【ピリカ文庫】新しいクレヨン
子供会のイベントで、大きな公園に来た。春の日差しを浴びて、公園の花壇はきれいな花盛り。木々も芽吹いて生き生きとしている。たくさんの家族が青空の下で地面にシートを広げ、お茶をしたりとピクニックを楽しんでいる。
公園の真ん中にある広場に集合し、お弁当やお菓子が入ったリュックを背負ったまま私たちは全員しゃがんだ。引率係のコウちゃんママが、紙を丸めたメガホンを持って大きな声で挨拶をする。
「たんぽぽ子供会のみなさん、今日はここの公園で写生会をします。クレヨンや色鉛筆など忘れずに持ってきましたか?これからスケッチブックを配りますから、自分の気に入った風景を描きましょう。三時になったら帰ります。二時半までに、この場所に戻って来ましょうね。それでは…解散!」
ワァ〜っと言う歓声と共に、みんなは思い思いの方向へ走っていった。私は途中で見かけた仔ヤギを描こうと思ったけれど、既に二人陣取っている。「噴水もあったなぁ」と思って行ってみたが、そこも人気があった。花壇にも五人位集まっている。できたら誰も描いていない風景を描きたい。
何を描こうかとウロウロしているうちに、真ん中の広場に戻って来てしまった。一学年上の男子たち三人がサッカーをしている。
「そこの女〜、危ないぞ!」
「ここでサッカーする方が危ないでしょ?絵はいつ描くの?」
「うるせーなぁ!後で描くよ」
サッカーボールが飛んでくるのも気になるし、別の場所に行こうと思ったけれど、目ぼしい場所は残っていない。うるさい男子が公園でサッカーしている光景が、なんとなく新鮮にも感じた。そういえば近所の公園は、野球やサッカーとか禁止していたっけなぁ… こんなに広い野原みたいな場所も、あんまり遊びに来たことないかも。
球が飛んで来ないような場所を見つけて座り、男子がサッカーをしている絵を描くことにした。ピクニックをしているどこかの家族の姿も入れることにした。うん、なんだかいい感じ。
私は買ってもらったばかりの36色クレヨンを持って来た。金や銀が入っているのも嬉しいけれど、全然知らなかった色のクレヨンを、どこかで使ってみたかった。『うぐいすいろ』は、鳥のうぐいすを見つけないと塗れないのかな。『はいあかむらさき』なんて、どこで使うんだろう。他にも珍しい色がいっぱい!新しい色のクレヨンは、持っているだけでウキウキ気分になった。
「おーい、そろそろ飯を食おうぜ〜!」
「あ、あの女がまだいるぞ」
お昼近くになったから、サッカーをやめたようだ。そして、私の方に向かってくる。
「何を描いてんだ?」
「何だっていいでしょ?見ないでよ!」
「ケチ女!」
私は一人でお弁当を食べた。男子たちは三人で仲良く食べていた。ちょっぴりうらやましい。
「お前は、友だちいねーのかよ」
「今日は一人で絵を描きに来たからいないの。学校に行けばたくさんいるわよ」
「強がり女だな」
三人はおにぎりをほおばってガハハと笑い、食べ終わるとまたサッカーを始めた。私も最後の唐揚げを口に放り込んだら、写生の続きを始めた。下絵はもう描けたので、クレヨンで色塗りをする。
気がついたら、男子たちが絵をのぞき込んでいた。
「俺たちを描いてたのか」
「意外と上手いじゃん!」
「すげー」
「勝手にモデルにするなよ」と、怒られると思っていたからビックリした。
「褒めてくれてありがとう。みんなは描かないの?そろそろ描かないと時間が…」
「うん、大丈夫。俺たちの描く絵は、もう決まっているし」
「そう。バッチリだもんね」
「それに、君のクレヨン貸してくれたら最高傑作になる予感もする!」
一体どういう意味だろう。三人は地面に座わり、やっと写生を始めた…と思ったら、すぐにクレヨンで色塗りを始めて私の所に来た。
「この色、貸して!」
返事をする前に、さっさと『うぐいすいろ』のクレヨンを持っていき、まだ私が使っていないのにガーッと塗りたくった。
彼らは、サッカーで遊んでいた広場を写生していたようだ。地面と遠くの木々、そして空。『うぐいすいろ』は地面の草の色に使われた。『うすぐんじょう』は空に、『レモンいろ』はタンポポの花になどと、私のクレヨンであっという間に描かれてしまった。
「ひどい!まだ使っていないクレヨンだったのに…」
私は悲しくなって泣いてしまった。三人は、さすがにやり過ぎたと反省し、頭を何度も下げて謝って来た。そして、私の描いた絵のスケッチブックをはさんでこう言った。
「俺たちの絵と並べると… ほら、一つの絵に見えない?」
なるほど、スケッチブック4冊並ぶと、公園のとっても広い広場でサッカーをする少年たちの絵が、生き生きと浮かび上がってくる。
「あ…」
一枚の絵の片隅に描かれた『はいあかむらさき』色をした写生している女の子の姿って、もしかして私?
[約2000字]
花粉症…ではないのですが、鼻詰まりでなんとなく頭がボーッとしている昨今。目が覚める出来事がありました。『ピリカ文庫』への執筆依頼です!
なんと光栄な…しかし、期待を裏切るリスクも大。でも、書いてみたい気持ちが勝りました。
今回のお題は『スケッチブック』。子どもの姿を物語に登場させることが多い私にとって、あれこれ想像(妄想の方が正しいかも)することができました。小学生の頃の思い出も交えて綴りました。
楽しんでいただけたら嬉しいです。
ピリカさん、再び『ピリカ文庫』に声かけしていただき、本当にありがとうございました。
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