手書き分光器光路

note 55: 分光器設計 その5(迷光)_edit1-190831

note 55: 分光器設計 その5(迷光)_edit1-190831

多分、分光器の設計で一番難しい要素「迷光」について書いてみる。
本質的に、分光器の迷光は設計できない。

もちろん、余分な分光成分がどこに飛んでいくかは予想可能だ。ただし、光は詳しく見ていけば多重反射があり、ここまでくるととても予想できない。
では、どうするのか?

結局、経験とカンである。
「トライ & エラー」+「経験とカン」。

とてもやっかいだけれど、だから設計って面白いとも言える。

迷光の成分は主に以下の2つ

 A.多次光
 B.多重反射

これに対応する方法は主に以下の2つ

 C. 光素子の配置(マウント)
 D. 筐体の材質


D.についてはあまり知見がない。私が経験した方法について以下箇条書きしてみる。

・筐体は主にアルミで作るが表面の色は基本黒。しかし単純な黒では表面のテカリが強くて反射率が高い。なので、「つや消しアルマイト」、「梨地アルマイト」等の表面処理をする。

・その他、塗装する方法もある。→つや消し塗装
 ただした、有効な塗装方法は知らない。

・起毛(ケバケバ)を筐体内部の表面に貼る。
 ↓
 市販品で使ったことのある
 光吸収暗幕シート:エドモンド製
 https://www.edmundoptics.jp/f/light-absorbing-black-out-material/11682/

今までは、私が気になった回折格子、分光についての記事を先に書いてきた。
しかし、そもそも回折格子って何?、回折格子で分光できる原理は? という基本的なことについては書いてこなかった。
詳しく知りたい方は、以下の島津製作所のHPの資料が分かりやすい。

回折格子(グレーティング)の解説:島津製作所https://www.shimadzu.co.jp/products/opt/guide/index.html

回折格子の分光できる原理を理解する為の理論式はとてもシンプルである。
これさえ理解出来れば、回折格子を使った分光器は設計できる。

この理論式の説明も以下の島津製作所のHPの資料が分かりやすい。

回折格子方程式:島津製作所
https://www.shimadzu.co.jp/products/opt/guide/03.html

以下、引用:
https://www.shimadzu.co.jp/products/opt/guide/02.html
図2-1, 図2-2 のように、入射光と回折格子法線とのなす角(入射角)をα 、回折光と回折格子法線とのなす角(回折角)をβ とすると、以下のような関係式が成り立ちます。図 2-1 のような透過型の場合は光路差がCA-BD となり
同様に図 2-2 のような反射型の場合は、光路差が CA + ADとなり

その5-図2-1回折格子の原理(透過型).png

その5-図2-1回折格子の原理(透過型)

その5-図2-2 回折格子の原理( 反射型).png

その5-図2-2 回折格子の原理( 反射型)

以下、引用:島津製作所
https://www.shimadzu.co.jp/products/opt/guide/03.html
その5-回折格子方程式.png

その5-回折格子方程式

回折格子による分光に必要な式はこれだけである。
これだけ覚えておけばOKである。
回折格子で分光できる原理は単純に、以下の回折格子方程式で説明できる。
とてもシンプルである。


m=0の時の光(0次光)は全ての波長で直進するために、0次光では波長分離できない。これは、端的にいえばただの平面ミラーで正反射している現象と同じである。

実際の回折格子の構造は以下のようになっている。
但し、その構造は非常に微細なため虹色に反射するミラーにしか見えない。


以下、引用:島津製作所
https://www.shimadzu.co.jp/products/opt/products/grating/p01-1-4.html
AMF(原子間力顕微鏡)
その5-ブレーズド ホログラフィック 回折格子のAFM 写真.png

その5-ブレーズド ホログラフィック 回折格子のAFM 写真

以下、引用:島津製作所
https://www.shimadzu.co.jp/products/opt/guide/07.html
その5-反射型グレーティング.png

その5-反射型グレーティング

身近にあるもので、これに似た周期微細構造の物がある。CD, DVDなどである。
CD,DVDも裏面を見ると虹色に反射するミラーに見える。

Webで探すと、CD,DVDを回折格子の代わりに使って簡易的な分光器を作る記事があるので、興味のある方は挑戦してみてはどうでしょうか。

以下、引用:島津製作所
回折格子の自由スペクトル領域
その5-回折格子の自由スペクトル領域.png
https://www.shimadzu.co.jp/products/opt/guide/06.html

その5-回折格子の自由スペクトル領域

先に説明した、回折格子方程式から分かるように波長λの光が回折格子に入射すると、mの値によてていりいろな角度に回折します。しかもmはプラス、マイナス両方の符号で成り立ちまます。mは整数のため回折各βは飛び飛びの値をとります。

例えば、+1次光を使う設計にしたとすると、その他の0次光、-1次光、±2次光、±3次光... は全て不必要な光になる。

分光器内に配置された光学素子(回折格子、ミラー等)では、+1次光以外の光が多重反射して、+1次光が届く範囲に入射してしまう場合がある。
更に、+1次光でさえも検出器の反射等により入射方向へ戻ってしまう場合がある。これらを入射スリットから入射してくる全ての波長範囲で考慮する必要がある。

分光器の設計では様々な特性を改善しようと様々な取り組みがされてきた。その中の一つに光学素子をどのように配置するか(マウント:以下マウント)がある。この配置により迷光を改善できる場合がある。

分光器のマウントの種類にていては以下の文献「Diffraction Grating Handbook」を引用した

chrome-extension://cbnaodkpfinfiipjblikofhlhlcickei/src/pdfviewer/web/viewer.html?file=http://optics.hanyang.ac.kr/~shsong/Grating%20handbook.pdf

その5-ツェルニターナーマウント_p77_Diffraction Grating Handbook.png

その5-ツェルニターナーマウント_p77_Diffraction Grating Handbook

その5-モンクギルソンマウント_p80_Diffraction Grating Handbook.png

その5-モンクギルソンマウント_p80_Diffraction Grating Handbook

その5-リトローマウント_p81_Diffraction Grating Handbook.png

その5-リトローマウント_p81_Diffraction Grating Handbook


最もポピュラーなマウントがツェルニターナー型である。
これをさらに改良した変形ツェルニターナー型もある。


今回は、変形ツェルニターナー型マウントの光路例を紹介する。
赤:400nm
青:295nm
緑:190nm
回折格子: 1200本/mm

その5-変形ツェルニターナー型マウント+コメント.png

その5-変形ツェルニターナー型マウント+コメント


この二次元の光路図を3Dモデリングした図。
その5-光路図_変形ツェルニターナー型マウント.png

その5-光路図_変形ツェルニターナー型マウント

まだミラーの最適化をしていないためスポットは大きく、波長により差がある。
その5-スポットダイアグラム.png

その5-スポットダイアグラム

#分光器

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