柔らかな朝#3

私たちは、ぽつりぽつりと話したり、あるいは心地よい沈黙を味わいながら、ゆっくりと朝食をとった。
彼が話すのは、森の中でさえずる小鳥の名や、街に品揃えの良い楽譜屋を見つけたこと、私が調剤した頭痛薬が大変によく効いたことなど、他愛のない内容だった。

彼は自分の過去を話そうとしなかった。
森の中で薬草を摘んでいる最中に、全身に深い傷を負い、瀕死の状態で倒れている彼を偶然発見したのが1か月前。身なりから、異国の軍人だということだけは分かったが、何時誰に怪我を負わされたのか、どういった経緯でこの場所に辿り着いたのか、彼は話そうとしなかった。私は何も聞かずに、医師の指示のもとで傷薬や消毒薬を作り彼の手当をした。彼は一晩で意識を取り戻し、1週間後には歩けるようになるまで回復した。私は、心身の傷の回復を待たぬまま旅立とうとする彼を引き止め、私の家でしばらくの間暮らしてはどうかと提案した。義の精神を持つ彼は朝の弱い私に代わって朝食を作り、家賃や生活費などを稼ぐために国立防衛軍に加入したのだった。

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