TSUNDOKU-BU|#シロクマ文芸部
「読む時間?ないよ。積読部だからね」
能戸高校に進学し、とても気になった積読部に体験入部してみた。
ここの高校にはユニークな部活がたくさんある。筋肉体操部…これは、絶対に「筋肉は嘘つかない!」とか言うテレビ番組の真似だろう。僕に筋肉は必要ないからな。本を持ったりページをめくる程度で十分だから。バーゲンチラシ研究会…?なんだろう?気にはなるけどチラシを読んで何かを研究するのか?でも文学的香りは感じないな。
そう。僕は読書が大好きなのだ。読書部とか文芸部みたいなのがあれば、そこに入ろうと思っているしそういう部活もあるようだが、積読部という名前に惹かれた。僕自身もけっこう積読状態が多いから、それを部活にするとはどういうことなのか大いに気になったのだ。
「積読部って、本を読んだりしないんですか?」
「読む時間?ないよ。積読部だからね」
「じゃあ、何をするんですか?」
「自分の好きなものに囲まれた、最高に気持ちの良い空間を作り出すことさ」
「最高に気持ちの良い空間作り?」
「まぁ、部室に来てみなよ」
図書室の隣にある図書準備室が部室のようだ。そこには堆く積まれた本の山が、そこかしこに作られていたが、何故か雑然とは異なる心地良い凛とした空気を感じた。僕の大好きな本がたくさんあり、どれでも読み放題のようでいながら、その芸術感の漂う空間を壊してはいけない気もした。
「体験しに来たんだろう?少しやってみるか?」
「良いんですか?全然わからない僕でも…」
「あぁ。なんかお前は筋が良さそうだしな」
「ありがとうございます」
先輩に勧められるまま、僕は『タワーリング』というものにチャレンジすることになった。
「あの箱に入った本を、どれでも10冊持ってきて、ここにタワーリング…一山作ってみな」
「サイズとか揃えた方が良いんですか?」
「いや、大きさも本の種類も好きに選んでいいよ」
「わかりました」
わかりました…と答えたけれど、正直わからない。部室の本の山を見てみたら、確かに大きさも本の種類もそろわないまま積まれていた。しかし、何故か心にしっくり来る。同じ形やサイズのものが同じ向きにきちっと真っ直ぐ積まれている息の詰まるような感じはしない。だから… いろんな大きさの本を選 び、とりあえず下の方に大きくて重たそうな本を置き積み上げた。僕でもわかる、平凡感。
「本のチョイスは面白いが、タワーリングはやっぱり初心者だな」
先輩はニヤッと笑って、本の積み順や向きなどを変えた。するとどうだろう、さっきまでの平凡感が嘘のように気品を帯びだした。本が『読んでみたいでしょ?でも、触らないでね』と語りかけているようだった。
「先輩、すごいですね!さすがです!!」
「お、違いがわかるか?やっぱりお前は筋が良さそうだな。どうだ、積読部は?」
「最高に素晴らしい空間作りを楽しめる場だと思いました。ずっとここに居たい気になります」
「そうか。入部、待っているぞ」
僕は積読部を入部希望の第二候補とし、第一希望の文芸同好会へ足を伸ばした。というか、積読部の部室の片隅が文芸同好会の活動場所だった。
「ここは文芸同好会の部室…で合ってますか?」
堆く積まれた本を机代わりにして、何かを執筆している女子に尋ねてみた。
「そうだけれど… どんなご用?ていうか、あなたは物語を創るのが好きな人?そうなら是非入会して欲しいけれど、読むだけなら…積読部と兼部が良いわね」
「何か創作活動しないとダメですか?」
「そうね。ちなみに読み専の会員は、あんな感じ」
女子の指差す先には、本を枕にして読書する男子の姿があった。
「あれが、自称部長と会長よ。私が実質の代表かな…」
僕は絶対に、文芸同好会と積読部(兼部)に入ろうと思った。
[約1500字]
以前自分が書いた話の続編みたいなものになりました。 ↓
そして、それより以前に書いた『積ん読部』のことも思い出しました。
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