じゃあね|#シロクマ文芸部
卒業の日に有給休暇が取れなかった。課長が「この日は納品の日だから、立ち会わないとダメだろ?」と言うので、しょうがない。納品の日なのは知っていたけれど、システム担当メンバーではあるが私一人くらい居なくたって…とも思っていた。やはりダメだったか。
私には一学年下の彼がいた。一浪なので、歳は同じだけれど学年が違う。私の方が先に卒業・就職しSEとなった。新人教育を終えて配属が決まり、岩手県のダム施設に納める河川水位等データ集配信システムが2度目の担当業務だった。初めての担当システムは都内が顧客先だったけれど、その次の仕事は盛岡まで出かけることになり、本人もびっくりだが私の親の方が「新人で、もうそんな遠くまで出張させるのか?」と唖然としていた。
彼は故郷(九州)に帰って公務員になる。だから、大学を卒業したら簡単に会うことはできない。卒業式が終わったら、すぐに帰郷するので、絶対にその日は会いたかった。入社した時から卒業式には会社を休んででも見に行くと約束していたのに…
「ごめん。卒業式に行かれない。仕事があるから」
「しょうがないよ、仕事じゃね。俺もこれからは故郷で仕事を頑張らなくちゃいけないし。でも、いつかまた会えるといいな。絶対会おう!」
「うん。私も仕事を休める時あったら、そっちに行くよ」
「いつか会おうね」
「元気でね」
電話で話した。手紙も書いた。何枚も便箋を使った。
でも、ちょうど潮時だったのかもしれない。結婚を意識してはいたけれど、どれだけ本気だったかはわからない。いや、私はけっこう真剣だったけど、彼は仕事優先の私に少し気持ちが冷めていたようだ。「仕事と俺とどっちが大事なの?」と思っているのが、なんとなく伝わっていた。女性が「私と仕事とどっちが大切なの?」と問い詰める物語はよく目にしたりするけれど、逆のパターンもあるんだな…なんて思ってしまった。
岩手の仕事の次は、なんと鹿児島になった!九州じゃん。隣の県に彼が住んでいる。ちょっと勇気を出して、彼の実家に電話してみたが「大阪へ研修出張中」とお母さまの返事が。縁がなかったんだな…と思った。後日、彼から電話が来て「今度はいつ九州に来れるの?」と聞かれたけれど、もうその仕事は終わったので… それきりだ。
彼と最後に会ったのは、いつだったのかな…
あぁ、一月だ。あの時、いろいろあったっけ。だから、卒業式で会えなくっても、そしてそれきりになったとしても寂寥感が湧かなかったのかもしれない。
数年後、彼から突然電話がかかってきた。
「どうしたの?」
「声が聞きたくなって。どうしてる?」
「私ね、半年後に結婚するんだ。電話遅すぎたね」
「そのようだね。誰と?会社の人?◯◯くん?△△くん?」
「よくわかったね。△△くんだよ」
「君の手紙に、名前が良く登場してたから」
「当時はあなたと付き合ってたし、あの頃はは全く恋愛感情なかったけれどね」
「しあわせになってね」
「あなたもね。じゃあね」
大学の卒業シーズンになると、なんとなくあの頃を思い出す。
[約1200字]
なんとなくのエッセイ。
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