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元気でね|#シロクマ文芸部

舞うイチゴロウ。仲間たちと一緒に空高く、遠く山へと羽ばたいていった。


春休みに入る前、部活の帰り道に怪我をした鳩を見つけた。初めは死んでいるのかと思ったけれど、避けて通ろうとした時に、バサっと羽根を動かした。片方、折れているみたいだった。

「お医者さんに連れて行ってあげるよ。心配しないで」

僕は鳩に声をかけ、そのまま抱くのは良くないと思い、周りを見回したら、ちょうど鳩が収まりそうなサイズの段ボールがあったので入れた。近くに野生鳥獣保護センターがあるのも知っていたから、そこへ行った。

「あー、右の羽根、折れてますねぇ。このキジバト、どこにいたんですか?」

「そこの農道の脇で、うずくまってました」

「飛び立つ時、電線とかにぶつかったのかな… 君、まず石鹸で手をよく洗って、うがいもしてね。野生の動物は、病気持っていることが多いから。段ボールで運んできたのは良い判断だよ」

「鳩、治りますか?」

「骨折してすぐみたいだったから、治ると思うよ。怪我は我々が面倒みるから安心しなさい。治療費もいらないよ」

「そうですか!宜しくお願いします」

僕は保護センターの人に鳩(キジバト)を任せて帰宅した。

家に帰ってから、ネット検索で鳩のことをいろいろと調べてみた。自宅で怪我の面倒をみるのはやっぱり無理そうだし、野生動物を保護するための手続きとかもあるみたいだし。

春休みになったら、時間を見つけて、あの鳩に会いに行っていた。そして勝手に『イチゴロウ』と名前をつけて「イチゴロウ、早く元気になれよ」と声をかけていた。目の周りの赤がイチゴを連想させたし、僕の名前:一郎とくっつけてイチゴロウ…そう呼ぶことで、何となく僕との縁が生まれて欲しかったのかもしれない。

イチゴロウは、しばらく羽根を動かせずにいたが、固定器具が外されると、すぐにでも飛び立とうとしていた。保護センターの人から放鳥予定日を聞いて、その日は立ち会うことにした。


そして、今日。天気にも恵まれて、風もない。近くに電線など見当たらない田んぼの真ん中で、イチゴロウを放した。

ちょっと傾いて飛び立ったが、すぐに真っ直ぐに天高く舞い上がった。周りから仲間らしい鳩たちも集まってきた。「お前、最近見かけなかったから心配してたんだぞ」と、声をかけられているようだった。

イチゴロウは、久々の飛行に身体を慣らしているようだったが、仲間たちが山の方へ向かう後を追って、やがて遠くへ消えていった。

「イチゴロウ、元気でね」


中学2年の春休みが終わった。イチゴロウの復活の元気をもらって、新学期頑張ろう。



[約1000字]

「あ、『。』が付いてない!」と気がついて、わざと苺じゃない話しを考えました。(そのくせ苺の部分もある)
私って、本当に捻くれ者です😅

#シロクマ文芸部

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