みんなちがう夢をみた

1996年、映画界に飛び込んだ。仕事は映画の宣伝で勤めた会社は表参道にあった。10時出勤。映画業界は始業がおそいので、11時に他の人はやってくる。10時に来るのは、下っ端三人のみ。ひとりは私より前からいた事務の女性。もうひとりは、私が入ってすぐに「求人をしていませんか」と電話してきた男性だった。同じ年ごろだったので、掃除や雑務をしながら、三人でいろんな話をする。上司のいないそのひと時があったから頑張れたのかもしれない。

その頃は理不尽なことを言われてもガマン、とにかく我慢。がむしゃらに働いて、終電ギリギリに原宿駅まで猛ダッシュ。そんな毎日だった。
ある日、一人が言いだした。
「昨日の夜、夢みたんだよね」
「えっ、俺も」
「あっ、私も」
「どんな、夢?」
「会議の資料をコピーしているんだけど、止まらなくなって大慌てしていたの~」
「俺はMacで試写状の宛名シール印刷しているんだけど、途中でフリーズして大パニック」
「わたしは原っぱに映画のチラシを撒いていたんだよね」

この会話からどんなにプレッシャーを感じていたのかがわかる。
「渋谷中に撒いてきて」と言われて、大量のチラシをカートにのせて、地下鉄にのり、階段を昇り降り。2時間後に大半を撒いて戻ったら「遅い!」と上司に怒られた。同潤会アパートのすべての店を回ったこともある。「原宿中の美容院にチラシを置いてきて」と言われて、一人ではとても無理で、大学生の弟をバイトに雇ったり。
今の宣伝マンにはきっと考えられないことだと思う。そんなこと言われたら辞める人が大半かも。でも、その経験があるから今があるのだと私は思う。映画のチラシは配らなければ、ただの紙。でも人が手に取ると初めて映画のチラシになる。そんなことを知った日々。

23年も経った今も時々思い出す。彼女と彼は元気だろうか。
本音でケンカもしたし、励ましあった。長い期間ではなかったけれど、今も元気でいて欲しいなと思う二人。
#映画 #映画宣伝 #駆け出しの頃

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?