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縁日で|#シロクマ文芸部

咳をしても金魚。咳してなくても金魚。縁日に行ったら、金魚すくいは外せない。

病み上がりで、咳がまだ抜けていないけれど、近所の神社で縁日がある。神様に「早く風邪がちゃんと治りますように」とお参りして、その後に金魚すくいしようと思った。

僕の金魚すくいは、何匹釣れるか…ではなくて、狙った金魚は必ずすくうというポリシーでしている。あの金魚がいっぱい入った水槽の中で、なんとなく「私を捕まえてごらん」と呼びかけているようなヤツを探す。で、そいつをすくうのだ。だから、1〜2匹しか釣らないし、全く釣れない時もある。

「いた!」

僕は、一匹の黒い小さな出目金と目が合った。アイツが「捕まえられるかな」と呼んでいる気がした。赤い金魚がたくさんいる中で、アイツは他の人にも「捕まえてみろよ」と煽りながらスイスイと泳いでいる。僕の隣にいた男の子も「あの黒いのを捕まえて」と、父親にねだっていた。負けるものか!

…コホッ 

咳が出て、ポイの手元が狂う。あと少しのところでアイツに逃げられた。しかも、隣の男の子の父親に釣られてしまった。喜ぶ父子たち。アイツは金魚袋の中から僕に微笑んで、こんなことを言っている気がした。

僕はこの家族たちと幸せになるよ。君も風邪を早く治してね。僕の仲間たちの世話を宜しく頼むよ。さようなら。

僕の金魚愛、伝わっていたのかな。僕が金魚すくいが好きなのは、あの狭い水槽の中から君たちを救い出したかったんだ。みんなは無理だから、少しずつでも。

僕は体が冷えないうちにと家に帰って、玄関先で待っている金魚たちに「ただいま」と声をかけて餌をやった。金魚たちが「おかえり」と言って「風邪こじらせてない?」などと心配してくれている気がした。



(約700字)
あの有名な自由律俳句…をどうしても連想してしまうので、払拭させようとしましたが、なんかイマイチ😅
それでも楽しく書きました。
小牧幸助さん、いつもありがとうございます。

#シロクマ文芸部


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