間がたってから死ぬ、という方法で暗殺することを引き受けるのですが、そのテープに関する体を張ったギャグもてんこ盛り。このあたりはドリフターズの「8時だよ!」から連綿と続く万国共通のおちゃらけですね。毒テープの入ったカプセルをお尻の穴に隠すとか、小デブで毛深いヌードを晒すなど、セス・ローゲン体当たりです。よく頑張りました。

50分を過ぎたあたりで金正恩が登場。英語が流暢ですw。で、デイブと戦車を乗り回したり、バスケをしたり、喜ばせ組に接待されたりで、急に仲良くなっちゃうんですね。お互いに厳格な父親から「もっと男らしく、立派な人生を送れ」みたいなプレッシャーを受けてツラい思いをしていることがわかったりして。そこで若将軍さまが「みんな僕のこと神様扱いしちゃって本当はイヤなんだ。そうじゃないってこと、僕があっさり死にでもしないとわかってくれないのかも」というのが暗殺に至る伏線になってるわけです。いいヤツじゃんww

一方、アーロンはインタビューの段取り担当の女性と仲良くなっちゃって、ベッドイン。彼女もまた祖国を愛するがゆえに、体制と将軍様の神格化に不満を抱いていることがわかっちゃうという設定。暗殺計画がバレたとき、彼女はこう叫びます。「何度アメリカは間違いを犯せば気がすむの?リーダーを殺したところで何も変わらないのに!」って。これって、サダム・フセインの件を含む、戦争大好きなアメリカの帝国主義をきつーく批判した言葉になっていて、アメリカのおバカコメディー、侮れません。Ouchその2。

そんなこんなで肝心のインタビューは最後の30分ぐらいでカタがつきます。最初は「カラオケが得意なんですって?」「絵も上手ですよね(ってこれがどうしてもバカ息子ブッシュに対する皮肉としか思えない私でしたw)」っていう脚本通りのソフトな質問。金正恩が「世界でいちばんたくさん核兵器を持っているアメリカが何を偉そうに言ってんの? うちらが南北に分かれちゃったのもアメリカのせいじゃん」って調子に乗るあたりで、デイブが「じゃあそのお国のために戦った大切な国民をどうして飢えさせているの?」って切り返して、泣き落とし。前述のFireworksを聞いて、第一書記、ウンコを漏らすほどに焦り始める。

この間、放映を止めさせようと、北朝鮮側のスタッフとセス・ローゲンが指の噛み切り合い(もちろんこれも指輪物語ジョーク)を始めてスタジオはスプラッター状態。グロも頂点に達したところで、ランボー並みの銃撃戦となり、戦車で逃げ出す2人を追いかけ、ついでに核ミサイルも飛ばそうとする金正恩。基本的に、おバカで良い子キャラのデイブが自ら暗殺に至るモチベーションとして、先に将軍さまがデイブを撃った、ということと、核戦争が始まるのを止める、という大義が加わっていたんですねー。(それと、お店で売られていたグレープフルーツが偽物だったことにもずっと腹を立ててますw)そこに将軍さまが伝えたかった「僕は神さまじゃないよ」メッセージ。そりゃ、このシーン、どんなに平井さんが反対しようとも削れないはずです。

最後のジョークは、インタビュー直前に将軍様にプレゼントされた子犬にすりすりしながらデイブが「誰もワンコを食べないアメリカに行こうね〜」ってところでしょうか。これが冒頭のアンチアメリカの歌に呼応したジョークになっているんでしょう。

というわけで、さすがハリウッド、その後の北朝鮮でもアメリカでもハッピーエンドな展開となっています。バカバカしいんだけど、やっぱり笑ってしまいました。何の騒ぎもなく、公開されていれば私は映画館に行かなかっただろうし、ケーブルテレビでひっそりと放映されていたとしても見なかったと思います。つまり、ひとときキャハハと笑える程度の映画で、ここまで騒ぐ必要があったんだろうか、と。でもまぁ、自虐ジョークの類が許されない独裁国家ではスルーすることもできないというのもわかります。

この勝負、引き分けってことで、北朝鮮もアメリカもいいんじゃないかな?

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?