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BUNGEI-BU9|#シロクマ文芸部(約1300字)

「紫陽花をずーっと観ていると…」
「観ていると?」
「なんか突然ブワッと、あの小さな一つ一つの花が飛び立って、跡形もなくなってしまう… なんて思ったことないか?」
「ないよ。お前、疲れているんじゃね?」

文芸同好…いや、文芸部の自称部長と会長は、相変わらず部室の図書準備室片隅で、創作活動のネタになるんだかならないんだかな会話をしている。

「紫陽花ってさ、たくさんの小さな花が丸く仲良く集まって咲いているように見えているけれど、実はそうじゃないんだ」
「どういうこと?」

自称部長は、床に転がっていた鉛筆を拾いメモ用紙(没原稿の裏面を再利用)に、ササッと紫陽花らしきものの絵を描いた。自称会長は改めて『こいつは絵が壊滅的に下手だな』と思ったが黙って見ていた。

「この一つ一つの花は、皆んな外を向いてるだろ?こんなにたくさん集まっているのに、お互いを見もしないというか。で、丸く固く集まっている…  何故だと思う?」
「いや、全くわからない。それは植物学的観点として?それとも文学的観点?」
「文学だよ、文芸部なんだから。そうか… あ、これを今度の部誌に『紫陽花の真実』とかいうタイトルで載せれば、真の部長になれるかも!」
「お前、部長になれなかったショックや受験のプレッシャーとかで本当に疲れているんじゃないか?」
「疲れてないよ!失礼な奴だな。俺のほとばしる空想力を馬鹿にするなよ」

二人が言い争っているそばで、後輩がタワーリング(積読部の活動の一つ)をしながら話を聞いていた。

「先輩のさっきの紫陽花の話、僕はとても興味惹かれました。たくさんの小さな蝶が一斉に飛び立つ、そんな光景が浮かびましたよ。今までそこにあったものがパッと儚く消えていくイメージ…を詩にしてもいいですか?」
「いいよ!良い詩にしてくれ」
「なんか調子に乗ってるようにしか見えないぞ」
「先輩、ありがとうございます」
「お前(後輩)も疲れているんじゃないか?」
「タワーリングは神経使いますけれど、紫陽花の話は心に響きました」
「そうか…」

「カオルいるか〜?」

真の部長が現れた。部長は原稿があがると、カオルーー部室にはほとんど顔を出さないが、文章力に長けた眼鏡・おさげな三年女子ーーにチェックを依頼する。

「「「いませ〜ん」」」
「どこにいるんだろう?」
「顧問の福島先生の所じゃないですか?」
「なるほど!職員室か。サンキュ」

「部長は、もう原稿を仕上げたんですね」
「俺たちも書き上げないとな」

自称部長と後輩は、徐ろに机に移動して原稿用紙を出し何かを書き始めた。

自称会長も机に向かったが何も頭に浮かばない。もしかしたら一番疲れているのは自分なのかもしれない…  と、思った。

窓の外を眺めてみる。紫陽花が色付き始めていた。アイツ等が言うように、紫陽花を見ていると蝶とか何かが飛び出してくるものなのか確かめるように、ずーっと見つめていた。

『あの大きな塊一つ一つが雨傘に見えてくるな…』

自称会長の頭の中では、幼児が雨傘をさして大勢集まっている風景が浮かんだ。遠足…だろうか。紫陽花の葉は、さながらジャングルの森のよう。あ、なんか書けそうだ!

自称会長も原稿用紙にペンを走らせる。

『これぞ、文芸部のあるべき姿だわ』

部室の奥のタワーリングされた本の森の更に奥でカオルはにっこりと微笑み、本を机代わりにしてペンを走らせるのだった。

能戸高校文芸部が本格的に活動を始めたようで…

今週もなんとかシロクマ文芸部に参加することができました。いつも素敵なお題をありがとうございます。

#シロクマ文芸部
#紫陽花を

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