なぜNPBには故障者リストが導入されないのか、よく考えたら当たり前のことだった。

プロ野球ファンになれない伊良幡です。
初投稿です。

今回はNPBに故障者リスト(IL)が導入されないことについて考えた内容をまとめます。


結論から述べると、NPBにILを導入することは現行制度では不可能だと思います。
NPBには向いていないという方が正しいかもしれません。
ILを導入しているMLBと比較すると、NPBには3つの特殊な環境があるため、この差異を考慮せず形だけMLBを真似ても、意図したような機能を果たせないと考えます。


NPBは支配下登録枠が広い

ご存知の通り、NPBの支配下登録枠は最大70名です。
一方MLBでは「ロースター枠」がそれに該当し、その人数は40名と制限されます。つまり1シーズン162試合をたった40名で戦うのです。
※ベンチ入りは現時点で26名。
それ以外のマイナー契約の選手にもシーズン中の昇格(コールアップ)のチャンスはありますが、いずれにせよ、この枠の狭さがILのシステムを必要としているのです。

簡単な例を挙げます。
ロースター枠40名の中で故障者が発生したら、マイナー契約の選手を繰り上げ補充しようと考えると思います。
それは問題ないのですが、MLBでは「誰が降格するのか?」というリスクが付きまといます。

というのも、ロースター枠の昇降格は契約の形で行われます。
これはNPBの一軍登録/抹消ではなく、育成契約選手を支配下登録に昇格させるイメージを持つと分かりやすいと思います。
当然、昇格する選手の代わりに誰かのメジャー契約を破棄してロースターを空ける必要があります。こちらはDFAと呼び、日本では自由契約と翻訳されます。
つまり、繰り上げ契約の前に誰かを自由契約にしなければならず、自動的に全球団にウェーバー公示に掛けられることになります。
これが大変なリスクになるのです。

ご存知の通り、ウェーバー期間内は自球団の保留より他球団の獲得意思が優先されます。
ウチなら故障中でもメジャー契約する」という太っ腹な球団が現れたら、その瞬間に移籍されてしまう訳です。
ですから、できるだけDFAを避けたいのが球団の思惑です。故障したとて主力ならばおいそれとDFAする訳には行かないので、出場できないのにロースターに残留。上げにくく下げにくいシステムで無理をするとどんどん枠を圧迫してしまい、最後には……
という風にもなりかねないので、ILが導入されたのです。

システムは結構簡単で、ILに入れられた選手はメジャー契約を維持されつつ、ロースター枠が開放されるだけです。したがって球団はDFAを行うことなく枠を空け、代替選手とメジャー契約を締結できます。
もちろん、ILから復帰する際は枠空けのためいずれかの選手をウェーバー公示に掛けるのですが…こちらは後述します。

さて、上記のシチュエーションをNPBに当てはめてみましょう。
故障者が発生したら、NPBでは二軍にいる支配下登録の選手を昇格させるだけです。特に契約もDFAも必要ありません。
ただそれだけです。ILを利用する機会がありません。

支配下登録枠が70名もあるNPBでは補充の必要性が高くない
これが1点目の理由になります。

NPBは補充先が少ない

先ほど述べたようにMLBではロースター枠が狭いですが、補充先は非常に豊富です。
基本的に移籍は活発ですし、何より傘下のマイナー球団を4つも保有しています。
どのポジションや役割であろうと、必要とあらばすぐに補充ができる環境と言えるでしょう。

比してNPBはと言うと、支配下登録枠は70名あれど他の補充先は殆どありません。
この環境で大至急支配下補強をしなければならないシチュエーションがあった場合、残された選択肢は「育成選手の繰り上げ」乃至は「海外で飛び込み契約」程度でしょう。
実力の満たない育成選手か、外国人登録枠の制限下でそう都合よく緊急補強ができるものか、代替選手が機能しないリスクを承知で行うことになります。
果たしてそれを補充と呼んでよいのか、どうか…。

という訳で、ILで枠を空けても埋められる選手がいないので、あってもしょうがない。
これが2点目の理由になります。

NPBはシーズン中の再契約が不可

慣例的な事情です。
不可ではありませんが、NPBではシーズン中の「育成再契約」(≠マイナー落ち)が事実上不可です。

MLBでは、「故障していたA選手が復帰するから、ロースターのB選手をDFAして枠を空ける」ことも支障はありません。
よく日本人選手がシーズン中に突然自由契約になり、その後すぐ移籍先が決まる、というケースがある通り、MLBはトレードもDFAもしょっちゅうあることなのです。
しかしNPBではこれができません。
もし「A選手が復帰するけど、枠がないからB選手を自由契約にする」なんて補強を行えば、たちまち大バッシングになってしまうでしょう。

話は逸れますが、似たような例がありました。
遡ること2007年、当時中日ドラゴンズの支配下登録選手だった金本明博投手が、シーズン中の野手転向に伴い、球団からの育成契約の打診を了承し、支配下契約の破棄を行うために規定のウェーバー公示に掛けられたことがありました。
しかし選手会はシーズン中の育成降格に反対する立場を取って猛反発し、最終的にはウェーバー公示ごと取り消され支配下契約の維持が決定したことがありました。

こうした事例もあって、NPBではシーズン中の支配下登録選手の自由契約はタブーとなっています。ルール上は可能ですが、慣例的に許されないのです。
支配下登録となったら支配下登録で過ごすことがほぼ保証されており、その前例を作ったのは選手会に他なりません。
したがって、選手会は育成降格の可能性があるIL制度に反対の立場を取らざるを得ない
選手会が了承しなければ導入も叶わないでしょう。これが3点目の理由です。


長くなりましたが、NPBに故障者リストが導入されない理由はこんな所だと思っています。
それでもILを導入するなら、NPBは少し時代を戻って
・ロースター的な一軍登録制限の復活
・ドラフト外入団の復活と外国人登録枠撤廃(補充先の自由化)
・シーズン中の自由契約や育成降格の容認
などをやり直す必要があると思います。
個人的にはそこまでする必要はないと考えています。


余談になりますが、高額育成選手と呼ばれる長期離脱者の契約についても少し触れておきます。
故障したからといっていきなり育成契約にするのは酷い、という声もありますが、球団側は復帰に備えて支配下登録の枠を空けています
なので抜け道的ですが筋は通しているのかと思います。
むしろ、これに対して選手会が育成選手の本質を問うているのがおかしいのではないでしょうか。
育成降格に反対したのは選手会なのに、支配下登録の道を残した育成契約にも反対。稼働できない選手を支配下に残すはずもありません。
自由契約にしろってか?


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